身体障害者野球日本代表 初陣は投打が噛み合い快勝 松山から踏み出した世界大会連覇への確かな一歩
全国大会で投げ合う”ライバル”による投手リレー
10:15にプレーボール。日本代表が先攻で始まった。序盤3回まではお互いに譲らぬ投手戦となった。
日本代表の先発は、早嶋健太。毎年11月に開催されている「全国身体障害者野球選手権大会」2連覇中である「岡山桃太郎」の投手で、17年・昨年と年間MVPに輝いている日本のエースでもある。
前回の世界大会でもMVPを獲得し、世界一の原動力となっており、本大会でも日本のエースとして代表を引っ張っていく存在として期待されている。
早嶋は、左手に先天性の障害(左上肢手指欠損)がある。小学5年生から野球を始め、中学から大学まで健常者チームでプレーしてきた。
16年に岡山桃太郎に入団し、身体障害者野球で現在も活躍を続けている。
早嶋は軽快なフィールディングで投ゴロを捌くなど、1回を1安打無失点で抑えた。2回表から、2番手にサウスポーの藤川泰行がマウンドに上がった。
藤川は、こちらも身体障害者野球の名門チームで毎年5月に行われる「全国身体障害者野球大会」で2連覇中の名古屋ビクトリーでエースを担っている。
20歳の時に事故で左膝から下を失い、以降は義足でプレーしている。18年に名古屋へ入団し、打撃でも中軸を打つなど攻守でチームの勝利に貢献している。
この2人は、ライバル同士。春と秋の全国大会では、21年・22年といずれも岡山と名古屋が決勝戦で戦っており、計4試合で全て両者が先発で投げ合っている。しかも、2勝2敗とまさに互角の勝負を繰り広げてきた。
昨年5月の大会時に名古屋が連覇し、大会MVPに輝いた際に藤川は「早嶋君のことは意識していました」と語るなど、常に乗り越えるべき相手として互いに立ちはだかってきた。ただ、ここではチームメートとして最高のリレーが実現した。
藤川も早嶋に負けないピッチングを披露。3イニングを無失点に抑えた。内野陣を中心にバックが堅い守りで投手陣を助け、新田高校に最後まで本塁を踏ませなかった。
ベンチからは、名古屋ビクトリーの監督でもある荻巣守正コーチがイニングの都度出迎えた。
この投手起用の中には両チームの監督間でお互いへの尊重があった。指揮を執った山内啓一郎監督(NPO法人 日本身体障害者野球連盟理事長)は、その裏側を明かしてくれた。
「早嶋投手は1回で交代したので、打席が回りませんでした。
ただ、エキシビジョンマッチでもあったので新田高校の監督さんに了承をいただいたので、もう一度代打として打席の機会をつくることができました」
早嶋は岡山でもリードオフマンを務めるなど、打撃も魅力の選手。1打席でも立てたことはチームにとってもプラスになった。
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