身体障がい者野球チーム「千葉ドリームスター」の成り立ち(後編)

千葉県唯一の身体障がい者野球チームとして、2009年に誕生した千葉ドリームスター。

発足当初は選手集めや大会視察の際に関係者にアドバイスをいただくなど、地道に活動を重ねてきた。そして2017年から3年連続で関東甲信越 身体障害者野球大会で準優勝を収め、チームは軌道に乗り始めた。

これからチームはどんな方向を目指しているのか、そして地域とどんな関わりを持っているのか。今後のビジョンについて語っていただいた。

>前編はこちら

全国で戦い続けられるチームに

―チームの描くビジョンは何ですか?

笹川 理想を言えば、全国で戦い続けられるチームであることです。強豪と言われる関東地区の群馬アトムさんや東京ブルーサンダースさんには絶えず新メンバーが入ってきていると聞いています。常に上位にいるチームであれば人が集まり、さらに強くなって話題になりますので全国で戦い続けられるチーム作りですかね。

と言いながら、ルール上障がいの等級によって出場できる選手を制限しておらず、例えばテニスで言うと、車いすテニスの選手と立位テニスの選手が勝敗を競うことを良しとしているのですが、障がいの軽い野球経験者だけを集めれば良いわけではありません。

あくまでも現在の戦力と、障がいが重くても軽くてもそんな方針に賛同してくれる、これから入団してくれる選手も含め「どこまで挑めるか」ですね。

ましては、例えそんな方針を掲げて万年弱小チームと言われようと、このチームの野球を次世代に繋げていくためには絶えずメンバーを募らないといけないと思います。

今のスタッフはみんな健常者ですが、選手の中で将来的に監督・コーチ・または違った形でもチームに関わっていくのも良いでしょう。自分が野球をできなくなったとしても、選手一人一人が、そういう気持ちを持っていないとこのチームの将来はないと思います。大げさかもしれませんが、次世代、またその次世代に繋いでいくことも私たちの使命かなと。

あとは地域貢献ですね。依頼いただいたら地元の小学校に出向きますし、中学校にも講演会で伺いました。平日なので参加できる選手も限られますが、極力参加するように呼び掛けています。

メンバーを絶えず増やし、次の世代につなぐのも重要なミッションとなっている

―現在、活動の頻度はどのくらいですか?

笹川 月2回の定期練習とグラウンドが確保できればプラスで練習もしくは練習試合になります。練習試合は年間20試合以上で、こちらがグラウンドを予約できていれば市川市内で、後は軽い遠征で市外に行って試合を行うようにしています。

―練習の参加はどんな形ですか?

笹川 自由です。選手は家庭や仕事の都合と調整しながら参加しています。
新規の方も野球をやりたい方はお気軽に連絡をいただいて、まずはグラウンドに来て下さいというスタンスです。

各々が調整してグラウンドに来て練習を重ねている

―チームの活動拠点は千葉県ですが、選手は県外からも来ていますか?

笹川 千葉県在住の選手は約6割くらいです。あとは埼玉県や東京都在住の選手も増えてきました。

―今はどのように選手を集めていますか?

笹川 現在もホームページを見て応募してくれる選手が多いです。あと、選手やコーチが率先してチームのSNSやブログを更新しているので、それを見て応募してくれる選手もいます。あとは、練習や試合以外のイベントに積極的に参加して、それらに載せたりとかですね。

―チームで注目の選手は誰ですか?

笹川 一番若手の土屋来夢選手です。彼は普段ショートを守っているのですが、その守備と足が魅力です。そして何よりイケメンです!

副キャプテンを務める土屋来夢選手

―公式戦は8/18に行われた関東甲信越大会と神戸の全国大会がありますが他にありますか?

笹川 公式戦は関東甲信越大会に加えて、春の全国選抜大会と秋の日本選手権大会、この3つです。関東甲信越大会で優勝すると、11月の日本選手権、準優勝までのチームは、翌年春の選抜大会に出場することができます。
他に公式戦ではないですが、静岡県裾野市で中部東海身体障がい者野球連盟が主催する親善大会「ドリームカップ」があります。

体験会を通じて障がい者とより身近に

―地域貢献活動について伺います。今はどんな活動をしていますか?

笹川 小学校で障がい者野球の体験会を開きました。片手でボールを捕って投げたり、車いすに乗ったりするのですが、子どもたちはすごい喜ぶんですよ。授業の一環なので生徒からの感想文集をもらえることがあるのですが、それをいただけるのは選手も励みになります。ただ開催するだけじゃなくて、ちゃんと選手たちに届きますよという印象付けが子どもたちにもできているのかなと感じています。

―体験会で、子どもたちはどんな反応でしたか?

笹川 子どもたちは素直に質問するんですよ。土屋来夢選手が参加した時なのですが、彼は利き手の指を4本切断してしまったのですが、「なんで指怪我しちゃったんですか」などと聞いていましたね。

子どもたちも自然に接してくれますので、義足の選手もなるべくズボンをめくって見せるなど我々も極力オープンにしています。
土屋大輔選手も神経が麻痺しているので肩腕が細くなっていますけれども、何も感じないからと普通に触らせています。

小学校に訪問し、体験会も行っている

―中学校を訪問した時は講演会を行ったとのことですが、どんなお話をされたのですか?

笹川 中学校では、選手自身による講演会を開催しました。選手がどう障がいを受傷したのか・それとも生まれつきなのか、その他生活で困ってることも語ってもらっています。

―障がい者と健常者が接する機会が増えるのは大切なことですよね。

笹川 そうです。普通に接してもらうのが一番です。今は特別なことなのかもしれないけど、いずれ自然なことになっていくと思います。子どもの頃から接していれば、最初から特別なこととも感じないですし。

チームの変化とこれからの目標

―設立して10年、チームはどう変わってきましたか?

笹川 少しずつ技術も上がってきました。コツコツと練習日程を埋められるだけ埋めて、普段来れない選手もどこかしらで来れるようにやり繰りしていましたので。

選手たち個人も変わっていきましたよ。最初来るとき一人で参加することがほとんどなのですが、たいていは「僕は人と接するのが苦手で」と言うんです。でもいいからキャッチボールしようと。それで野球を始めちゃえば慣れるものなので、野球を通じてコミュニケーションを重ねることで選手も馴染んでくれました。

あとは、先ほどお話した富田スコアラーもそうですが、一緒にプレーができなくてもチームに協力してくれるメンバーが増えてきました。仲村選手は現在車いすで生活していて、しばらくプレーはできないのですけれども、写真を撮ったりSNSに上げるためだけでも来てくれます。

あと休部中の選手も、毎年関東甲信越大会の告知フライヤーを作ってくれています。こういった選手が増えているのでチームも軌道に乗って来ているのかなと感じます。

富田スコアラーも野球の練習に参加しプレーを楽しんでいる

ただ、最近は近隣のチームでもメンバー不足に悩まされているという声も聞こえてきている状況なので、自分のチームだけではなく近隣のチームとも連携を図り、まだまだ認知度の低い身体障がい者野球自体を盛り上げていかなくては。とも思っています。

連盟の構想にも、少なくとも47都道府県に1チームずつ47チーム、というのがあるようなので、ちょうどあと10チームですか。メンバー不足のチームもありながら、なかなか難しいこととは思いますが。

―これから連盟に加盟するチームとか、加盟せずに活動しているチームがあるのですか?

笹川 知っている限りでは、近いところで埼玉に新チームができ、連盟加盟を目指して活動してます。それと茨城で、これから新チームを立ち上げようという声が上がってますね。隣県なので、私達の立ち上げ時に、全面的に協力していただいた東京ブルーサンダースさんのように、私達も茨城に出向いてお手伝い出来ればと思っています。

横浜には連盟加盟を目指さず、障がいのある子ども達も募って、野球だけでなく、レクリエーションにも力を入れて活動しているチームがあります。競技志向に走るのではなく、これが本来あるべき姿なのかも知れませんね。

―最後に、今後のチームの目標をお願いします。

笹川 目標は関東甲信越大会優勝です。そして日本選手権に出たいです。選手権に出るためは関東甲信越大会を優勝することが条件になるので。今年も準優勝でしたけれども、来年また挑戦です。

アマチュアの野球って、よく楽しくやるだけの野球をやるのか、上だけを目指してやるのかって話が出るのですが、うちは障がいの重い軽いに関わらず、今いる戦力、また、そんなチームの方針に賛同して、これから加入してくれる選手全員で、楽しくもやりますし、日本選手権出場を目指します。

強い弱い関係なく、とにかく応援してもらえるようなチームにしていきたいと思っています。

発足から10年を迎えた千葉ドリームスター。日本選手権の制覇に向けてこれからも挑戦は続いていく。

(取材 / 文 白石怜平)

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