千葉ドリームスター中䑓陵大 “キャプテン”の自覚と向上心

「お願いしまーす!」

ノッカーに向けて大きく両手を挙げ、ボールを呼ぶ声がグラウンドに響く。後ろに続く選手も負けじと大声でノッカーに向かって叫ぶ。

千葉県唯一の身体障がい者野球チームである「千葉ドリームスター」の練習風景である。2020年1月1日より「市川ドリームスター」から改称し、新たなスタートを切った。

ドリームスターの活気の源は中䑓陵大(なかだい りょうた)。キャプテンの証である背番号10と「C」マークが縫われたユニフォームを身にまとっている。新生千葉ドリームスターの”初代キャプテン”として今年もグラウンドで躍動する。

高校2年で悪性リンパ腫に

高校2年生の時に“血液のガン”と呼ばれる悪性リンパ腫に罹患した。その年の11月、造血幹細胞移植手術を受けた。

移植すると血液が変わるため拒絶反応など様々な症状が起こり得る。その中で皮膚に反応が起きた。

拒絶反応に苦しみ、入退院を繰り返す日々が約5年続いた。危機的な状況もあったがそれを乗り越え、22歳の頃にようやく病状が落ち着いた。ただ、拒絶反応の跡は今も残っている。

新聞記事を見て再びグラウンドへ

高校から離れていた野球の道が再度開いたのは2011年。2月25日、読売新聞に掲載された選手募集に関する記事を読み、チームに連絡。ドリームスターの門を叩いた。当時は野球未経験者のメンバーが多くいたため、数少ない野球経験者だった。

その後、大学受験を決意し1度離れたが、2014年に再び復帰し、現在まで中心選手として活躍を続けている。昨シーズンは打率.421でチーム首位打者に輝いた。入団時から現在までを振り返りこう語った。

「最初来た時は野球未経験者が多かったのですが、年々野球経験者のメンバーも増え、選手個人も上達したので強くなりました。コーチやスタッフのみなさんに協力いただき、練習の質も上がっていったのでそれが大きいと思います」

登板するとき以外は野手としても出場する。打撃も中䑓の持ち味である

キャプテンは自ら手を挙げた

2018年、7年務めた土屋大輔選手からキャプテンの座を引き継いだ。チーム全体を見て、自分がやるべきという自覚から、自然と手が挙がった。就任から2年、自然体で臨むとともに明るく活気のあるムードつくりを心掛けている。

「自分がいた高校野球のように、明るく元気な雰囲気づくりを心掛けています。あと新しい選手が来た時は、着飾ることのないようにしています。無理に背伸びして“なんか違う”と感じてしまうのは良くないので」

チームのSNSはキャプテンが中心となって発信している。練習模様や試合など活動を自らレポートする。チームのイメージを左右し、投稿を見て入団する選手もいるため慎重に言葉を選んでいる。また、対外試合や一緒に練習した相手など関係者への感謝は忘れない。

「健常者のチームとやるときも障がい者野球のルールでやらせてもらってるので、感謝の気持ちは直接言うことに加えこの場を借りてお伝えしています」

千葉ドリームスターの公式Facebook。関係者への感謝の気持ちを忘れない

投手として新たな挑戦

キャプテンに就任して2年目の昨年、新たな挑戦を始めた。投手へのコンバートである。
中学生の時から本職はセカンド。ピッチャーが手薄というチーム事情を理解していたため5月に自ら首脳陣に申し出た。

「僕がちゃんと投げれば試合が締まる自信はあります」

練習時のキャッチボールからフォームを意識し、伸びのあるストレートを投げ込む。徐々に距離を広げ、同じフォームで50メートル以上離れたところからも相手の胸に投げる。

打撃投手や練習試合での登板を経て、8月には関東甲信越大会の決勝戦でマウンドに立った。投手としての経験を着実に積んでいる。

昨年8月、関東甲信越大会で力投する

アナリストの仕事を活かした自己分析

病を克服後、大学を受験し国立大学に合格。卒業後2社を経て、現在は外資系企業でデータ分析の仕事をしている。そのため自己分析も長けている。

体に人工関節を入れてプレーしている。幹細胞移植後の拒絶反応を抑える薬が強力で、かつ薬の量も多くなり骨が潰れてしまったためである。

ハンデを補うために自分の筋肉を把握し、コンディションに合わせてベストな投げ方を模索している。終わってからは自身の投球を振り返る。そこである課題を見つけた。

「ピッチャーをやり始めて背筋が弱いと感じました。背筋のトレーニングだったら自宅でもできるので毎日継続していますね」

自身もピッチャーで能力を発揮することがチームにとって必要と考えている。分析と改善を繰り返し、球速も10km近く上がった。現在は110km/h台後半まで伸びている。

分析と改善を重ね、実戦での登板機会を増やしている

キャプテンから見たチームの課題

千葉ドリームスターは発足からまもなく10年。着実にチーム力を上げ、3年連続で関東甲信越大会準優勝を成し遂げるまでになった。一方で新しい戦力がまだ少ない状況について課題意識を持っている。

「ここ3年くらいで成長しましたけれども、今は止まってるのかなと。新しいメンバーが入らないとチームが活性化しないので。それはチーム全体が感じている課題だと思っています」

SNSを投稿する際は必ず「新メンバーを募集しています」のフレーズを最後に入れている。今後全国大会で戦い続けるチームになるためにも、新しい戦力が入り切磋琢磨していくことが必要だ。

入団して価値観が変わった

千葉ドリームスターに入団して価値観が変わった。

「普段生活していて、何かしらハンディキャップを感じることがあると思うのですが、ここに来ると例えば脚に障がいがあっても“自分は両手がある”って思えるんですよ。価値観が良い意味で変わりました。1ヶ月とか来るだけでもいい影響があると思います」

ドリームスターには後天的な身体障がいを持っている選手が半分以上を占める。今まで心を閉ざしかけていた人たちが、一歩外に踏み出してグラウンドに来る。そして仲間と野球をすることで、前向きな気持ちを取り戻すきっかけとなっている。

今年も背番号10を背負ってチームを引っ張る

2020年、キャプテンとして3年目を迎える。チームそして自身を分析し必要なピースとなるためにオフの間も努力を重ねている。
全国大会の先発マウンドに立ち躍動する日はそう遠くないはずだ。

(取材 / 文:白石怜平)

※本記事は2020年1月16日にスポーツメディア「Spportunity」で掲載されたものです。

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