「社会課題を解決するためにスポーツや施設がある」アメリカの事例から見るスポーツ産業の近未来〜横浜スポーツビジネススクール最終回①〜
シアトルで創られた新しいアリーナ運営の形とは
そして、講義最後のトピックはシアトルのある施設について。鈴木さんは「スポーツ界に革命を起こしている施設があるんです」と述べた。
それが、21年10月にオープンした「Climate Pledge Arena(クライメット・プレッジ・アリーナ)」。
シアトルにある同アリーナは1962年に完成し、「Key Arena(キー・アリーナ)」の名称でNBAのシアトル・スーパーソニックス(現:オクラホマシティ・サンダー)も移転する08年まで使用していた。
その後は老朽化が進んだため、18年からは11.65億ドル(約1340億円)をかけ、屋根を除いてのほぼ全面的な改修を経て生まれ変わった。
現在は21年NHLに参入したシアトル・クラーケンや、WNBAのシアトル・ストームの本拠地となっている。
このアリーナが革命的なのがまず名称。日本語に訳すと”気候誓約アリーナ”である。これは命名権によって名付けられたもので、この権利を取得したのがシアトルに本社を置くAmazonである。
”Climate Pledge”とは、同社の掲げている気候変動へのコミットメント。同社は19年に「2040年までにCO2の排出量を実質ゼロにする」という気候変動対策に向けた公約に署名した。
これまでの傾向として、命名権は認知度向上のために企業名や自社の製品・サービス名などを主に冠している。しかし、世界的に認知されている企業でもあるAmazonは、この公約を施設名にしたのだ。
アリーナではその公約通り、「カーボン0」に向けた取り組みを徹底している。鈴木さんは具体的な取り組みについて説明した。
「アリーナの中はオール電化です。調理もガスを使わずに全て電気が使われています。その他にも使い捨てプラスチックの廃止や、施設内にごみ箱がなく、リサイクルボックスと生ごみ処理器が置かれているのみ。
さらに自分たちが使ったカーボンを測定して、排出した分は炭素クレジットを購入することでオフセット(相殺)しているんです」
また、鈴木さんはアリーナの革新的な点はさらにあるという。
「ここがすごいのは、来場者やチーム、アーティストと言った全てのアリーナ利用者たちに”カーボン0”を求めていることです。地球温暖化を全力で防ぐことに本気で取り組んでいる方しか使えないことを意味しています」
上記の取り組みによって、「一緒に組ませてほしい」という問い合わせが企業などから多く寄せられているという。鈴木さんはこのアリーナの事例から、今後のスポーツ産業の方向性について示し、講義を締めた。
「お金の動きが変わってきています。スポンサーにおいても認知度を広めることが目的でしたが、今は社会課題を解決するためにみんなでお金や技術、知恵を出しましょうという動きになっている。
大きな気候変動という社会課題を解決する。その中心にスポーツアリーナがある位置付けになっています。
まちづくりからさらに発展して、社会的な価値を解決するプラットフォームになりましょうというのが、今のアメリカの球団経営・施設経営のトレンドです。今後はその感度の高いチームが業界をリードしていくと思います」
そして、約2ヶ月間のスクールの最後を締めくくるパネルディスカッション。球団のトップ、OBそして現役のコーチがそれぞれのキャリアについて語り合った。
(つづく)
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