
横浜DeNAベイスターズ トークイベント「スポーツで育む子どもの可能性」個×チームで促進する家庭の成長
7月10日、横浜DeNAベイスターズはトークイベント「スポーツで育む子どもの可能性~現代社会におけるスポーツの教育的価値とは~」を開催した。
球団の組織創りや選手の心理サポートに携わっている面々が登壇し、各視点から子どもたちの成長に向けた考え、アクションなどを共有した。
(取材 / 文:白石怜平)
ベイスターズの組織創りやメンタルサポートを担当する2人が登壇
今回登壇したのは、チーム統括本部 育成部 S&Cグループ/グループリーダーの川尻隆氏と、同じくチーム統括本部 ゲーム戦略部/メンタルパフォーマンスコーディネーターを務める遠藤拓哉氏。
セミナーでは、川尻氏と遠藤氏がそれぞれの役割から「子どもの成長を最大限に引き出すこと」や「子どもとのコミュニケーション」などについて語られ、後半では両者によるトークセッションが展開された。
まずは川尻氏によるレクチャー。同氏は「自己進化型組織」を球団へ導入し、昨年の日本一に代表される“チームで勝つ”礎を構築した。
その自己進化型組織とは何か、その説明からセミナーはスタートする。
「環境がさまざま変わる中で、受け身になるのではなくて『自らも成長・進化していくような状況』をつくる・そういう人間であるということです。
そのために“人”や“組織”というものを理解した上でものごとをデザインしていくと、自分から成長・進化というのが起きるような組織になる。
ベイスターズでもそのための仕組みをつくるよう、今も取り組んでいます」

チームの成長においては、組織に加えて個の成長が両輪で回ることで成り立つと説いた川尻氏。
では、この考えを家庭に置き換えるとどうなるか。ここでは、ある一つのアクションがカギとなっていた。
「例えば5人のメンバーがいた時、その力が7にも10にもなっていくことで“集団”ではなく“チーム”になります。 要するにチームの化学反応が起きることなのですが、そこには“コミュニケーション”がとても大事になってきます。
このコミュニケーションの質と量をどれだけ良くしていくのかが、実は自己進化型組織に向けた一番のキーでもあります。
家庭も一つのチームです。コミュニケーションの質や量を考えるのは、皆さんの職場であろうとベイスターズであろうと、そして家庭であろうと変わらないのです」
さらに話は本題となる子どもの成長へと移っていく。ここでは子どもが成長するために必要な要素を、自己進化型組織の考え方に沿って挙げた。
「例えば子どもが言うことを聞かないとか、選手だったら結果が出ないこともありますよね。この目の前で起きている現象というのは必ず『個×環境』なんです。
要するに子どもだけのせいではなく、その環境にいるからこそ目の前の現象が起きます。その個が変わらなかったとしても、環境が変わればその出てくる答えが変わるわけなんです。
個×環境ということを考えた時、子どもにとって大きな環境要因は親や教師といった周囲の大人なんです。 だからこそ我々が今どうなっているかが、今後子どもたちの成長おいてものすごく重要な要素になっていきます」

親が期待していることに届かず、子どもに向けて感情が表に出てしまうケースもある。
ここで川尻氏は「子どもだけの責任ではないです」とし、大人側が持つべき思考について説いた。
「それは大人側のさまざま環境の作り方・設定の仕方に大きく依存しています。そのことをその大人側が理解することが重要です。
すべてが環境のせいではないですが、その理解をしておくと自分のあり方次第で子どもの結果を変えることができるんです。
ですので、ある物事において子どもや我々で言う選手・スタッフにおいても、目の前の事象は“個×環境”の結果としてつくられていることを念頭に置く。
そこから、何ができるかを考えていくことがとても大切になります」
個の成長に必要な“自己理解”
続いて、レクチャー役を遠藤氏にバトンタッチ。
同氏は、東京オリンピック・パラリンピックで女子ソフトボールや車いすラグビーの各日本代表チームの心理サポートを担当した実績を持つ。
2022年にベイスターズに入団後は、12球団初となるメンタルスキルコーチとしてベンチ入りし、チームをサポートしている。
「私はメンタル面から選手たちの実力を最大限に発揮し、チームを進化させられるよう日々取り組んでいます。
先ほどあった“個を進化・成長”させるため、チームとして勝つためにどのような準備や仕組みが必要なのかを、川尻さんとも密にコミュニケーションを取りながら検討しています」

最初のレクチャーテーマは、トップアスリートたちを見て感じる“自己理解”。遠藤氏は、この自己理解を個の成長におけるスタート地点だと示した。
「選手たちを見ていて、自分自身の理解にすごく努力していると感じていますし、我々も選手に加えてコーチ、監督にも自己理解を促す機会をつくっています。
『自分の状態を知らなければ、整えることも高めることもできない』と、私も選手たちに伝えています」
個の成長のためには、自己理解が必要と述べた遠藤氏。子どもの成長に向けてはチームの観点も交えながら、大人ができることについて挙げた。
「チームそして家庭においても一人ではない。親子も”チーム“という視点で見た時に、子どもにどう関わっていけるかだと思います。
私もコミュニケーションを重視していますが、特に大切と考えているのが『本当に伝わっているのか、心に届いているのか』です。
我々ができることとしては、子どもが何に興味があるのか・何が欲しいのかといった、子どもの視点に立って考える。つまり、“視点の数を増やす”ということではないかと。
よく相手の気持ちになりましょうと言いますが、まず相手が何を思って、何を見て、そして、何をしているのか。 ここに寄り添うことがお互いの進化につながっていくと考えています」

子どもたちに必要な“問う力”
そして後半は2人によるトークセッションへ。ここでは2つのテーマが設定された。一つ目は「現代の子どもに必要だと思う力とは何か」
ここで「“問う力”だと思います」と回答した遠藤氏は、自身も父親でもあることから、家庭におけるエピソードを披露してくれた。
「息子が先日トカゲを捕りたいということで『家の周りを探してみよう』と言ってきたので、私が『家の周りにトカゲはいないよ』と返したら、息子から『なんで?』と質問されました。
私は「トカゲは森にいるもの」と決めつけて返答しましたが、面白いことが起こったんです。
公園に行った帰りに家の近くを通ったらトカゲがいたんですよ。びっくりしました(笑)。つまり、私が子どもの『なんで?』という疑問を消してしまっていたんです。
その経験もあって子どもたちには『なんで?』を多く持たせたいですし、疑問を持つ力を持ってほしいと今感じています」

問う力は大人になっても重要になる。
川尻氏は「子どもの頃にみんなが言っていた『なんで?』が出なくなると、組織において大きな問題に発展することがあるんです」と話す。
「できないこと・分からないことを問えない、質問ができない環境がつくられてしまうんです。『なんで?』を言えなくなることで、つまり『私は知らないので教えてほしい・助けてほしい』と意思表示できる環境を作れなくなります」
子どもの時は誰でも「なんで?」と質問していたが、大人になるにつれて自分で解決を試みたり、「知らないと思われたくない」という感情などで次第に問うことから遠ざかってしまう。
川尻氏は子どもが持っている、問う力を持ち続けるための考え方を説いた。
「『問うても大丈夫だ』と思ってもらえるかが大事です。大人たちが忙しいからといって面倒くさがってしまうと、『問うことが悪い』と考えるようになってしまいます。
子どもたちとのコミュニケーションをデザインしていくにおいて、『問うって大事なんだ』・『問うても大丈夫なんだな』というのを幼少期から感じて成長していっている子と、そうではない子たちとの差は将来とても大きくなってきます」

そして2つ目のテーマは、「感動する力・好奇心を育むには?」。
まず川尻氏は「人間は生まれながらに好奇心を持っています。ただ年齢を重ねたりする中で、それを失うのではなくて出せなくなっているんです。」と語り、その活かし方について説明した。
「一つは子どもや相手の“可能性を信じる”ことですし、『何が我々を制限してるのか』を考えた上で、それを取っ払ってあげると感動できるようになるし、好奇心が生まれてくるんです。
その姿自体が子どもたちの好奇心や感動を育んでいくことや、『ありのままでいいんだ』という感情につながっていくと考えています」
遠藤氏は心理学の概念に沿って、感動を育むことについて日常生活の中での例えを交えながら述べた。
「おいしいラーメンを食べたら思い出しますよね? つまり、感動した経験を求めてもう一度お店に行くんですよ。
親や教育者も子どもたちに向けて『感動する機会をもっと与えよう』と考えて、少しの感動でも継続させることができれば、いずれ大きな感動へとつながると思います」
参加者から答えきれないほど多くの質問が寄せられ、早速“問う力”も引き出した本セミナー。約1時間半、濃密な内容となった。
ベイスターズが運営する会員制シェアオフィス&コワーキングスペース「CREATIVE SPORTS LAB」では、今回紹介した「自己進化型組織」や「個の成長/進化」を小学生高学年のお子さまに体験してもらえる夏の特別プログラム「キッズクリエイティブアカデミー 2025 Summer」を8月に開催予定(現在募集受付中)。
CSLの活動を通じて、子どもたちの可能性を様々な形で引き出していく。
(おわり)
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