
横浜DeNAベイスターズ 26年ぶり日本一の裏側「自己進化型組織」の浸透で「全員が勝利を自分ごと化」へ
24年12月10日、横浜DeNAベイスターズはトークイベント「“ベイスターズ流”選手教育と企業人材開発 ~日本一の裏側にある組織づくり~」をオンラインにて開催した。
今回は球団が行ってきた「人材育成」にフォーカス。チームが共通で持っている考え方や取り組みについて、日本シリーズでのエピソードを交えて展開された。
(取材 / 文:白石怜平)
球団が約5年つくり続けている「自己進化型組織」を体験
本セミナーは、ベイスターズが運営する会員制シェアオフィス&コワーキングスペース「CREATIVE SPORTS LAB(CSL)」が主催するトークイベント。
球団が2020年から始めている「自己進化型組織」の取り組みを体験できる4日間の特別セミナーが、1月12日(日)〜1月19日(日)の間で行われている。
上記に先立ち、ユニフォームを着て戦っている選手・首脳陣を支えるチーム統括本部と、球団経営を支えるチームとビジネスのトップ2人によるトークイベントが開催された。
CSLでは様々なセミナーやイベントを開催しており、本セミナーを企画から運営まで行っている野球未来創造室 野球普及・振興部の矢野沙織氏は、背景についてこのように語った。
「ベイスターズが日本一を達成した裏には、マインドセット研修やマネジメントの方法、コミュニケーションの取り方などをはじめとする組織づくりが大きく影響しています。
スポーツチーム以外の組織にも通ずるものがあると思うのでぜひ多くの方に知っていただきたいと考えました」
チームと事業両方で導入している「自己進化型組織」
今回登壇したのは、常務取締役でチーム統括本部 の萩原龍大氏と、同じく取締役でビジネス統括本部長の林裕幸氏。
前半はそれぞれがベイスターズに入ってからの取り組みを振り返りつつ、「自己進化型」との出会いや実践についても共有した。
萩原氏はDeNA本社で約10年間人事を担当した後、球界へ参入した11年12月よりベイスターズに出向したのちコーポレート部門を担当、13年末にチーム部門に異動。現在はチーム統括本部のマネジメントを担当しており、チームビジョンの策定から選手教育・組織づくりを推進している。
出向時は4年連続最下位だったということもあり、「”優勝”という言葉が遠すぎて具体的にイメージできる感覚がなかった」ところからのスタートだった。

当初からメンバーを全員集めてチームビルディングを開始し、戸惑いや時には反発もありながらも組織を構築していった。
並行してグラウンドでも着々と力をつけ、16年には初のクライマックスシリーズ出場。翌年には日本シリーズ出場を果たし、組織全体として「優勝」の2文字を自然と意識するようになる。
19年にはあるべき姿や姿勢なども盛り込んだ「ビジョンマップ」を策定し、人材開発の組織を立ち上げるなどさらに組織づくりの強化を図った。
しかし研修を重ねているにも関わらず、コミュニケーションがうまくいかないなどの軋轢が生じていったという。
「チームビルディング研修をずっとやってるのになぜ?」

その悩みを解決するカギを渡してくれたのが、現在組織改革アドバイザーを務める川尻隆氏だった。
川尻氏から提案を受けたのが、今につながる「自己進化型組織」の構築だった。萩原氏は当時「藁をもすがる想いだった」と、20年に導入した時のことを明かした。
「ここで教わったのは、『組織の成長のためにはチームビルディングだけでは進まない』と。”人の本質を理解すること”・”個々の成長”とチームビルディングを両輪としてかけ合わせる必要がある。これが自己進化型の組織だということでした」
萩原氏は、”進化”についてを「多様性×選択圧」と定義していると説く。それぞれの要素を以下のように説明した。

「多様性は年齢や性別というニュアンスではなく、『異なる価値観や考え方が存在すること』がより多い状態であること。つまり異なる価値観を持ったメンバーがどれだけいて、かつ個々の力が発揮されるのかが重要です。
選択圧は”進化しなければいけない状態を生む”ことです。人間は”何もなければという本質があることを踏まえて、進化するために圧力は必要なのだと。
この二つを高めていくことが自己進化型の理想の状態であり、組織が進化する方向へ自然に向かっていくと考えています」
「自己進化型組織」をグラウンドで戦う選手や首脳陣からスタッフまで全員に浸透させるべく、萩原氏は環境を整備。
チームが向かうゴールの前提を揃えるためにVMV(ビジョン・ミッション・バリュー)を策定した。また、個の進化に向けた「EM:本質的マインドセット」を役員から新入団スタッフまで全員への浸透を図っている。

選手にはAM(アスリートマインドセット)と定義して実践。コミュニケーションの質と量を担保するための取り組みを明かしてくれた。
「一軍であれば、1日の始まりと最後はスタッフも必ず全員集まって、メディテーション(瞑想)をしています。それで、1日2分毎日違うメンバー同士でアウトプットし、それを全体に向けて発表することでみんなで聴く取り組みを行っています」
続いては林氏にバトンタッチ。
林氏は地元横浜出身で少年時代からのベイスターズファン。98年の日本一を肌で感じ、優勝パレードを見て「こんなに街が盛り上がるんだ」とその光景は今でも鮮明に覚えているという。
13年12月入社後は経営・IT戦略部長、ブランド統括本部長などを経て21年から現職に就いている。

林氏からは、チーム側で取り組んできた自己進化型組織を事業側に展開した背景などを語った。
21年に事業側で5ヵ年の中期経営計画を策定。さらに長期として20年後に「世界一のスポーツチーム」、100年後に「野球を、繋ぐ」という全社ビジョンを掲げた。
そして、事業側でも自己進化型組織を目指そうとなったのが22年。
「チーム側が自己進化型組織を取り入れ、変化の兆しが出ているのを見て、『我々はこの組織の在り方を取れば、20年後・100年後に掲げたビジョンに到達できるのでは』と仮説的に考えました」
そこで、2年間で事業側の役員そして部長陣がEM・EL(本質的リーダーシップ)の解像度を上げ、業務やコミュニケーションへと展開した。
昨年は年始に社長から号令がかかり、マネージャー陣がEM・ELそしてメンバーもEMを理解し、事業側でも「自己進化型組織」を全員でつくりあげていった。
日本一の要因は「全員が”勝利”を自分ごと化できた」こと
後半は両者によるトークセッションへ。設定したいくつかのテーマに沿って、それぞれ感じたことや経験談などを語り合った。
盛り上がったトピックが「ずばり日本一になった要因は?」。
この日は企業でマネジメントやチームビルディングを行っているビジネスパーソンに加え、ベイスターズファンがユニフォームを着て視聴していたことから、チャットで最も大きな反応が見られた。
萩原氏は、3位決定からポストシーズンでの雰囲気をこのように語る。
「ポストシーズンでは球団そして球場に関わる全員が”自分ごと”で一緒に戦っていました。特に3位が決まった後、グラウンドのメンバー以外のみんなも『自分が勝ちに貢献できることはないか』とと考えている空気がありました」
その空気は、選手や首脳陣が通る場所や施設などいたるところに形として表れていた。萩原氏も実際に目にした時に感じたものがあったという。
「全員が勝利を”自分ごと化”できたことが日本一の要因なのだと思います。ロッカーなどのチームエリアの装飾も素晴らしかったですし、各球場でブルペンやスイングルームに寄せ書きを置いてもらって、全員が見れるようになっていました。
演出に”勝たせよう”という空気を感じた。”勝ってほしい”ではなく、”勝たせるため”に何かできないかという気持ちが伝わってきた。
やるべき準備をやり切り、その上でチームが勝つには何をするべきかを全員が当たり前に考え、実践していました」
林氏も事業側として、「チームが優勝するために何ができるかを常に考えていましたし、ビジネス統括本部として“価値”に加えて“勝ち”も成し遂げたいと、自然と思うようになっていることが大きな変化です」と続けた。
ここで、林氏からも日本シリーズ時に行っていた話を披露した。このシーンから、この3年間続けてきた成果を感じられたという。
「日本シリーズの前日練習をハマスタで行う際、職員が集まって『一緒に日本シリーズ勝ちたいです!』と選手に想いを伝えて、グラウンドへ送り出しました。みんなが心から日本一を狙いにいく気持ちを持つことができた。
みんなが『勝利に対して、チームに対して何かできることがあるんじゃないか』というマインドを持ち、かつチームに関わる全員が一つになって日本一になれた。自己進化型組織を構築している中で、進化を感じられたシーンでした」

日本一を決めた時はベンチには溢れるほどの人がおり、かつペナントを持って場内一周する際はひときわ長い列ができていた。それは、裏方として支えていたスタッフも一緒に喜びを分かち合っていたからだった。
萩原氏がそのシーンで感じたことを語り、トークセッションを締めた。
「みんなで出ようとスタッフも全員でグラウンドを一周したのですが、スタッフもみな選手を讃えることに加えて、『自分たちの力で勝てた』と素直に感じられたと思います。
ファンのみなさんも自然と受け入れてくれて、笑顔を交換できたので、私にとってはそれが感動でした」

約2時間のセミナーは日本一の余韻を思い出すかのような雰囲気で終了。そして、ここからさらに「自己進化型組織」の魅力や深みを知れる4日間がまさに今行われている。
(おわり)
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