釜石シーウェイブス 佐伯悠 震災から再度動いた時計の針。最も忘れない「人生で1番ラグビーが楽しかった日」
「ラグビーができることに感謝しよう」
チームは5月3日に活動を再開した。自宅が津波で流されてしまった選手もいたが、命は無事で全員が顔を合わせることができた。
佐伯はこの日が最も忘れらない日だと語った。
「不謹慎と思われるかもしれないですが、ラグビーが始まることがすごく楽しみでした。もちろんラグビーができる環境はどうなのかなど、皆思っていましたし、不安を挙げればキリがなかったです。でも街の人たちの声もあって『ラグビーやっていいんだ』というのがありましたし、あの日が人生で1番ラグビーが楽しかった日だと思います」
そして、震災からちょうど半年経った9月11日、秩父宮ラグビー場で日野自動車との開幕戦を迎えた。1部に所属していたシーウェイブスはこのシーズン、現在トップリーグに在籍しているクボタスピアーズ(現:クボタスピアーズ船橋・東京ベイ)、キヤノンイーグルス(現:横浜キヤノンイーグルス)ら10チームとしのぎを削った。主将1年目のシーズンでもあった佐伯は並々ならぬ想いを持って試合に臨んだ。
「まずはとにかく感謝しようと。ラグビーできることに感謝しようというのが大きいテーマでしたし、観に来てくれる人たちが熱い気持ちで帰れるような試合をしないといけない。そして支えてくれる人たちに恩返ししなければいけないと。
チームには、ラグビーの内容についてはほとんど言ってないです。『ひたむきに努力しよう。一生懸命やることが絶対伝わるから』と。そのプロセスとして良いパフォーマンスを出したらサポーターも喜ぶし、勝てるという考えがありました。人に伝えられるラグビーをしたいと思って望んだシーズンでした」
初戦はこの年トップリーグから降格したクボタとの対戦から始まった。チームはは”釜石のために戦う”その想いは1つだった。6勝3敗と勝ち越したものの順位は4位。目標にしていたトップリーグ昇格は叶わなかった。
結果だけを見ると決して満足はできないかもれない。ただ、1つ1つの試合の中身は充実していたと当時を振り返った。
「結果としてはトップリーグに上がることはできなかったです。けれども、1・2戦目はチームとしてすごくいい試合が続きました。特に2戦目のクボタスピアーズとの試合。この年クボタはトップイーストに降格した年でした。相手はトップリーグに戻ろうとものすごく気合が入っていた中、大善戦(※)したんです。
最後の最後まで1トライ・1ゴールで逆転するような大接戦だったので、未だにあの試合を見ると泣きそうになるんですね。この年は本当にチームが一つになって戦っていました」
(※)11年9月18日に秩父宮ラグビー場で行われた試合。8-13と惜しくも敗れるも一時は逆転し、最後まで拮抗した戦いを見せた。