
横浜DeNAベイスターズ 「最強投手育成シンポジウム」後編 パフォーマンス向上に必要な“データ”と“メンタル”へのアプローチ
5月某日に横浜市内で「最強投手育成シンポジウム」が行われた。
ホームゲーム終了後の余韻が残る中行われ、前半はデータ計測で用いられる指標の定義などが細かく解説された。後半ではその活かし方やメンタル面にも話題が広がっていく。
本編ではその後半部分をお送りする。
(取材 / 文:白石怜平)
モーションキャプチャを活用した取り組み
本シンポジウムは、ベイスターズが展開している「裏ベイチケ」の企画で実現したもの。
試合を終えて参加した小杉陽太 一軍投手コーチ兼投手コーチに加え、トレーニングやデータ分析などに従事する面々が名を連ねる豪華企画になった。
会の前半では指標の定義を示しながら、それを元に「球速は正義か」「良い変化球とは」といった議題に沿って語られた。
後半はベイスターズが行っている取り組みの一つが紹介され、モーションキャプチャのデータ測定例を解説するところから再開した。
モーションキャプチャとは、人やモノの動きをデジタル化して記録する技術であり、野球では投手や打者の各動作がなぜ・どのように動いてるのかの解明に利用されている。
ここではある投手のBefore↔︎Afterを比較したものを1枚のスライドに示し、チーム統括本部ゲーム戦略部長の吉川健一さんから球速をアップさせた話が明かされた。
「140km/h台後半の投手が球速を上げたいという課題がありました。まずはモーションキャプチャを活用してデジタル化します。比較すると、彼にとっては効率的な動きでない部分が我々には分かります。
その後にコーチ、トレーナーとも連携をしてバイオメカニクス的に改善提案を行いました。トレーニングの処方をしてもらったり、コーチからデータを感覚に落とし込むようにしてもらう。その結果150km/hを出せるようになったのです」

同部R&Dグループの田中洋さんも、吉川さんの話に補足。プロ野球選手の凄さを交えながら、アドバイスの一部をここで特別に話した。
「1つの動作を変えるだけで球速は5km/ほど上がります。それがプロ野球選手の凄さ。良い情報を与えるとその場で動きに反映できる。
ここでは別の動作のピッチデザインを行ったのですが、足が着地する前の動作は変えやすく、足が着地して以降に関しては難しいことが既に分かっています。
なので、何か変化を生じさせるときには足が着くまでのアプローチをするケースが多いです」

データを感覚と擦り合わせる
ここまで定義や取得など、データにまつわる話題を展開してきた。シンポジウムでは受講者からの質問を多く集めており、その一つに選手の感覚との照らし合わせについての問いがあった。
選手と日々やりとりをしている小杉コーチは、自身が行っているコミュニケーションを交えながらこう話した。
「取得したデータと選手自身の感覚が近いのかそれとも乖離があるかをチェックしています。
選手がどんな感覚を持っているのかをヒアリングして、計測結果をフィードバックしてそこに近ければ『この感覚が間違ってなかったんだ』となります。
そうするとどんどん興味を持ってくれるようになるので、そのファーストコンタクトを大事にしています」

小杉コーチは自身と違う立場からどんなことを実践しているかを聞くため、田中さんと同じR&Dグループの田村大聖さんらに継投した。田村さんも選手たちと会話していることを語った。
「選手には簡単な言葉にしつつ専門用語を交えるようにしています。ただ、スタッツの名前といった専門用語は細か過ぎてしまうと通じないケースもあります。
言葉の意味や取り組みなどを共通言語で会話ができるようにするために、R&Dグループはセイバーメトリクスに関する研修を選手向けに行っています。
選手も毎日接するチームメンバーだからこそ、同じ言葉を使ってコミニケーションが取れるように心がけています」

前半でも故障予防の観点から選手の動きを確認すると述べていた チーム統括本部育成部S&Cグループの四角純哉さん。
データ活用においてもチェックは欠かせないとともに、他の登壇者と同じく選手に理解を深めてもらうための取り組みを行っている。
「データを活用するために、私からも選手がどんな感覚を持っているかは入念にヒアリングします。選手のみなさんはすごく礼儀正しいので、説明すると『はい、わかりました』というのでそれを鵜呑みにしないです(笑)。
正確に理解してもらっているかを日々チェックしてます。データサイエンティストの方々と同じで、我々もキャンプ中にレクチャーの時間を設け、『このデータをなぜ取得して、何が見えるのか』を行っています」

現場の立場から、小杉コーチは「やっていただいて良かったです」と感謝を述べていた。
「今年の春にコーチ陣で研修を行って、攻撃・守備・投球と細かく分けて受けています。これはR&Dの人たちが指導でやってくれたものです。試合での戦略にも活かせていますし、あれは面白かったです」
小杉コーチの“メンタル投手コーチ”たる所以は?
そして投手育成に向けた最後のトピックは“メンタル”について。
ここでは精神面の観点から起用法に影響するのか、コーチとして選手のメンタルをどう管理しているのかなどが話題になった。
吉川さんは「人間が行うので、その日の調子や精神状態というのはパフォーマンスに影響を与える要素になると思います」と述べ、以下のように続けた。
「投手が持っているメンタル的な特徴も、先発・リリーフどちらが向いてるのか考慮する材料になります。
球団には“メンタルパフォーマンスコーディネーター”という方がいるのですが、選手にアンケートを取って心理的な観点で分析しているので、そういった取り組みもデータ分析側で何か挑戦してみたら面白いと思いますね」

小杉コーチは選手を起用する立場から、「配置とか起用においてメンタル面は考慮してないです」と回答。そのうえで、自身が果たしている役割などを通じて補足を加えた。
「例えばセットアッパーを務めていた投手が序盤のカバーをするような配置に回ったり、ビハインドの場面で投げるポジションになった時などは、精神面のケアをします」
ここで、一人の投手にまつわるエピソードを披露。昨オフに先発へ転向を希望していた伊勢大夢投手についての話を明かしてくれた。
「大夢が先発を直訴した時、個人的にはいい挑戦だと感じていました。調整方法だったり、先発として長いイニングを投げることで、『なぜ抑えられたのか』を言語化しやすいと思ったんです」
オープン戦での結果を踏まえ、開幕前にはリリーフとして起用されることが決まった。その時にも伊勢投手と向き合い会話を重ねたという。
「先発としての結果を見てパフォーマンスが至っていなかったのは事実ですが、チーム事情としてブルペン陣がまだ手薄だったというのもありました。
本人に伝えて、感情と事実に向き合って話をじっくりしました。選手とは話し合いを綿密にやります。ここをしっかりやれないとパフォーマンスは上がらないので、ここを大事にしています」
そのため、周りからは「メンタル投手コーチと言われることもありますけども(笑)」と会場中の笑いを誘った小杉コーチ。ただ、それは「それは選手と真剣に毎日向き合っているからです」と自信を持って述べた。

その後も質問が多く寄せられ、終了時間まで盛り上がりを見せた。
シンポジウムを終え、企画に携わったチケット部の別所真里奈さんは、今後の裏ベイチケについての展望を語った。
「今回のシンポジウムは、よりコアな知識を持つファンや現場で活躍される方たちにご参加いただきました。
何かを好きで、詳しくて、語りたくてワクワクすることはとても素敵なことだと思います。今後も、“裏ベイチケ”を通じてベイスターズファンの方を中心に、普段と違う体感をたくさんしていただきたいです」
裏ベイチケは、6月1日現在で第19弾まで展開されている。今後も、試合観戦にとどまらないユニークかつ非日常的な世界を広げていく。
(おわり)
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