
リコーブラックラムズ東京 メイン平 度重なる大怪我で1年半離脱も「長いようで短かった」振り返る進化の軌跡
リコーブラックラムズ東京のメイン平。20歳でチームに入団するとすぐに頭角を表し、2年目を終えた22年夏には日本代表にも選ばれた。
翌年のW杯も見据えながらシーズンでも活躍を重ねたが、ここから度重なる大怪我に見舞われる。
それでも先月ピッチへ戻ってきた男が経た1年半という長いリハビリは、むしろさらに強くなるためのプロセスだった。後半ではメインが考え、描いてきたプロセスを辿っていく。
(取材 / 文:白石怜平)
開幕前最後の試合で前十字靭帯を断裂
全治半年という大怪我からのリハビリを経て、ピッチへと戻ってきたメイン。「状態も良かったと思います」と、コンディションを上げて新シーズンへと臨むところだった。
しかし、2023-24シーズン開幕前最後のプレシーズンマッチというタイミングでさらに大きな試練にぶつかってしまった。
「右膝の前十字靭帯を断裂してしまいました。あの場面は、ジャンプしてボールをキャッチしたのですが、着地した際に上からのタックルを受けたんです。
その時にスパイクが地面に刺さったまま膝が持って行かれた形でした。走れたので大丈夫かなとも思ってしばらく様子を見たのですが、MRIを撮ったらやはり切れてると…」
前十字靭帯断裂は再建手術を受けると復帰までは約一年を要する。つまり、シーズン全試合を棒に振ることを意味した。メイン不在で戦うこととなり、チームにとっても大きな痛手となった。
当時の複雑な心境を明かしてくれた。
「前のシーズンでも怪我をして半分ほど試合に出られていない。そして開幕間際に前十字靭帯を切ってシーズン全部出られない。
つまり、1シーズン半何もできない状態だったわけですよね。
ハムストリングスの肉離れをした時に、ここの強化をしてすごく状態が良かった。足も速くなったような感覚も得られたので、とにかく悔しい・焦りもありました」

「一年あるなら怪我する前よりもっと良い状態にできる」
1年半という長期間の離脱は、現役としての時間に限りがあるアスリートにとって、選手生命を左右するほどの影響を及ぼすと考えてしまう。
しかし、その心配はご無用だった。クレバーかつ常に目の前の変化に順応してきたメインにとって、リハビリに宛てたこの期間はむしろ前進するための充電期間となっていた。
「考えていたこととしては、前の怪我に戻るのですが、ハムストリングを肉離れした時に自分の体を見つめ直したんです。そしたら先ほど話した動きが良くなった。
だとしたら、『一年あるなら怪我する前よりもっと良い状態にできるな』という考えを持っていました。
時間があるので毎日自分の膝と向き合えますし、リハビリ中はもう一度ハムストリングスやお尻を強化しようと。
今は怪我したことを忘れるような感覚で臨めているので、このリハビリはすごくポジティブに向き合えたし、強化できた期間と思います。(1年半は)長いようで短かったです」

チームメイトで先輩に当たる松橋周平は3度の前十字靭帯から復活を果たしている。以前取材をした際に、こう語っていた。
「僕は復帰したときにどんな状態で戻ってきたいかをイメージして、そこから逆算して何を改善していくかを考えながらリハビリやトレーニングに取り組んできました。それが一番大変なのですが、むしろやりがいと感じています。
例えばトレーナーから提供されたメニューだけではなく、外に学びに行くなど自分で考えるようになります。そこから自分なりのメニューを作って加えられるようになるので、やりがいへと変わっていくんです」
まさにメインも同じマインドセットを持っていた。自分の体と向き合うことによって、体の連動性も理解するようになった。
「怪我をする前と後では、練習の準備の部分でも違いが出ました。『ここが張ってるならこうほぐしたら良くなる』というのがすぐ分かるようになりました。体感できるようになったので、そこが大きいです。
怪我している時に体を大きくするという課題を考えた時も、フィジカルが衰えていると感じていたので、上半身を鍛えて体重を増やさずにどうサイズアップできるかを考え、実践していました。それも今良い方向に向かっている要因です」

フィジカルだけではなくナレッジでも進化
メインが長期のリハビリ期間で鍛えたのはフィジカルだけではなかった。グラウンドに立つことはできなかったが、別の形でチームの戦力となっていた。
「昨シーズンHCだったヒューイ(ピーター・ヒューワットHC)が『自分と向き合うことも大事だけど、チームに向けて何かできることはないか?』と相談をいただきました。
なので、『僕はスクラムのアタック担当をしたいです』と答えて、コーチングをさせてもらえるシーズンでもありました」
対戦相手を分析し、次戦に向けて展開するべきラグビーについてチームへプレゼンすることを毎週実施した。己だけではなく、相手そしてラグビーを知る期間でもあった。
「練習はできなくてもナレッジが養われたシーズンでもありました。僕は目の前の状況を見てプレーする選手だとこれまでも考えてきました。
練習の段階で相手を分析し、『相手はディフェンスが狭いから外にスペースがある』といった情報を練習前に頭に入れてプレーすると相手が見えやすいことを体感しました」
「もう一度日本代表に返り咲きたい」
大怪我を負い、長期のリハビリを強いられる選手は競技問わず多くいる。自身の経験から伝えたいことは何かを訊いた。
「どうしても焦ってしまうと思うのですが、(リハビリに)時間をかければかけるだけ復帰した後の結果が良いと自分でも感じています。焦らないことが一番ですしそれに尽きると思います」
今の状態は上述の通り、怪我をする前以上にパワーアップしている。1シーズン半という長い期間を経て、24年11月23日に駒沢で行われたプレシーズンマッチでついにピッチへと帰ってきた。

「自分の感覚を取り戻してむしろ状態は前よりも上がっています。今シーズンはHCも変わり、ブラックラムズのラグビーも一新しました。
目の前の状況を判断してラグビーをするニュージーランドのスタイルに近いので、自分によりフィットしていると感じています。個人がスピードを活かして抜いていく選手が多いので楽しみです」
ブラックラムズはタンバイ・マットソン新HCのもと、2024−25シーズンを戦っている。今シーズンそして未来に向けての想いを最後に語ってくれた。
「よりスピードを増したランとキャリー、そしてトライも見てほしいです。チームの勝利に貢献するとともに、個人的にはもう一度日本代表に返り咲きたい想いが強いので、強みを発揮できればチャンスはあると思います。怪我をしないでシーズンでの出場を続けて、再び日本代表に入りたいです」
その後日、またもや大怪我もついに復帰
しかし、この後にも試練は続いていた。インタビューの数日後のプレシーズンマッチで膝の半月板を損傷してしまい、またもや手術を受けることになってしまった。
「靭帯断裂時と一緒(開幕直前での大怪我)だったのでフラッシュバックしました…本当に悔しかったです。ずっとリハビリやっててまた復帰して怪我したので、戻ってしまったわけですから。『またリハビリかぁ…』と少し落ち込んだりもしましたが、やることは変わらないのですぐ切り替えました」
そして約2ヶ月半後の2月1日、第6節のコベルコ神戸スティーラーズ戦でグラウンドへと帰ってきた。リーグワン公式戦では23年3月4日のNECグリーンロケッツ東葛戦以来約2年ぶりだった。
「700日以上空けての公式戦だったので、ワクワクしながらグラウンドに立っていました」
その言葉通り、復帰戦では前半開始2分でトライを決めるなど自らの復帰を祝う活躍を早々に見せた。
試合を重ねるごとにパフォーマンスを上げ、15日の浦安D-Rocks戦では80分間フル出場。

そして、22日の東芝ブレイブルーパス戦でもトライを決めるだけでなく、素速いランでのボールキャリーで観衆を大いに沸かせるなど、上で述べた持ち味を存分に発揮した。
「正直無理やり復帰まで持ってきた感もあって、リスク承知で最初はパフォーマンスが上がらないことは覚悟してやっていました。でも、そこは戻ってきた感じはありますし、体もフィットしてきて80分間自分の好きなことができる感じを持ってプレーできています」
重ねての充電期間を経てさらにステップアップしたメイン平。ラグビー人生における新しい幕が、ピッチで再び開かれている。
(おわり)
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