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ラグビーは「空間」で変わる クボタスピアーズ船橋・東京ベイ 岸岡智樹が示した“立体と平面”の面白さ

3月、都内でクボタスピアーズ船橋・東京ベイの岸岡智樹によるラグビー体験会が開催された。

ラグビーはなぜ「難しい」と言われるのか。2月の再始動から間を置かずに実施された今回のセッションは、そうした問いに対する一つの答えを示す場でもあった。

初開催から1年以上行われている本体験会。そのプログラムは、これまでの延長線にありながらも「継続することで理解を深める場」へと、新たな領域に踏み込んでいた。

(写真 / 文:白石怜平)

“再会”ではなく“進化”。コミュニティが生んだ体験会の価値

この体験会は、岸岡が主宰するラグビーコミュニティ「トモラボ」を母体に行われている。

参加者の声をきっかけに2024年1月にスタートし、今回で6回目。現役選手がシーズン中に自ら指導に立つという点においても、ラグビー界では極めてユニークな取り組みである。

最大の特徴は、選手から直接「現場のリアル」に触れられることにある。

具体的な場面における思考や判断を、言葉だけでなく“体験”として理解できる点が、この体験会が人気である所以となっている。

昨季、岸岡が負傷により長期離脱した影響から前回開催まで約1年空いたが、その間もコミュニティは途切れることなく続き、岸岡にとってもリハビリの活力となった。

オンラインでの交流、そして徐々に再開された対面イベントの積み重ねもあり、2月の再開はより深まった関係性の中での進化として現れていた。

初参加のメンバーも開催都度増えており、新旧の参加者が混ざり合うことで新たな化学反応が生まれる。そんな体験会へと回を重ねるごとに絆を深め続けている。

1年ぶりの再会から1ヶ月ぶりに続編を開催した

広い視野を持つべく設定した“立体と平面”

今回、岸岡が設定したテーマは「立体と平面」。

これまでの体験会では、「数的優位」や「ポジションごとの役割」といった具体かつピンポイントのテーマを設定して扱われてきた。

3対2の作り方やディフェンスの原則、あるいはスクラムといった局面ごとの理解。だが今回は、その一段上のレイヤーだった。

「ラグビーってもっと広い視点で捉えられるスポーツなんじゃないか」

岸岡はそう考え、これまでの“点”としての理解を“線”としてつなげるためのテーマとして、「立体と平面」という概念を持ち込んだ。

「これまでの内容も大事なんですけど、それだけだといずれ限界が来ます。ラグビーはもっと広くて、過去の経験をつなげていく感覚があるんだというのを伝えたかったんです」

岸岡自ら動きと言葉で丁寧に紐解いた

プレーの技術ではなく、「構造」そのものに踏み込む。今回の体験会はまた一歩踏み出した挑戦でもあった。

ラグビーは今回のテーマでもある“空間”を扱うスポーツである。しかし、その空間が「平面」なのか「立体」なのかという視点は、ほとんど語られることがない。

ただ、岸岡は「言葉としては出てこないんですけども、見てる人は必ずどこかで感じている部分」と語る。

選手は感覚的に落とし込んだ上で無意識にプレーできているが、それを言語化する機会は少ない。だからこそ今回のような場であえてテーマとして取り上げた。

体験会では意図的に2対1の状況を作り出すなど、“空間”を意識させる設計がなされた。

ただ人数が有利というだけでなく、「どの方向にスペースがあるのか」「どの高さ・奥行きでプレーが展開されるのか」

それらを感じ取りながらプレーすることで、参加者は“見えていなかったもの”に触れる機会となった。

参加者も実践を通じて理解を深めていった

「ストーリー」がラグビーを面白くする

今回の体験会は、これまでとは明らかに感覚が異なっていた。

「正直、今日の内容は僕でも難しいと思ってました」と、岸岡自身もそう振り返る。

これまでのようにポジション毎や1プレーを通じて“やった感覚”が得られる内容ではないからである。むしろ“よく分からない”という感覚に近い、それこそが狙いだった。

「頭で分かって、それを試合で見た時に“面白いかも”って思える。その感覚を持ってもらえたら」

プレーとしてすぐにできるようになること以上に、 “見方が変わること”。それが岸岡が構築する体験会の価値でもあった。

難解なテーマを扱うからこそ、メニュー設計には細心の工夫が施されていた。

最初は上述の2-1のシンプルな内容からスタート。徐々に人数を増やし、7人のオフェンスで3人を抜ける・守る形式へと幅を持たせた。

少人数から大人数へと徐々に実践のレベルを上げていった

さらに動きも立体と平面を意識させるように「ディフェンスは横のみ動けます」と、あえて規制を加えることでテーマを徹底して浸透させていく。

ラグビー未経験者でも入りやすい形で進めながら、徐々に実践に即したメニューへと接続していく。終盤では、ポートボール形式のゲームを導入。

3チームでの変則的な形式は参加者に新鮮さを与えつつ、これまでのレクチャーを浸透させるものであったが、これも岸岡が考え抜いて取り入れたものだった。

「最終的には、何も考えなくても楽しめる形にしたかった。その中で、今日の内容とつながる瞬間があればいいなと思い、ポートボールというやりやすい形を考えましたね」

点としての体験が、ふとした瞬間に線としてつながる。その設計こそが、この体験会の大きな特徴であった。

今回印象的だったのは、参加者の変化だった。声掛けや連携の質。プレー中の判断。それらは明らかに、これまでの積み重ねによって変化していた。

「これは(24年の)第1回でやろうと思ってもできなかったと思います」

岸岡もそう断言する。参加者同士の関係性、そして主催者との信頼関係。
それらが築かれて初めて、今回のような抽象度の高いテーマに踏み込める。つまりこの回は、一つの“到達点”でもあった。

体験会の終盤、岸岡はこんな言葉を口にした。

「ストーリーってすごく大事なんですよ。点と点がつながると、試合を観るのが楽しくなるんです」

これまでの取り組みをストーリーという“線”につなげていた

これまで扱ってきた数的優位などから今回の“立体と平面”へ。一見異なるように感じる要素が、一本の線としてつながることで、ラグビーの理解は一気に深まる。

この言葉通り、今回の体験会は“プレーする場”であると同時に“観るための視点”を育てる場でもあった。

ラグビーに対する一般的なイメージは、屈強な体がぶつかり合うシーンを思い浮かべるように、フィジカルの強さにある。だが岸岡は、その先入観を覆す。

「ラグビーって論理的にやることが楽しいスポーツなんです。体が強くないとできない、というわけでは決してないことを伝えたいです」

空間を理解し、状況を読みながら最適な選択をする。 その積み重ねこそが、ラグビーの本質だという。今回の体験会を通じて、参加者の多くがその気づきを得ていた。

グラウンドへの復帰を見据える現在地

今回の体験会はこれまで以上に抽象度が高く、難易度の高い内容だった。しかしそれは、ラグビーというスポーツの奥深さを伝えるための一歩でもあった。

その感覚に触れた人が「難しいけど、面白い」と感じられる人が増えること。 そして、その人たちがまた誰かに伝えていくこと。岸岡の取り組みは、そうした連鎖を生み出そうとしている。

そして自身は、昨年受けた負傷からの復帰を目指している。練習試合での実戦復帰、さらには公式戦試合前での練習に参加するなど、復帰への道を着々と歩んでいる。自身のコンディションについて前向きに語った。

「パフォーマンスの感覚は日に日に戻ってきている」

フィジカル面だけではなく試合での感覚や判断、そしてラグビーをコントロールする思考。それらを統合していく段階にあるという。

すでに実戦形式の機会も増えており、あとは試合の中でどれだけ発揮できるか。

「いつチャンスが来ても応えられるように準備したい」

その言葉からは、一現役選手としての強い意志が感じられた。

観る楽しさだけではなく、動きを通して体で理解し、そのうえで観る楽しさ。そのすべてを内包したこの体験会は、ラグビーの価値を広げる場として、確実に進化を続けている。

(了)

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