
12,000名の新1年生へ贈る「サンダースギフト」 川崎ブレイブサンダースが届けた未来への種
川崎ブレイブサンダースが地域に向けてこの春に新たな取り組みを行った。打ち出したのは、川崎市の新小学1年生約12,000名へ向けた“入学ギフト”の寄贈だった。
スポンサー企業とともに実現したこの取り組みは、単なる記念品配布にとどまらない。子どもたちの安全・生活・そして新たなコミュニティをも見据えた設計には、スポーツクラブの価値を拡張するヒントが詰まっている。
3月26日に川崎渉代表取締役社長が会見に出席し、実現までの過程や地域の子どもたちに向けた想いなどを語った。
(取材 / 文:白石怜平、写真提供:川崎ブレイブサンダース)
Bリーグクラブとしては初、地域企業と連携した新入学生への支援
今回、クラブは川崎市の新小学1年生に向けた「にゅうがくおめでとう!川崎ブレイブサンダースギフト」を寄贈する。
対象は川崎市立の小学校および特別支援学校119校に入学する新1年生約12,000名で、2026年4月の入学式にて配布される予定。地域企業とともに子どもたちの新生活を支援する取り組みは、Bリーグとして初の試みである。
本ギフトは単なる記念品にとどまらない。学用品や文具に加え、防犯グッズや日用品などを一つにまとめた実用性の高いセットとなっている点が特徴。
反射材キーホルダーを同梱するなどし、入学を機に行動範囲が広がることに伴う新1年生の安全確保にも配慮した設計となっている。

さらに、同じギフトを手にすることで子どもたち同士の会話や交流のきっかけを生み、新たなコミュニティ形成を後押しする想いも込められている。
地域と企業、そしてクラブが一体となって子どもたちの新たな一歩を支える本施策。これにはクラブが「街のインフラ」として機能を目指すための、明確なグランドデザインがあった。
「我々が東芝さんから事業を承継したときから、一貫して掲げているミッションがあります」
贈呈式に伴う記者会見で川崎渉社長はこのように述べた。その言葉の節々にクラブが地域と向き合ってきた想いが凝縮されている。
「『MAKE THE FUTURE OF BASKETBALL〜川崎からバスケの未来を〜』というクラブミッションです。
地域の方々に愛されるクラブになるだけでなく、その力を街に還元し、川崎をより住みやすく、より良い街にすることに貢献したいと考えてきました」

川崎社長はある数字を紹介した。DeNAがクラブを承継した当時は30人規模だったアカデミー(ユース・スクール・チア)は、今や2,800人を超える組織へと成長。Bリーグでもトップクラスの規模を誇る。
さらに、ホームゲーム来場者の約3割がファミリー層であることを示し、川崎市においてバスケが「家族の日常」に溶け込んでいることを意味していた。
「子どもたちは、我々の未来そのものです」。
川崎社長は続けてこのように述べた。全国的に少子高齢化が進む中、川崎市は子どもが多い地域で活気に満ちたエリアでもある。
統廃合ではない純粋な新設校である新小倉小学校が開校するなど、ポジティブなエネルギーに満ちたこの街で、クラブがいかに「未来」を担保するか。その答えの一つが、1年前から構想を練り上げてきたという「サンダースギフト」だった。

「子どもたちの安全のため」社会課題へのアプローチ
今回のプロジェクトはプロスポーツクラブが「社会課題の解決」に真正面から取り組んでいる点にある。その一つが「小学1年生の交通事故率」という深刻な問題である。
統計的に、小学1年生は登下校中の交通事故率が急増する傾向にある。
それまでは保護者の付き添いが常にあった子どもたちが、一人で歩いて行動範囲を広げ始める時期。ここで起こりうる不安に対して、クラブは「安心・安全」というキーワードで応えた。
ギフトに含まれる「反射素材キーホルダー(ヨシノ自動車協賛)」は、その象徴。
「学校生活を楽しく過ごしていただくためのアイテムだけでなく、少しでも安全に過ごしてほしい。ご家族が安心して学校に送り出せるような、新社会への適応をサポートしたかった」と川崎社長は語った。

また、ギフトには各家庭で買い揃える必要がある学用品も同梱されている。これは保護者の負担軽減も目的としており、地域全体で子どもたちを育てるという姿勢の現れでもある。
サンダースギフトを構成するのは、クラブ単体ではなく、地域のパートナー企業6社と連携して制作されたアイテムであった。
これらは単なる既製品の詰め合わせではない。川崎社長は「教育現場の現実」を知るために、約1年間をかけて川崎市教育委員会や現場の教職員と対話を重ねてきた。
「最初はお道具箱なども検討しましたが、現場からは『学校ごとに規定がある』というフィードバックをいただきました。
本当に喜ばれ、毎日使っていただけるものは何か。アイテムの選定一つとっても、現場の声を反映させながら、1年かけてたどり着いたラインナップです」

特筆すべきは、この大規模なプロジェクトの資金スキーム。12,000セットという数に対し、市税などの公金は一切使われていない。
「基本的にはパートナーの皆様に支えられ、我々と共に推進している形です」と川崎社長が明かした通り、これは地元の企業が「川崎の子どもたちのために」と結託し、互いの熱意が結集して実現したものである。
この4月から新入生となった12,000名の子どもたち。クラスメイトとなった新しい顔ぶれのコミュニティに入り、緊張した面持ちの子どもたちがマスコットロウル」の同じバッグを持ち、同じノートを開く。
「僕もロウル好きなんだ」「試合、観に行ったことあるよ」そんな些細な会話が、新しい友達を作るきっかけになる。
「バスケが好き、スポーツが好き。あるいは音楽が好き。何でもいいんです。このギフトが、会話の糸口になってくれれば、それこそが我々の思いです」(川崎社長)

クラブは今季子どもたちに向けた3つの取り組みを実現させており、サンダースギフトもそのうちの一つ。
本施策以外にも海外の文化・考えに触れられるきっかけとなる副教材である「グローバルチャレンジノート」の配布や、選手インタビューやスタッフのお仕事を紹介する「こども新聞」の発行を展開している。
クラブは学校のみならず家庭内でのコミュニケーションを活性化へと導いていた。
ホームタウンが掲げるブランドメッセージへの共鳴
川崎市は、「Colors, Future! いろいろって、未来。」というブランドメッセージを掲げている。クラブはこの理念に深く共感し、今シーズンから「KAWASAKI COLORS FUTURE!PROJECT」を昨年11月より始動させている。
その一環として、ホームタウン名である「KAWASAKI」を記した特別ユニフォーム「”KAWASAKI” CITY EDITION UNIFORM」を着用した試合を今季7試合実施した。

「多様性、未来、子供」をキーワードにクラブが街に新たな未来を創出しているが、「サンダースギフト」はさらに彩りを与える活動である。
会見の最後、継続の難しさについて問われた川崎社長は、こう答えた。
「一番の努力は、何もないところから仲間を見つけることでした。前例がない中でイメージを共有するのは難しかった。しかし、日頃から理念を共有しているパートナーの皆様、そして教育現場の皆様の協力があったからこそ、ここまでたどり着けました」

1.2万人の新小学1年生。彼らの真新しいランドセルの横で揺れるトートバッグは、川崎の春の新しい景色となった。
スポーツクラブが子どもたちを守り、支え、つながりを作る。その光景は、勝利を追い求めることに並ぶ、プロスポーツの価値をさらに高める取り組みであることを示している。
「MAKE THE FUTURE OF BASKETBALL〜川崎からバスケの未来を〜」
そのミッションの先にはバスケを通じて豊かになった、子どもたちの眩しい笑顔が広がっている。
(了)
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