リコーブラックラムズ東京 世田谷でのシーズンラストゲームで踏み出した新たな一歩 ”事務機ダービー”は勝利に届かぬも後半に意地を見せる
3月23日、「NTT JAPAN RUGBY LEAGUE ONE 2023-24 第12節 リコーブラックラムズ東京 vs 横浜キヤノンイーグルス」の試合が行われた。
今シーズン最後の世田谷でのホストゲームとなったブラックラムズ東京(以下、BR東京)。途中出場したあの選手が後半奮闘した。
(写真 / 文:白石怜平)
「誰もが楽しめるラグビー観戦環境」への第一歩に
今節では、聴覚障がい者向けコミュニケーションサービス「Pekoe」(ペコ)が導入された。
母体である株式会社リコーのアクセラレータプログラムから生まれたサービスで、専用アプリをダウンロードして記録開始を実行するだけで会話を文字化することができる。
ここでは、マッチデープログラム内に掲載されたQRコードを読み取り専用サイトを表示させると、会場内でアナウンスする音声が文字化された。
聴覚障がいのあるファンを招待し、スマートフォンで試合状況を把握しながら観戦できる体験になった。
この取り組みは、地域と密着していることがきっかけとなり実現した。
25年11月には日本初となるデフリンピックが東京で開催され、BR東京がホストスタジアムとしている駒沢オリンピック公園総合運動場が会場の一つになっている。
デフ(Deaf)は、英語で「耳がきこえない」という意味で、デフリンピックとはデフアスリートの国際大会として開催されている。
また、ホストエリアである世田谷区と協力し合い、4月1日から施行された「世田谷区手話言語条例」に関するPR動画を制作。磯田凌平選手と栗原由太選手が実際に手話で会話を行っている。
試合前には西辻勤GMがメディアの前に立ち、上記などについて説明した。
「これらの全てが合わさったこともあり、我々もスポーツをさまざまな方に楽しんでいただくことができるのではと考え、スタッフで企画しました」
会場の外ではデフラグビーの体験が行われ、小池一宏選手と髙橋敏也選手参加するなど、BR東京が1日を通じてデフスポーツを盛り上げた。
途中出場の南が2トライと奮闘
そして試合は”事務機ダービー”と題して行われた。プレーオフ圏内のトップ4(4位)に位置する横浜Eをホストゲームで迎えるBR東京。
入替戦出場圏から脱するべく、駒沢での今シーズン最後の一戦となった。
序盤は横浜Eが優勢となり、ラインアウトモールから押し込みHO中村駿太が先制トライを決める。(ゴール成功)
その後はBR東京も得意のハードワークを見せ、23分にはFLアマト ・ファカタヴァからNO8ネイサン・ヒューズと繋ぎ前へと押し込むもグラウンディングならず。
25分には横浜Eが一時退出で一人欠き、BR東京が再びモールで攻めたがここも得点ならず。
再びモールで攻めるもここでも得点を逃す
すると今度は横浜Eがラインアウトモールに持ち込むと、そのままFL嶋田直人のトライとなり12-0(ゴール失敗)。
BR東京は得意の攻撃を受けた形となり、前半を終えた。
後半もBR東京は苦戦を強いられる。9分に荒井康植が50:22を決めると、その後のラインアウトからのアタックを守り切れずFLコーバス ・ファンダイクにトライを許した(ゴール成功)。
その後、BR東京は逆に敵陣に入りこみ、WTB西川大輔が端からダイブしトライに挑むも惜しくもラインを超えず、ここでもあと一歩のところで阻まれた。
横浜EはハイパントからボールをつなぎCTB梶村祐介がグラウンディングを決め24-0と点差が広がっていく。
しかし、ここで諦めないのがBR東京のラグビー。ついに反撃ののろしが上がった。22分、ボールをつなぎアタックを続けると、一瞬の隙を突いて途中出場のSH南昂伸が飛び込んだ(ゴール成功)。
さらに南は躍動する。横浜Eに追加点を挙げられるも、36分にまたもやモールに持ち込み、ボールを持った南が最後尾から素早く接地しこの日2本目のトライを決めた(ゴール失敗)。
それでも反撃はここまでとなりノーサイド。トップ4のチーム相手に最後まで食らいついたBR東京だったが前半のビハインドが響き、世田谷のファンに勝利を届けることはできなかった。
しかし、前節の東芝ブレイブルーパス東京戦に後半の15分間で14点差を追いつくなど、伝統の”最後まで諦めないラグビー”で上位チームに食らいついている。
試合後の会見で、前向きな要素として後半に得点力が高まっている点について武井日向主将に訊くと、
「今はリザーブの選手たちのマインドセットが高いですし、どういうプレーを求められているかに対して100%のアクションができています。あとは、試合の状況は常に変わっていく中で、いい意味で引きずらず”今この瞬間”という意識を持てているからだと思います」とその要因を答えた。
試合後の記者会見
ピーター・ヒューワット ヘッドコーチ(HC)
「残念です。自分たちらしくない前半でした。正しいエリアに侵入してからの精度が欠けていました。セットピースでは2本モールでのトライを与えてしまい、残念でした。前半はそういった意味も含めて、自分たちの流れを作れなかった。
後半は控えの選手が良いパフォーマンスを見せてくれたと思います。どうすべきなのか・何をすべきなのか。それを控えの選手はスターティングメンバーに見せてくれたのではないかと思います。
アーリーエントリーの2人である、山本嶺二郎とサム(サミュエラ・ワカヴァカ)はすごく良かったです。経験のある選手に対して、このジャージーを着る意味を見せてくれたのではないかと思います」
ー今日出場したアーリーエントリーの2人について、来週以降の試合でも先発の可能性はありますか?
「そういうオプションも当然あると思います。僕の考え方としてプレーがしっかりできれば、年齢は関係ありません。あの2人に関してはしっかりとやれるということを見せてくれています。チームにとっても、いまはトランジションフェーズ(変化のタイミング)なのかなと。
この2人を含め、他のアーリーエントリーメンバーもすごく良いと思います。継続して成長してパフォーマンスを見せてくれれば、チャンスは巡ってくると思います。隣にいる彼(武井主将)がみんなを良くリードしてくれているので、日向を含めた若い選手たちがこのチームの未来だと思います」
―今出ている選手の奮起を求めているか
そうですね。今日は南昂伸がよかったです。何かを変えようとする・インパクトを与えようとする。ミスを恐れない、そういう選手が必要ですよね。会社のために、この着ているジャージのために。
それ以外でもチームメイトや誰かのためでもいい。そういうもののために「やれることはなんでもやりたい」と思う気持ちが大事。そういう選手がもっと増えていくといいですね」
武井日向主将
お疲れ様です。自分たちはミスから自陣に入られたときにモールでスコアされてしまった。こちらにもチャンスは巡ってきて相手の陣地に入れたのですが、そこでの精度が悪く決めきれなかった。チャンスをものにできた横浜Eに対して、できなかった僕たち。それで差が開いてしまいました。
―チャンスの数は変わらなかったと思うが決めきれなかった理由は
モールのところだと思うんですけど、特に前半は簡単にトライを与えすぎてしまった。あそこでもう止めないとだめですし、相手にとってやりやすいディフェンスをしてしまったので、そこは改善したい。僕たちのモールについては、ラインアウトは獲れましたがその後の動きの精度も上げていかないといけないです」
―HCから「トランジションフェーズ」という言葉がありました
若い選手は熱い思いを持っているし、エナジーがすごくあります。今試合に出ているメンバーも出続けられるわけではないと感じています。競争のレベルは確実に上がっているので、フレッシュなメンバーの存在はチームにとってすごく大きい。
そのメンバーたちが結果を出せているのは、正しい準備をしているからだとも思います。僕自身もまだまだですけど、チームのために身体を張ろうという気持ちでプレーしている。そういう思いをより強く持ってくれる選手が増えれば、いい方向に進んでいくとおもいます」
次節は明日秩父宮ラグビー場でのナイターで12勝無敗の埼玉パナソニックワイルドナイツを迎え撃つ。
(おわり)
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