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埼玉西武ライオンズが運営する「ライオンズ整形外科クリニック」スポーツ医療を還元することで実現する地域への“恩返し”

2024年4月1日に開業した「ライオンズ整形外科クリニック」。

埼玉西武ライオンズが設立に関わったクリニックということで、昨年注目を集めた。

プロ野球球団が運営するクリニックという球界初の取り組みは、選手のみならず地域に向けても多大な価値を生み出していた。

クリニック開業から1年、この間の取り組みや未来に向けてを2編にわたってお伝えする。

(取材 / 文:白石怜平、表紙写真:球団提供)

3つのステークホルダーが連携し、構想から約2年で開院へ

今回はライオンズでコミュニティ創生部を統括している松本有さん・ライオンズ整形外科クリニックで事務長と診療放射線技師を兼任する鈴木晋さん・そしてクリニックの運営全般をサポートしている「アスリートメッド株式会社」の大山慎太郎さんの3名に登場いただいた。

「ライオンズ整形外科クリニック」はライオンズの増田裕也チームドクターが院長を務めており、西武球場前から徒歩約3分に位置している。

選手やチームに向けては怪我からの早期回復・けがの予防・パフォーマンス向上を、そして地域に向けてはスポーツの世界で培ったノウハウを展開する。この両輪を目的として開設された。

松本さんは、開設の背景をこのように述べた。

「ホームゲームで試合中にアクシデントがあった場合、特にナイターの場合は病院が営業していない時間帯のため、検査がどうしても翌日になっていました。選手に早くグラウンドに戻ってもらうためのサポートを強化したい。そこの解決を目指しました」

また、2つ目の目的にある地域貢献についても想いがあると、こう続けた。

「我々はありがたくも最先端の医療を受けることができていますが、それが球団内にとどまってしまっていました。

球団は日ごろから地域の皆さまに支えていただいていますので恩返しをしたい想いがあり、且つ先端の優れた医療技術を還元したい想いも持っていました」

クリニックには主に2つの意義があると語る松本さん

松本さんが語った“最先端の医療を受けることができている”。その答えは、一昨年締結したパートナーシップ契約にある。

23年1月30日、ライオンズと帝京大学はスポーツ医科学サポートに関するパートナーシップ契約を結んでいる。

かねてから同大学は管理栄養士を派遣するなど、選手のコンディショニング管理をサポートしてきた。

これをトリガーに球団内にて「ハイパフォーマンスグループ」が新設され、パフォーマンス向上や怪我からの早期復帰などに向けた連携が深まり、クリニック開院へと展開されていった。

クリニックの運営は、ライオンズと帝京大そしてアスリートメッド株式会社の3者が協力し行われている。

松本さんも「アスリートメッドさんの知見がとても大きくて、そのおかげでスピード感を持って実現できました」と断言する。

開院に向けては互いの協力があって実現した

アスリートメッド社は、プロスポーツチームの持つヘルスケア全般のノウハウを、自治体や大学病院など多くのステークホルダーと連携しながら地域に還元する事業を行っている。

これまでアントラーズスポーツクリニックやワイルドナイツクリニック、武蔵野アトラスターズ整形外科クリニックと、各チームと連携したクリニックを展開してきた。

構想が挙がってから開院までは約2年。それは3者が結束したからこそ実現できたことだった。

23年1月にクリニックの開業が発表された(球団提供)

地域そしてファンも訪れるクリニックに

クリニックは昨年4月1日に開院したが、名前や立地ということもあってか当初は“選手しか入れないのではないか”というイメージも持たれていたという。

だが、入口の前にチラシを貼ったり、球団もプロモーションを継続することで徐々にアスリート以外の患者も多く来るようになった。

鈴木さんは、現在来院する患者の傾向についてなどを明かしてくれた。

「初めて来る患者さんには問診票を取るのですが、どのようにクリニックを知ったかと言うと、45%の方が口コミ。患者さんから患者さんへの口コミが1番大きかったです。

次に多いのは『建物を見てきました』と。観戦にベルーナドームへ訪れた方たちが注目してくれたり、地域の皆さんが散歩しながら見つけた時に『ここって一般でも入れるんですか』と聞いてくださる方も多かったですね。

年齢別で一番多いのは、10代の男子です。スポーツやってる若者だけかと思いきや次は70代の女性。幅広く来ていただくようになりました」

鈴木さんは現場でも患者さんと向き合っている

また、球場のすぐ側にある立地ということもあり、特にシーズン中はこのような方も来られるという。

「ライオンズファンも多く来てくださいますね。試合日に合わせて予約を取ってユニフォームを着て来られる方もいます。診察やリハビリをこなして『行ってきます!』と、我々もいい状態にして観戦へとお送りしています(笑)本当に嬉しいですよね」

内装にも力を入れており、中に入るとレジェンドブルーで統一された空間が広がる。選手のサイン入りユニフォームや使用済みのバットや手袋などが飾られ、ミュージアムに来たかのような高揚感も味わえる。

ライオンズの選手たちの実使用品も飾られている(球団提供)

なお、その装飾は通院をしているファンと共に創られており、次第にレベルアップしている。鈴木さんは裏話を披露してくれた。

「選手のグッズを『よかったら置いてください』と寄付いただいて、ユニフォームの近くに置かせてもらったり、昔の雑誌も持ってきてくださいました。ありがたいお話です。

ちなみに、使用中のランプなど細部までこだわっていまして、ベースをイメージした形も使っています。そういった点も患者さんに安心と楽しみを味わってほしいと考えています」

使用中のランプもベースをイメージするなど細部にこだわりがある(球団提供)

チーム・地域の両面で果たしている役割

設備は最新式の機器が使用されている。1階の検査室で用いられるMRIはAI(人工知能)が搭載されたもので、速いかつ詳細な検査を行うことができる。鈴木さんも技術の進歩に驚くほどだった。

「私も30年ほどMRIに関わっていますが、当時からは考えられないスピードで撮影できます。

入ってから退室するまでが15分以内で、しかも何種類もできます。昔は1分で1つの画像を撮影するというのは不可能でしたが、今はそれが実現できています。

例えば肩と肘の2箇所を撮影する場合でも、30分以内で終えられます」

AIが搭載された最新式のMRI撮影機(球団提供)

体制においてもホームゲームの場合は試合中に怪我が起きたとしても、すぐに受け入れるよう整えている。

「試合中であっても、ゲームセットまでには診断結果を出せます。選手もとにかく診断結果を早く知りたいので、それに応えられていると感じています。

骨折している・肉離れしているというのは、次の処置に向けた大きな分かれ目になりますし、(骨折や肉離れを)していないとなるとすぐ安心してもらえるのでその点も大きなメリットになると考えています。

この距離にクリニックがないと実現できないスピード感ですし、チームスタッフも『近くにあって本当によかった』とおっしゃっていました」

最新機器に加えて、リハビリスペースも充実。

2階のリハビリスペースでは、一般用に加えてアスリートエリアを設けるなど、500平米を超える面積を活用しながら、さまざまな患者のニーズに応えている。

大山さんも開院後約1年間を振り返りながら感じていることを述べた。

「早期診断からリハビリでつなげてしっかりと回復させる。その流れができつつある。もちろんスポーツに知識があるスタッフが揃っていますので、早期診断から回復までの行ったところに寄与できる施設にはなったと思います」

院内のリハビリスペース(球団提供)

一方で地域に向けての役割として、“恩返し”という言葉がキーワードになっている。

チームと一体になったクリニックを数々手がけている大山さんも、医療と地域の関係性と共に、その意義について語った。

「患者さんたちから『待ち望んでいたんです』という言葉をいただくのがとても嬉しかったんです。地域層としては近隣である所沢や下山口・上山口さらに広がると小手指からも来ていただくのですが、このエリアはクリニックが少ないのが現状です。

いわゆる“医療過疎エリア”と呼ばれても過言ではない場所でしたので、『とにかく病院ができてよかった』と多くの方が言ってくださいます。

プロスポーツチームの発展、地域の活性化や地域課題を解決するのが我々のミッションですから、地域医療という観点からもすごく大きな意義を果たしていると実感しています」

大山さんは地域の方から受けた声を明かしてくれた

開業1年にしてチームそして地域へ大きな貢献をしているライオンズ整形外科クリニック。2年目を迎え、新たな取り組みにも着手した。

つづく

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