
「ライオンズ整形外科クリニック」“動かしながら治す“運動療法で切り開くスポーツ界の未来
開業から1年以上が経った「ライオンズ整形外科クリニック」。
選手たちには迅速な検査と処置を施し、より早い復帰をサポートするとともに、地域にとっても心の拠り所として早くも存在意義を発揮している。
2年目を迎え、前年に見えたニーズにも素早く応えていた。
球団が掲げる想いとともに描く展望などを、引き続き西武ライオンズの松本有さん・ライオンズ整形外科クリニックの鈴木晋さん・アスリートメッド株式会社の大山慎太郎さんが語った。
(取材 / 文:白石怜平、表紙写真:球団提供)
育成年代に向けたアプローチと2年目の挑戦
クリニックは未来の野球人育成に向けても大きな役割を担うと共に、新たな取り組みをスタートしている。
現在運営しているライオンズベースボールアカデミーやジュニアチームら野球を続ける子どもたちに向けてもサポートを行っている。ベルーナドームにほぼ隣接しているメリットがここでも活かされていた。
「(球場の向いにある)プロスピトレーニングセンターで開講しているので、子どもたちも通っていると聞いています。我々が行っているのは怪我の早期発見や予防を目的とした野球肘健診。
あとベースボールアカデミー開講前に行うストレッチの内容をクリニックの理学療法士に考案してもらっています。
将来的にはアカデミーの中で、理学療法士と組んでトレーニングや体の使い方といったコースをつくる青写真を描いています」

そして、新たな挑戦を怠ることも決してなかった。今年4月から、パーソナルトレーニングのプログラムがオープンした。リハビリの継続や体づくりなど、それぞれの課題に合わせて個別にアプローチする取り組みが始まった。
その背景を大山さんが語ってくれた。
「保険診療において整形外科に通院している患者さんのリハビリの期間は、診断から原則150日間と設けられています。
ただ、『不安なのでまだ診てもらいながら続けたい』というニーズや、『競技のパフォーマンスアップのために体づくりの指導を受けたい』という相談をいただいていたんです。
その検討を重ねた結果、パーソナルトレーニングという形でこの4月からスタートをしました」
野球界そしてスポーツ界のフロントランナーへ
ライオンズは『野球界のフロントランナーになる』という考えを持ち、人財育成など各所に力を入れてきている。
昨年のジャパンウィンターリーグで選手を派遣するなど、12球団初となる取り組みを行い、従来の慣習にとらわれない挑戦を続けている。
整形外科クリニックの開業もその一つである。
「医療とチームが一体となってクリニックを運営することは、プロ野球の中では初めてです。このような取り組みが12球団の中で広まればそれは良いことですし、地域においても本当に大切なことだと考えていますので、スポーツ界に拡大してほしいです」

大山さんも「日本のスポーツ界のトップが行う影響も大きいですよね」と2人に語りかけながら、日本のスポーツ界に変化をもたらす可能性についても言及した。
「中学生や高校生が大切な大会の前に怪我をしてしまうことってありますよね?それをギプスで固定されてしまったら、もう試合に出ることはできない。でも、『何とかして試合に出させてあげたい。最後の思い出になるように早く回復させてあげたい』。
その想いを持つクリニックが増えてくると日本のスポーツ界全体が変わってくると思いますし、試合に出られない子を一人でも減らすことができれば、このクリニックには大きな存在意義があります。
今はライオンズさんと一緒にここを目指してやらせてもらっているので、日本中に広められれば、悲しい思いする人たちが減ると考えています」

クリニックで現場の最前線にも立っている鈴木さんは、診療時のエピソードを明かしてくれた。
「サイトにも体を動かして治す“運動療法”という記載をしています。
実は高校生で野球をやっている子が肉離れを起こしてしまい通院しているのですが、理学療法士から自転車での来院を推奨したりして、まさに動かしながらの治療を実践しています。
リハビリ室からも『次の試合に治そうぜ!』『試合までに治すからね!』といった声がよく聞こえて、信頼関係が構築されていってるのを聞くと、ほほえましく思います。
今は試合に出場できそうなところまで回復していて、私も驚きましたよ」

「まだまだできることがある」今後の展望
開業から約1年が経ったライオンズ整形外科クリニック。新たな挑戦が始まるなど、今後もスポーツ界や地域発展に向けた貢献を続けていく。
まずは松本さんに今後の展望を述べてもらった。
「数多くの方に来ていただいてますので認知度も上がっていると思いつつ、まだ届いていない層もありますので、そういった方たちにも魅力を伝え、利用していただけるように取り組みたいです。
今後も地域の方々に支えていただいてる想いと、我々が還元していく気持ちを忘れずに、良い循環を作っていきたいと考えています」

鈴木さんは患者さんと実際に接している視点で語った。
「今後来院される方が増えても円滑な診察ができるよう、スタッフの増員や育成等を行いながらクリニックの体制を強化していきたいです。施設のキャパシティはまだまだ余裕がありますので、現場はそのサイクル構築を目指しています」
そして大山さん。「地域の皆さんから信頼されることが一番だと思います」と力強く断言。
その理由は、1月に行われた西武鉄道主催のイベント「ウォーキング&ハイキング」に参加した時だった。

「西武球場前駅の目の前に、骨密度や重心動揺計を用いた測定ブースを設けました。イベントに参加した方のうち300人以上ですかね、列が途切れることなく受けてくださいました。
その時に感じたのは、地域のニーズってもっとあるのではないかと。
怪我の治療や予防に加えて、骨粗しょう症対策に向けたなどの啓発活動なども行うことで地域に貢献できると感じたので、そういった取り組みも進めていきたいと思います」
野球界のフロントランナーとして駆け抜けているライオンズ。地域そして野球界の枠を超えたスポーツ界へ好循環を生み出しつつある。
(おわり)
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