2年ぶり開催「全国身体障害者野球大会」”エースのために参加を”一丸となった名古屋ビクトリーが悲願の初優勝
名古屋が6度目の挑戦で悲願の初優勝
ほっともっとフィールド神戸での2回戦は、神戸コスモスが龍野アルカディアを10-0(3回コールド)で破り、決勝へ進出。
神戸コスモスは前述の通り、身体障害者野球誕生のルーツとなったチーム。
春の選抜大会優勝18回・秋の選手大会優勝16回という圧倒的な強さを誇る名門である。
前回大会まで3連覇中で、今回は4連覇を目指し決勝へ臨んだ。かつて主将を務め、この試合も3番・左翼でスタメン出場した西原賢勇選手は「ここを目指してやっていますので、まずは開催できて嬉しい。名古屋さんも神戸まで来てくれて感謝です」と語り意気込んだ。
その決勝戦は神戸と名古屋の対決。名古屋はこれまで5回決勝に進出しているが、いずれも準優勝。相手は全て神戸で、その高い壁に阻まれてきた。今回6度目の正直で初優勝を狙う。
決勝戦の舞台はほっともっとフィールド神戸。14:45にプレーボールのサイレンが響き渡った。
試合は3回に動く。名古屋が連打とスキのない走塁で3点を先制。前の試合14点を挙げた打線がここでも力を発揮した。
初戦に引き続き先発した水越投手の好投が光った。阪和戦では勝利投手になったものの中盤に途中降板していた。
初戦ではマウンドに上がった時に「ここでしっかり投げれなかったら手術明けも投げれるのか」不安が頭をよぎりながら投げていたという。「ここまで荒れたのは初めてだったので」と話すほど本調子には遠かった。
実は当初、決勝戦では投げる予定がなかった。ただ、ナインのほぼ全員が「最後、水越にもう一度投げさせてあげてください」と萩巣守正監督に直訴していた。
ナインの想いを受け取った萩巣監督は左腕に想いを託す。試合後にその話を聞いたという水越投手も初戦の悔しさもあり「このままでは終われない」と1球1球全力で腕を振った。
120km/hを超えるストレートを武器に100km/h台の変化球を織り混ぜ、神戸打線を翻弄する。4回に初ヒットを許すものの、以降は1本も打たせない完璧なピッチングを披露した。
名古屋は6回に1点を追加し、4−0で迎えた最終回(7回)。水越はこの回もマウンドに上がる。球威は落ちることなく、最後の打者も121km/hのストレートで空振り三振を奪いゲームセット。1安打完封で名古屋に優勝旗をもたらした。
創部30年目、6度目の挑戦で悲願の初優勝となった萩巣監督は「コスモスに勝って優勝できた。このために毎週欠かさず練習してきた。念願です」と試合中の厳しい表情から解放され、満面の笑みを見せた。
惜しくも4連覇を逃した神戸。西原選手は「完全に力負け。名古屋さんの方が力が上でした」と振り返り、「今はチームの転換期。僕ももう一度守備を鍛え直して奪い返したい」と名門の意地を見せることを誓った。
そして2戦2勝で本大会のMVPに輝いた水越投手。試合後は、
「(2試合投げて)本当にきつかったです。でも、ついに優勝することができましたし、手術前という特別な思いもありました。嬉しいの一言です」
と充実した表情で振り返った。今後についても「復帰したら球速アップさせて帰ってきたいです。リハビリを頑張ってまたみんなと野球をやれるようにしたい」と、復帰へのモチベーションを胸に、過酷なリハビリと戦う覚悟を見せた。
2年ぶりの大会は無事に終了。日本身体障害者野球連盟の山内啓一郎理事長は大会を終えて、
「多くの関係者の協力もあり、感染予防の徹底をおこない大会が無事に開催ができて本当によかったです。来年は新型コロナウィルス感染が収束し、16チームによる大会が開催できることを願います」
と安堵の表情を浮かべるとともに、来年への期待を寄せた。
現在も神戸を断念したチームも含め、それぞれの状況と向き合いながら活動を続けている。”来年こそ神戸で” 野球への情熱がある限り、その灯は消える事はない。
(取材 / 文:白石怜平)