2年ぶり開催「全国身体障害者野球大会」”エースのために参加を”一丸となった名古屋ビクトリーが悲願の初優勝

「仲間のために」近畿以外から唯一参戦した名古屋

午前9時、ほっともっとフィールド神戸で「龍野アルカディア-京都ビアーフレンズ」・G7スタジアム神戸で「阪和ファイターズ-大阪ジャガーズ」がプレーボール。甲子園でお馴染みのサイレンがこだました。

選手たちは久々に野球ができる喜びをグラウンドで存分に表現する。

ベンチからも常に打者へ指示を出し、守備でも外野に抜けそうな打球を片足で精一杯追いかける。そこからキャッチしてアウトにした時は相手チームからも「おぉ、ナイスプレー!」と称える声が上がった。

身体障害者野球の特徴の1つで、障害のランクは関係なく、統一したルールで行われる。(筆者撮影)

身体障害者野球ではパラリンピック競技のように障害の度合いによるクラス分けがない。身体障害者手帳を所持する肢体不自由者は年齢・性別関係なく登録ができる。

(※現在は聴覚・視覚・内部・言語障害者の登録は不可、療育手帳所持者も1チームの人数制限ありでの対象となる)

義足や車椅子・杖が必要な選手、片手の欠損や麻痺が残る選手などが同じユニフォームを着て共通したルールでプレーする。これが身体障害者野球の特徴の1つである。

また、ルールは健常者の野球と異なるものが一部存在する。

バント・盗塁・振り逃げは禁止。加えて下肢障害の選手に限り、打者の代わりに走る「打者代走制度」がある。

上肢障害で俊足の選手が代走専門で起用されることもあるなど、戦略の1つとして活用されている。このようにお互いの障害をチームで補い合えるのも身体障害者野球の魅力である。

身体障害者野球特有のルールである打者代走。お互いの障害をチームで補うことができる。(筆者撮影)

試合はトーナメントで行われ、龍野アルカディアと阪和ファイターズが2回戦進出。それぞれシードで組まれている神戸コスモス・名古屋ビクトリーと対戦した。

本大会の最注目は、近畿地方以外で唯一の参加チームとなった名古屋。

同じ地元の中日ドラゴンズとも交流があり、立浪和義氏・山﨑武司氏らOBとも野球教室などを行っている。1993年の第1回大会から全国大会に出場を続け、伝統チームの1つである。

名古屋は上述の田中理事とのやり取りの中で「絶対に神戸に行きます!」と即答していたという。大会にどうしても参加したい理由があった。

元日本代表でチームのエースである水越大暉投手が本大会後から約3年、チームを離れることが決まっているためである。

名古屋ビクトリーの水越大暉投手。(写真提供:NPO法人日本身体障害者野球連盟)

両脚に障害のある水越投手は、6月に4カ所ずつにメスを入れる大手術を控えている。昨年の時点では今年4月に手術の予定だったが、5月に全国大会が開かれる方向であること・また自身も昨年満足に投げる機会がなかったことから手術の延期を決断した。

術後のリハビリにも年単位の時間を要することから、チームとしても「水越のためにも出させてください」と連盟に直訴し、今回の参加が決まった。

シードで迎えた2回戦、相手は阪和ファイターズ。名古屋は序盤から打線が爆発し効果的に点を重ねる。14-5で勝利し、決勝に駒を進めた。水越投手はこの試合の先発を務め、勝利投手となった。

関連記事一覧