「第59回日本理学療法学術研修大会 in東京」競技に携わる理学療法士3名が講演 身体障害者野球との関わりと未来への展望
6月30日に東京国際フォーラムで行われた「第59回日本理学療法学術研修大会内の公社)東京都理学療法士協会が担当する公開講座」。
ここではシンポジウムが開かれ、「身体障害者野球の歩みと展望ー理学療法士に対する期待ー」をテーマに、競技に関わる選手そして理学療法士の面々が登壇した。
前半では選手による理学療法士と現在までのやりとりや展望が語られた。後半では、身体障害者野球のチームに関わる現役の理学療法士が登壇し、それぞれのルーツや事例を紹介した。
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(写真 / 文:白石怜平)
チーム、大会運営における理学療法士のサポートの可能性
選手に続いて壇上に上がったのが、神戸市立医療センター中央市民病院勤務の佐々木康介さん。
佐々木さんは、身体障害者野球発祥のチームである「神戸コスモス」のサポーターとして在籍しながら「NPO法人日本身体障害者野球連盟」の理事の役割も担っている。講演でまずは競技の歴史やルールなどを説明した。
佐々木さんは学生時代に中級パラスポーツ指導員の資格を取得し、ボランティア活動を行っていた。
そんな中、2012年に当時コスモスの監督で身体障害者野球の創設者でもある岩崎廣司さんから連絡が来て、チームの活動に参加し入団することになった。
今回伝えたポイントの一つは”怪我”について。身体障害者野球においても怪我は課題の一つだと語る。
慢性的な肩や肘の痛み、プレー中でのアクシデントなどケースはさまざまであるが、怪我の予防の重要性を説明した。そのために、理学療法士としてサポートができることについて私見を述べた。
「6月の全国大会ではコンディショニングブースを設置して、選手のケアを行いました。選手が安心して競技ができるようなサポート体制を目指していきたいです。また、理学療法士に関わらず、ぜひ身体障害者野球をご覧いただき、関心を持っていただけますと幸いです」
日本代表のマネージャーで活かせた経験談
続いて登壇したのは神戸百年記念病院に勤める村岡潮美さん。佐々木さんと同じく、神戸コスモスのサポーターとして身体障害者野球に携わっている。
村岡さんは学生時代からパラスポーツに関わりたい想いを持っており、地元の体育館で開催されていたパラスポーツの練習や大会のボランティアに参加していた。
その後障害者スポーツ指導員の資格を取得し、パラスポーツとの関わりを深めていた。そんな中、上述の岩崎さんより電話でコスモスのサポートを直接オファーされたのが始まり。以降、チームとの関わりは約10年にわたる。
コスモスでの継続的な活動から発展し、18年そして昨年の世界大会では日本代表のマネージャーとして世界一連覇の一員となった。その際に理学療法士としての経験が役立った具体的事例を明かしてくれた。
「合宿の際に外傷を負った選手に速やかな対処ができたことや、足の怪我が悪化した選手には歩行時によるストレス軽減に向けた指示をしました。また、個々の選手と会話を重ね状態を把握することで、ストレッチや動作指導も継続的に行いました」
そしてパートの最後、日本代表での経験などを踏まえていくつかの提案を行った。
「チームやPT協会または日本身体障害者野球連盟が組み、合同での勉強会を開催できれば双方の更なる発展に繋がると思います。どのような特徴の選手がいてどんな関わり方があるかを知ることで、理学療法士が活躍できる幅も広がると考えています」
「選手たちのニーズと理学療法士の強みが合致する競技」
最後は帝京平成大学に勤務する田中直樹さん。田中さんは整形外科やスポーツ医学系の分野で長らく活躍しており、甲子園の期間中に帯同したりプロ野球選手のリハビリも担当するなど豊富な経験を持っている。
田中さんからは、現場の方々に向けた専門性の高い内容を展開した。
現在は身体障害者野球チームのグラウンドへ定期的に足を運んでおり、選手とのコミュニケーションを重ね、個々の状態に合わせて助言を送ってきた。
本講演ではそんな田中さんが5選手をピックアップし、その具体的な事例を元に実際に行ったアプローチを紹介した。
「(写真で)挙げた選手は麻痺ということで、床面のコントロールや巧緻性の部分といった、”どの辺に設置をすれば最も反力をもらった状態で体幹を回旋できるのか”を一緒に考えているところです」
田中さんは講演に当たり、事前に身体障害者野球の選手64名にアンケートを集計していた。障害の内訳や野球における影響、野球をしていることによって出た症状などの結果を共有した。
続いては、アンケートに基づき選手が「求めていること」について紹介。ここで自然と導き出されたあることについて明かした。
「理学療法士にどうしてほしいという意味ではなく、選手に”どのようなサポートを求めますか”という問いを設けました。その回答を見ると、選手たちのニーズと我々の強みが合致する競技だと感じたんです。
多様な疾患・障害があって、個別に考えていくこと。それは解剖や運動学といった、我々が養成校時代から学んできたことに立ち返ることなんだなと。なので、結果的に理学療法士の強みが自然と活きる分野なのだと思っています」
田中さんは最後、自身が身体障害者野球に携わっている立場として聴講している理学療法士の方達にメッセージを送った。
「私もグラウンドに行ったらものすごく魅了されました。理学療法士の皆さんも気軽に門を叩けばチームも皆さん歓迎してくださると思います。この業界が一層盛り上がると思うので、ぜひ一度行ってみてください」
最後は登壇者5人に向けて聴講者からの質疑応答コーナーに。一人ひとりが身体障害者野球への想いを伝え、会は終了した。
(おわり)
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