
井口資仁さんが今年も身体障がい者野球の指導 選手たちの情熱は社会貢献活動の後押しに
9月15日、都内で「MAXIV LIEN PROJECT 野球教室」が開催された。
身体障がい者野球チームを対象にした野球教室で、2年続けて井口資仁さんが講師を担当。約1年ぶりの再会を喜び合い、選手たちは成長を披露する場にもなった。
(写真 / 文:白石怜平)
昨年に続き行われ、約50名が参加した野球教室
本野球教室は株式会社MAXIVが主催し、実現した。
同社は社会貢献活動として「MAXIV LIEN PROJECT」を23年12月に立ち上げて以降、障がい者福祉センターや養護学校への訪問活動などを行っている。
槙島法幸社長は視覚障がいがあることから、自身のように障がいのある人たち達の力になりたいという想いを抱き、これをきっかけに発足した。
その想いに賛同したのが、NPB・MLBの両方で活躍しロッテでは監督を務めた井口資仁さん。
ダイエー(現:ソフトバンク)に入団した97年から社会貢献活動を継続しており、同プロジェクトにも第1回から参加している。

「自分が現役中にたくさんの方にお世話になったので、恩返しという意味もありますし、あとはユニホームを脱いだ今、未来の野球界に向けて裾野をさらに広げていきたい想いがあります」
とその想いを明かしてくれた。井口さんは年々、身体障がい者野球との関わりを深めてきた。
昨年の同プロジェクトに加えて一昨年は福島で行われた名球会の野球教室でも講師を担当。地元の身体障がい者野球チームや「第5回世界身体障害者野球大会」の日本代表選手たちにも技術指導を行ってきた。
今回も身体障がい者野球チームを対象に展開され、「千葉ドリームスター」「東京ジャイアンツ」「東京ブルーサンダース」さらには「仙台福祉メイツ」「名古屋ビクトリー」から約50名の選手が参加した。

ボールを投げる際は「回転数」をテーマに
まずはキャッチボールから。井口さんは輪の中心に入り、
「回転数をつけて投げる意識を持ってやってみましょう。全力で投げればもちろん強い球は行きますが、回転数を意識することによって投手はキレのいい球、野手であれば送球でファーストなどが捕りやすい球になります。
なので、キャッチボールではしっかり指にかかった回転数の多い球を意識すること。それを相手の胸に100%正確に投げられる距離から初めていきましょう」
選手たちはそのアドバイス通り1球1球時間をかけ、丁寧に投げ込んだ。井口さんも全体を回り、気づいた点をアドバイス。その場で球筋が伸びるなど変化が見られた。

キャッチボールを終えると次は守備へ。ホークス時代に3度ゴールデングラブ賞に輝いた名手から直々にポイントを教わった。
「どこでどのように捕ったら楽に次の動きに繋げられるかをイメージする。正面で捕る時もあれば逆シングルの方が投げやすい時もあると思います。自分の体に合わせながら考えていきましょう」
実践に入ると、選手たちは何周もしてノックを受け続けた。昨年は逆シングルでの捕球を盛り込んだが、今回はグラブトスの動きを取り入れた。

身体障がい者野球では片手でプレーする選手も活躍しており、グラブトスもアウトを取る技術として定着している。
ここでもスムーズな動きで相手の胸に吸い込まれるようなトスを見せる選手がいるなど、スキルの向上に加えてこれまでの動きを自身でチェックする機会となった。
後半から井口さん自身がバットを持ちノッカーに。大きな声をかけながら打っていき、全員とボールを通じてコミュニケーションを取った。

バッティングでは「体幹で打つ」ことを実践
そして最後のメニューはバッティング。日米通算2254安打・同295本塁打をマークしたスラッガーから1つ要点が伝えられた。
「バッティングは体幹です。体幹に手が付いているような感覚です。体幹で打てるということは、軸でしっかり回れているということでもあるので、トップを大きく取れる人はしっかり取る。腕や上半身の力だけで振ろうとするとバットは上手く出てこないので、体幹を回すイメージでやってみてください。
あとはより強く振ること。(端の最上部に掲示されている)看板に突き刺さる意識を持ってトライしましょう」

今回はロングティーを行い、選手たちは看板目掛けてひたすらバットを振り続けた。
ここでも一人ひとりに目を配る井口さん。選手の特徴を見定めながらアドバイスを送った。

途中、車いすの選手に向けてはマンツーマン指導を交えながら実演を披露。膝を着きながらでも打球は悠々と看板の上を超える当たりを見せ、そと描かれる放物線を周囲も手を止めて見入っていた。
ここでは先ほどの“体幹で打つ”ことに加えて、「タイミングをしっかりとる、そこからセンターにボールを押し出す!」とポイントを付け足した。
終了後に実演の意図を問うと、「少し角度があるだけでもバットの出方は変わってくるので、そのあたりも参考にしてもらえたらと思います」と語った。

「野球にかける情熱を感じた」
約2時間の野球教室は瞬く間に終了。選手を代表して千葉ドリームスターの小川颯介選手がお礼を述べた。
「井口さんにご指導いただくというのは私たちにとって光栄なことであるとともに、教わった多くのことを今後の野球人生に活かして精一杯取り組んでいきます。
また、MAXIV野球部そしてスタッフの皆さんもサポートいただきありがとうございました。
このような機会を設けていただいたことに感謝いたします」

井口さんは余韻冷めやらぬ中、終えてみて感じたことを明かしてくれた。
「去年おととしと担当させてもらっていますが、皆さんの野球にかける情熱を感じました。
その想いに応えられるように僕も“どうやったらうまく打てるかな”と考えながら話していたのですごく勉強になりましたし、この一生懸命さは我々が今一度見習いたい部分だと改めて感じた時間でした」

「MAXIV LIEN PROJECT」を通じて、施設へ訪問し交流を深めている井口さん。この野球教室は今後の活動にもプラスの影響を与えるものになった。
「もし自分が“もうここまでで限界かもしれない”と感じている方がいたとしても、一歩何かにトライする後押しができたらという想いがあります。
今日こうやって野球ができたり活き活きしている姿を見ると改めて僕も思いましたし、みんなもできるんだと感じてもらうことは大事だと思いますので」
現在野球解説者など幅広く活躍している中、冒頭の通り野球の裾野拡大に向けて強い課題意識を抱いている。今後の活動についての想いを最後に伺った。
「やはり裾野をしっかりしていくことによって、最終的にプロ野球やメジャーリーグに進む選手がどんどん増えてきますし、今まさに大谷翔平という夢を与えられる存在が間近にいます。
ですので、我々が地方にも赴いて活性化させる必要があると思いますし、特に中学では部活も少なくなっていると聞いていますので、一層力を入れて取り組んでいきたい想いです」
身体障がい者野球は11月に全国大会を控えるなど、シーズンは大詰め。また、来年には「世界身体障害者野球大会」も開催が予定されている。
井口さんも「(世界大会が)あることを聞いていますし、来年何かの形でも力になりたいと考えています」と語った。今後も選手の情熱と共に、レジェンドとの絆は固く続いていく。
(おわり)
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