井口資仁さん 「皆さんの野球熱と一生懸命さに心が動きました」身体障害者野球の選手約50名に指導 〜MAXIV LIEN PROJECT〜

6月22日、明治神宮外苑 室内球技場で「MAXIV LIEN PROJECT 野球教室」が開催された。NPBとMLBで活躍した井口資仁さん(前ロッテ監督)が講師となり、守備・打撃と約2時間にわたる指導が行われた。

(写真 / 文:白石怜平)

現役時代から社会貢献活動を継続

本野球教室は株式会社MAXIVが主催したイベント。同社は社会貢献活動として「MAXIV LIEN PROJECT」を昨年12月に立ち上げ、障害者福祉センターや養護学校への訪問活動などを行っている。

同社の槙島法幸社長は視覚障害があり、自身のように障害のある方達の力になりたいという想いから発足した。

講師を務めた井口資仁さんはダイエー(現:ソフトバンク)に入団した97年から社会貢献活動を継続しており、同社の活動に賛同したことからプロジェクトの第1回から参加している。

講師を務めた井口資仁さん

今回の野球教室は身体障害者野球チームが対象。

NPO法人 日本身体障害者野球連盟に所属するチームから、「千葉ドリームスター」「東京ジャイアンツ」「東京ブルーサンダース」「群馬アトム」「埼玉ウィーズ」「静岡ドリームス」の6チーム、約50名もの選手が参加した。

井口さんは昨年7月に福島で行われた名球会の野球教室にて、地元の身体障害者野球チームや「第5回世界身体障害者野球大会」の日本代表選手たちにも指導しており、今回2回目の交流となった。

昨年は日本代表選手たちの指導を行っていた

守備では”捕りやすい”ポジションで

まずはキャッチボールからスタート。その前に井口さんからこんなアドバイスが送られた。

「回転のいいボールを投げられることが大事です。それを自分で確認しながら相手の胸へ投げる。どこかで力が入ると体から手が離れてしまい抜けたりひっかけたりするので、相手に向かってステップしてしっかり投げましょう」

キャッチボールのポイントから解説した

キャッチボールを終えるとノックに移る。再び全員が井口さんの元に集まった。ダイエー時代、ゴールデングラブ賞3回に輝いた名手から捕球時のポイントを教わった。

「捕球の際は落ちてくるバウンド=ショートバウンドがいちばん捕りやすいです。最も捕りにくいのはハーフバウンドです。プロ野球でも難しい。あと100%の力で前に行こうとするとバランスを崩すので、70%くらいでいいバウンドに入ってしっかり投げる体勢に。

これが一番失敗しない形です。打球が来る時に『どういうバウンドが来るか』を想像しながら自分の動ける範囲でいいバウンドに入る練習をしましょう」

自らボールを弾ませながら説明した

最初はボールを転がして体勢をつくっての捕球から始め、数週した後に実際に打球を受ける。さらに発展させて逆シングルでの捕球も交え、バリエーションを広げていく。

フィールド中を歩き、全体を常に見ていた

途中、井口さん自らバットを握りノッカーを務めた。全員が一度は井口さんの打った打球を受けることができ、時折「今のいいよ!」などと大きな声を届けるシーンも見られた。

参加者全員にサプライズでノックを打った

それぞれの特徴にあったアドバイス

そして最後はバッティング。ロングティーとティーバッティングの2種類が用意された。日米通算2254安打の大打者でもある井口さん、守備同様に臨む前にポイントを伝えた。

「ロングティーでは強くて速い打球を打つように心がけましょう。弓を引き切るような感じで、自分の体を最大限に使って力を出してみましょう。(大きく体を使うことで)距離が出るのでその分大きな力が出せますし、回転を加えることでさらに強く出せます。

体全体、体幹を使うことで力をロスしない。体と手が一体になって打つイメージです。ティーバッティングではしっかりするミートすることを心がけてください」

バッティングでは”大きく”がキーワードに

ここでは一人合計100球以上とひたすら量を打ち込む時間に。井口さんは、積極的に声をかけ、気づいた点をその場で伝えた。その教えは「体の使い方はみんな一緒です」と、基本に沿ったものだった。

片手で打つ選手については「僕も現役時代に片手で打つ練習をしていたので、どう打てばいいのかを自分のやっていたイメージ・感覚に沿って伝えました」とポイントを明かした。

助言を受けた一人である東京ブルーサンダースの財原悟史選手兼監督は

「脇を締めてバットを身体の近くを通してスイングするイメージを持つことを教わりました。教わったことは基本でしたが、意識を持って練習することで一つ一つ動きが良くなっていきました」

と語り、その場で実践した際には早速打球の速度が上がり変化がみられた。

井口さんから貴重なアドバイスを受けた財原選手兼監督

途中、全体の注目を自身に向けた井口さんはバットを持ち実演。

「トップが小さくなると引っ掛けてしまうので大きく、大きくタイミングをとってセンター方向に」と現役時代に幾度となく見せた広角かつ強い打球を披露。快音が場内に響きわたりどよめきが起こるとともに「すごい」とあちこちで聞かれた。

鋭く美しい打球を実演で披露した

驚きと発見を見せた実演をもう一度見ることができた。車いすの選手である千葉ドリームスターの山田龍太選手に向けてマンツーマン指導が行われた時だった。

山田選手の特徴に合わせて、膝をつきながら上半身のみでのスイングを見せた。ここでも大きく鋭い打球が奥のネットに突き刺さり、周囲の選手も練習を止めて見入っていた。

膝をつきながらの実演で解説した

山田選手はその時受けたアドバイスについて、

「バットが体から離れているとのことだったので、バットを内から出そうと。そのために『右肘を体の内側に入れることと、ボールの内側を打つイメージでやってみよう』と言っていただきました。

あと僕はボールに当たった瞬間、バットを返す癖がありそれだと引っ張ったボテボテのゴロしか打てないので、『当たったらバットを返さず、そのままセンター方向に押し込むように振ったほうがいい』と教えてもらいました」

その場で実践した山田選手は、センター方向へライナー性の打球が次々と飛んだ。終了後の休憩中、チームメートと復習していたところに井口さんも参加するなど、ディスカッションも行われていた。

バッティング終了後にも井口さんと意見交換が行われた

井口さんにも会の終了後に山田選手へのアドバイスについて訊くと、今後の期待を込めてこのように説明した。

「腰が固定されることもありバットが外回りになって引っ掛けてしまうので、センター方向に打ち返すにはどうすればいいかを伝えました。

キャッチボールの時からどの角度で投げるのが一番いいかという話をしていたんです。その時から本人も色々試してくれましたし、きっと掴んでくれると思います。次会う機会があれば上手くなっている姿を見たいですね」

キャッチボールでも貴重な指導を受けることができた山田選手

約2時間の野球教室は無事終了。閉会式では参加選手を代表し、千葉ドリームスターの城武尊選手が「今日ご指導いただいたことを参加した選手全員試合で発揮していきたいです」と感謝を述べた。

井口さんも、「短い時間でしたが私も楽しませてもらいました。MLBも日本人選手が活躍するなど日本の野球界はとても盛り上がっています。これからも一緒に野球界を盛り上げていきましょう」とメッセージを送った。

城選手を中心にお礼を述べた

終了後、「皆さんの野球熱を感じましたし一生懸命さと言いますか、どうやったら上手くできるかを考えて自分なりの方法を見つけ出している姿勢に心動かされました」と振り返った井口さん。

そして最後には「やって本当によかったですし、すごく勉強になりました」と笑顔で語り、「(これまでの)福祉施設訪問含めてこの野球教室も継続してやっていきたいと思います」と今後に向けても述べた。

身体障害者野球は8月から地区大会が全国で始まる。夢のような時間は熱戦に向けたレベルアップの場にもなった。

(おわり)

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