身体障がい者野球を題材にした映画「4アウト」オーディション開催 闘将の遺志を受け継ぎ、野球が出来る歓びを伝える作品へ

4月11〜13日の3日間、映画「4アウト 〜ある障害者野球チームの挑戦〜」の障がい者キャストオーディションが東京と千葉で行われた。

この日は身体障がい者野球チームでプレーしている選手をはじめ、他パラスポーツや演技に勤しんでいる面々が門を叩いた。

(写真 / 文:白石怜平)

身体障がい者野球チーム「東京ブルーサンダース」がモデルに

本作品は2005年11月に発売され、23年8月に加筆されリニューアルした同名の小説を元に映画化される。

東京を本拠地に置く身体障がい者野球チーム「東京ブルーサンダース」の実話に沿ったストーリー。野球では3アウトでチェンジだが、“人生はそれでは終わらない”という想いがタイトルに込められている。

映画化される小説「4アウト 〜ある障害者野球チームの挑戦〜」

きっかけは今回映画の監督を務める稲垣壮洋さんがこの小説、そして作者である平山讓さんと出会ったことだった。

身体障がい者野球は81年、岩崎廣司さん(故人)が「神戸コスモス」を創設したことから、関西さらには全国に広がり始めた。

かねてから病院に慰問へと訪れていた当時阪急ブレーブスの福本豊選手と交流したことがきっかけで有志を募り、チームを結成した。

その後93年に岩崎さんを初代理事長とした「日本身体障害者野球連盟」が創設され、毎年春と秋に兵庫県で全国大会が開かれる。

さらに、06年からは岩崎さんの提唱で“もうひとつのWBC”と称される「世界身体障害者野球大会」も行われている。

もうひとつのWBCである「世界身体障害者野球大会」

25年4月現在、連盟に加盟しているチームは30都道府県・39チーム。競技人口は1000人を超えている。

東京ブルーサンダースは97年に創設された名門チーム。上述の全国大会の常連で、準優勝を何度も果たしている。また、野球以外の競技でもパラリンピックの日本代表選手を輩出するなど、約30年かけて歴史と伝統を積み上げてきた。

モデルとなっている東京ブルーサンダース(昨年5月の全国大会にて)

稲垣監督や平山さんから企画を持ち掛けられた増田プロデューサーは身体障がい者野球について知れば知るほど感銘を受けると共に、平山さんからあることを聞いて心に火がついた。

「野球そしてスポーツが出来る歓びを、まずは障がいのある人たちに知ってもらいたいと動いていた中、星野仙一氏(18年逝去)が映画化を進められていたというお話を平山先生からお聞きしました。そこで、なんとかその遺志を受け継ぎたい想いで今回制作をスタートさせました」

19年から本格的に動き出し、翌年から世界的に猛威を振るった新型コロナウィルスの感染拡大により中断したものの、再開の上このオーディションを迎えた。

野球経験がある人以外も多く参加した

「ありのままの自分を表現してほしい」

オーディションは冒頭の通り、3日かけて実施された。日本身体障害者野球連盟や関係者による告知などもあり、合計82名が参加した。

稲垣監督は、参加者の緊張を和らげるため開始にあたって丁寧に声をかけた。

「上手い人を採用するわけではないです。たくさんある役の中で何がマッチするかを見ています。ここで無理をしても本番でその役を出すことは難しいと思います。なので、ありのままの自分を表現してください」

監督の稲垣壮洋さん

稲垣監督は増田プロデューサーとともに足掛け7年、身体障がい者野球の活動を追い続けている。選手やチームにどんな特徴があるか、また障がいの名称についても勉強するなどその知識を深めてきた。

オーディションでは年代や野球経験の有無などを考慮して4人〜5人ずつに振り分け、そのグループごとにお題を設けた。

また、このオーディションには製作班に加えて原作者の平山さん本人も参加。

野球用品店のアルバイト面接に来た学生という設定や、実際のシーンに合わせて選手と監督が熱く語り合う場面など、一人ひとりの演技を真剣な眼差しで見入っていた。

選手と監督によるやりとりでは緊張感が自然と漂った

野球の実技ではグラブと柔らかいボールを使ったキャッチボールやゴロ捕球、さらにカラーバットを使った素振りでの動きを見た。

身体障がい者野球チームに所属している選手に向けては稲垣監督が、

「2アウト満塁フルカウントで、三振してゲームセットになったと思って振ってください」
「会心のあたりでホームランになりましたという時をやってみください」

などと具体的なシチュエーションでの依頼が次々寄せられ、参加者は“ありのままの自分”を表現した。

野球の実技でも状況に応じた表現をチェックした

野球を通じて「生き方」を伝える作品に

オーディションを終えてプロデューサーの増田さんは以下のように振り返った。

「皆さん、身体にハンディがあっても、活き活きと生きてるという姿を多くの人に見て知って貰いたいと言う思いが強い方達ばかりで、それだけでも嬉しく思いました。

こんなに感動したオーディションは初めてです。前向きに生きようという熱い想いが演技を超えてリアルに表現されていて、スタッフもみんな涙を流していました」と語った。

稲垣監督も参加者たちの熱を確かに受け取っていた。

「さまざま気持ちが溢れて、アドレナリンが渋滞中でした(笑)もちろん、いい意味です。関東近郊だけでなく関西や東北・北陸など遠方からも集まってくださり、本当に感謝しています。

映画に対する想い、ご自身の障がいへの気持ちや覚悟、ありのままを見せてくださったと感じています。熱盛!」

映画は26年に全国約100の映画館で公開される予定。数年越しの想いを形にするとともに、世の中に向けて明るい未来を照らそうとしている。2人は映画を通じて伝えたいことをこのように述べた。

「今回のオーディションを通じて健常者とか障がい者と言うワードが、如何に作られたものかと感じました。どんな人でも長所や短所があり、それを全て受け入れて、直向きに、情熱を持って、前向きに生きていくことの素晴らしさを伝えられればと思ってます」(増田プロデューサー)

「人は“何を言うか”よりも“何をするのか”が、一番説得力があると思っています。その人の行動に背景を感じるとき、心を動かされるのではないかと。少なくとも僕はそうです。

人が何をどう選択して生きているのか、その人の背景を感じれるような野球を描きたいです。映画を観終わった後に、『あぁ野球っていいな』と思ってもらえるような作品にしたいですね」(稲垣監督)

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