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甲子園夢プロジェクト 5年間の軌跡② 〜甲子園より先に実現したプロ野球選手の輩出と目指す共生社会〜

21年に発足した「甲子園夢プロジェクト」。知的障がいがある特別支援学校生が硬式野球へ取り組み、地区大会の出場などを果たしてきた。

23年後半からは世代や地域を問わず交流の幅を深め、その知名度は徐々に広がっていった。そして24年から今年にかけて野球界の歴史に新たな1ページを刻むとともに、競技の垣根を超えた挑戦もスタートした。

プロジェクトの未来像とともに、引き続き阿部隆行代表に語ってもらった。※全2回のうち2回目

>第1回はこちら

(取材 / 文:白石怜平、表紙写真:甲子園夢プロジェクト)

甲子園出場より先にプロ野球選手を輩出

24年から25年にかけて、甲子園夢プロジェクト(以降、夢プロ)を通じて野球界に新たな歴史のページを刻む出来事があった。

日本体育大付属高等支援学校(網走市)の工藤琉人選手が、今季から独立リーグ・北海道フロンティアリーグに所属するKAMIKAWA・士別サムライブレイズに入団した。

阿部さんも「甲子園へ出場する前にプロ野球選手を輩出してしまいました(笑)」と、決まった時の喜びを再び思い返すようにその経緯を語ってくれた。

「彼は『プロ野球選手になりたい』という目標を持って参加していました。今回入団に至ったきっかけが、昨年の夏にES CON FIELD HOKKAIDOで行われた『LIGA Summer Camp』でした。

それが北海道で行われるということで参加したのですが、独立リーグの方が視察で来ていて、それでトライアウトを受験して合格したんです」

阿部さんも工藤選手のプレーを見て、その能力に驚きを隠せなかったのだという。

「センターから真っ直ぐノーバウンドでキャッチャーに投げるので、初めて見た時にびっくりしましたよ。(特別支援学校に)野球部がなく陸上部で投げる競技をしていて、パラの全国大会で上位に入る選手でした。

今季戦力として入団して、投手にも挑戦していると聞いていますので今後の活躍を注視しています」

独立リーガーになる原点は夢プロにあった(提供:甲子園夢プロジェクト)

今年はベースボール型スポーツへと競技を拡大

発足から5年目を迎えた今年、夢プロとして新たな挑戦をスタートさせた。それは硬式野球の枠を超えたチャレンジだった。

それは「Baseball5」への挑戦である。Baseball5とは、キューバ発祥のベースボール型アーバンスポーツ。男女混合の5人・5イニングで行う競技で、グラブやバットを使用せず、ゴムボール一つで行われる。

プレーゾーンは縦横ともに18mの正方形の中で行われることから、“誰でも”・“どこでも”プレーできることが大きな特徴となっている。

夢プロとしてはこの5月、Baseball5のトップチームである「ジャンク5」と連携した交流会を行った。ベースボール型競技への進出を図った考えを明かしてくれた。

「夢プロの生徒たちが誘う時に、最初から硬式野球をやるにはハードルが高いと感じる方も多いと聞きました。軟式野球やソフトボールもありますが、Baseball5はボール一つで誰でもできるので、可能性を強く感じたんです。

“甲子園”というのがあるので硬式野球が軸ではありますが、一つ間口を広げることで何か生徒たちのきっかけになればいいなと考えていたので、すごくピッタリな競技だと思いましたね」

今年、夢プロとして初のBaseball5に挑戦した

夢プロの進出を最速で実現させたのが、チームの代表を務める若松健太さんの尽力だった。ジャンク5は「一般社団法人ジャンク野球団」の一つとして、強化だけでなく普及・教育の観点でもBaseball5を推進している。

その中で、ジャンク5が掲げるミッション「ベースボール型スポーツで『共生社会』を実現する」という考えに阿部さんも深く共感を持った。

「若松先生とお会いしてお話しさせてもらった時に、共生社会の実現について聞きました。お互いやりたいことが同じ方向を向いているとすぐ感じることができましたし。

ジャンク5さんと一緒にやればもっと面白いことできると思い、今どんどん新しいことに取り組んでいます」

その言葉通り、甲子園夢プロジェクトのメンバーが来年1月に行われるBaseball5の日本選手権にエントリーが決まった。共生社会の実現に向けても着実に歩みを進めている。

阿部さんと若松さん(写真右)それぞれの想いが一致した

ついに夢プロの選手が“初勝利”も

“本職”の硬式野球においても今年、参加チーム・選手両面で大きな進化があった。まずはこの夏に起きたチームにおける変化を訊いた。

「今年の夏の大会では、昨年に続いて青鳥特別支援学校が単体で予選に出場しました。夢プロとしては、初めて沖縄・大阪・静岡の3県が初めて連合チームとして出場し、大阪の井路端(いじばた)伸明くんがレギュラーとして2勝を収めました。

夢プロメンバーの選手として初めて“勝利”を手にしてくれましたのでこれも嬉しい出来事でした」

また、選手においても野球熱を強く感じられるエピソードを披露してくれた。

「沖縄の選手なんですけども、中学校では普通中学校の特別支援学級に在籍していました。当時から夢プロに参加していたのですが、普通校に入って高校野球をやりたくて受験をしたんです。それも野球での受験ですよ。

東京の学校にもセレクションにも行っていましたし、さらに面接の練習もすごく頑張ったそうです。結果彼は、地元の普通科の高校で野球部に入りました。公式戦の出場は今年果たせなかったですが、ベンチ入りはしているので来年以降楽しみです」

一人ひとりの言葉や想いが夢プロの原動力に

夢プロの存在は社会という広い視点においても大きな役割を果たしている。

参加しているのは冒頭の通り、特別支援学校に通う知的障がいのある生徒たち。夢プロを通じて好きな野球に熱中することで、社会性が自然と育まれていた。

「野球は団体競技なので、連携するためにコミュニケーションは欠かせないですよね?練習でもみんなしっかりチームメートと連携してプレーしているんです。

保護者さんからは、『学校では自分の考えを伝えるのが難しいみたいです』といった話を聞いたりしますが、グラウンドでは全くそんな感じはしないですし、すごいことだと思うんです」

特別支援学校を卒業後は就職する生徒が多く、夢プロで培った経験が社会に活き、そして明日への活力になっていた。

「私に『次の夢プロがいついつだから仕事頑張っています!』と言ってモチベーションの一つにしてくれてるので、すごく嬉しいですよね。夢プロ、そして野球が彼らの生活の一部になっていることを実感してます」

好きな野球に打ち込み、生活の一部になっている(甲子園夢プロジェクト提供)

阿部さんに生徒たちのエピソードを伺う中、「涙が出るくらい嬉しい話があって」と、高校生との交流秘話も明かした。

「合同練習で交流した学校の生徒さんからいつもメッセージをいただくんです。『最初はどう接していいか分からなかったけど、一緒にやって同じ野球を愛する仲間なんだと気づけた』とか、『本当に上手くて、なぜこの甲子園や予選に出れないんだ』などと、言ってくれました」

さらに、「慶應高さんに行った時があって」と心動かされる話を続けてくれた。

「慶應さんって“エンジョイベースボール”を掲げていますよね?それで、慶應の生徒たちが合同練習をした後に、『僕たちは本当の意味でエンジョイしてなかった。本当のエンジョイを今日見せてもらいました』と感想文を寄せてくれました。

夢プロの生徒に『日本一の“エンジョイベースボール”のチームがエンジョイを認めてくれたよ!』って伝えたら飛び上がるように喜んでくれましたよ」

保護者からも感謝の言葉が次々に寄せられ、阿部さんたちの気持ちを一層奮い立たせていた。

「『夢プロがなかったら、この子が生き生きすることはなかったかもしれない』とか、『硬式野球をできる環境にせっかく出会えたので何でもしてあげたいんです』と言ってくださって、それを聞いたら何としてでも続けたいって思いますよね」

硬式野球そして夢プロが関わる人たち全員の活力になっている(甲子園夢プロジェクト提供)

夢プロに参加する生徒は50名を超えた。特別支援学校の生徒たちが「自分にはできないかもしれない」と思っていた硬式野球への扉を今も開き続けている。

阿部さんは最後、甲子園夢プロジェクトを通じて創りたい社会を語って締めた。

「将来的には全国各地で当たり前のように障がいの有無問わず、一緒に野球をやっているような環境ができるようにしていきたいですね。

連合チームでも単独でもいいので毎年甲子園の予選に出ていて、『え、特別支援学校の生徒って出れない時があったの?壁とかハードルがあったの?』って言われるぐらいの社会をつくりたい想いです」

関わる人たちの熱い想いが集まっている「甲子園夢プロジェクト」。その活動の1つ1つがそれぞれの人生に彩を与え、希望の光を照らし続けていく。

(おわり)

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