
若手選手の躍進が光る西武 その成長を支えたのは言語化能力を育んだ「獅考トレーニング」
昨季球団ワースト記録である91敗を喫し、苦しいシーズンを送った埼玉西武ライオンズ。しかし今季は前半戦に上位争いを演じ、なおクライマックスシリーズ(CS)進出にも望みをつなぐ戦いを繰り広げている。
1年以内に状況を好転させ、ファンが未来への期待を膨らませている背景には、生え抜きの若手選手が投打で頭角を表していることが挙げられる。
今回は球団が“人財開発”として力を入れている育成やチーム変革について、眞山龍・本部長補佐に話を伺った。※全4回の第1回
(取材 / 文:白石怜平、表紙写真:©SEIBU Lions)
獅考トレーニングによる“言語化”で成長を促進
西武は“野球界を牽引するフロントランナーになる”方針を掲げ、新たな分野への挑戦を重ねている。
数ある先進的な取り組みの一つが冒頭に挙げた“人財開発”。
「主体性のある選手を育成する。そのためは指導者側もコーチングスキルを習得することが必要である」と考えた球団は、2020年から選手・指導者の両面で改革に着手した。
指導者においては監督・コーチ・スタッフ総勢約 120 名以上を対象に、外部機関と連携した研修を実施。
座学とグループディスカッションを組み合わせたプログラムを展開し、現場への指導に活かしている。

そして、選手を対象に行っているのが“獅考トレーニング”。
入団2年目までの若手選手に向けて、外部講師を招いた通年のカリキュラムを組んだ研修を組んでいる。自己理解や目標設定、さらにはスポーツマンシップや論理的思考など、個や組織の成長を促す内容になっている。
本トレーニングは、選手が試合や練習へ取り組むにあたっての思考の準備や、自発的に練習計画を立てることなどが目的。
人財開発担当のスタッフが選手の目標設定をサポートし、進捗確認やフィードバック面談を定期的に行うことで選手の成長サイクルを確立・加速させてきた。
ここで強化を図っているのが選手たち自身の「言語化能力」。
西武はプロ野球の世界で大成した選手の傾向として、自分の考えや気持ちを表現する能力が高い点に着目し導入した。眞山さんも、獅考トレーニングが選手そしてチームの成長に寄与していると感じている。
「選手自身が『自分はこういう選手・成績を目指しています』『そのためにこういう取り組みをしたいです』というのを明確に発信する必要があります。
これができないと、指導する側も『この選手を成長させるためには、どうしたらいいのか』と迷ってしまい、同じベクトルを向けなくなってしまいます。
自らの方向性や方針を言葉にできることが成長の近道であり、今後台頭してくる選手の特徴になると私は感じています」

この獅考トレーニングをグラウンドでの結果に結びつけつつある一人が菅井信也。21年ドラフト育成3位で入団した左腕は、3年目の昨季支配下契約を掴み一軍デビューを果たした。
そして今季は4月上旬から先発ローテーション入りし、10試合に登板し5勝・防御率3.06(※)をマークするなど今も一軍の舞台が主戦場となっている。(※以降、成績は8月18日現在)
菅井はトレーニングを通じた変化について、以下のように語っている。
「獅考トレーニングで目標設定の仕方を学んでいたことで、(一軍)初登板の経験を通じて得られた課題や反省点、そしてそれらを克服するための取り組みについてなどを具体的な数値目標を立てることができ、取り組みが明確になりました。さらに他選手の発表を聞くことで、自身の意識の変化にも繋がったと感じています」
ファームで体と頭脳を鍛えた選手たちが、今季次々と一軍へと上がっている。眞山さんはその選手たちが獅考トレーニングを通じて変化した点を述べた。
「菅井に加えて山田(陽翔)や黒田(将矢)といった今季一軍デビューした選手たちも獅考トレーニングを重ねて成長しています。
結果が出ている時はある程度自分の感覚を話すことはできるのですが、例えば投手であれば投球フォームなど内容の面で、自分の課題を話せるようになっていることが成長の要因だと思います」

新体制でさらに徹底した考え方と変化
今季、チームが大きく変化した点の一つが新たな首脳陣の招聘。鳥越裕介ヘッドコーチや仁志敏久野手チーフ兼打撃コーチ、大引啓次内野守備・走塁コーチといった、選手時代に西武在籍経験のないコーチを迎えた。
鳥越ヘッドはソフトバンクとロッテで15年以上コーチ・二軍監督を歴任し、育成・戦術の両面でチームを長く支えてきた実績がある。

仁志コーチは筑波大大学院で体育学を学ぶとともに、侍ジャパンのU-12監督やトップチームのコーチそしてDeNAの二軍監督を務めてきた。
大引コーチは日体大大学院でコーチング学を専攻し、同大硬式野球部の臨時コーチとして学生を指導し、NPBの球団では初のコーチ就任となった。
それぞれ学びや経験が豊富な指導者がチームに新しい風を吹かせ、西口文也監督を支えている。眞山さんはチームで最も変化した考え方を明かしてくれた。


「去年は91敗という成績でみんなが本当に本当に悔しい思いでしたし、どん底だったと思うんですよ。 ですので、何かを変えなければいけない。
一番変わったのが『当たり前のことを当たり前にしましょう』という姿勢です。
もちろん昨年もその前からもずっと言い続けた点ではあります。新体制になってさらに『小さなミスでも、当たり前ができないことは許さない』ことを首脳陣が徹底しています。
例えばシートノックでも全力疾走するなど、 試合前の練習からこれを継続している点が大きく変わったのかなと。あくまで一部ですが、私はそう思っています」
また、今季から一軍の指揮を執る西口監督は17年からコーチ、22年から二軍監督を3年間務めてきた。選手のことを熟知していると共に、ファームで指揮を執っていた野球を一軍でも実践している。
「西口さんはファーム監督の時から守備や走塁を重視していて、これまで取り組んできたことを続けられていると思います。
バッティングでは調子の波はどうしても起こりますが、守備や走塁というのは、日頃の姿勢や練習の成果が試合で出てくるものです。一つの小さなプレーや作戦を綿密に徹底されているを1試合1試合感じています」
西武のチーム防御率はリーグ3位の2.78で失策数は最も少ない47個。眞山さんが語った通り、1点を守り勝つ野球を繰り広げシーズンを戦っている。
「今は厳しい戦いが続いていますが、開幕からブレない戦い方をしています。一人ひとりのマインドセットは確実に変わってきていると感じています」

菅井の他にも西川愛也や滝澤夏央、現在鉄壁のリリーフ陣の一角を担う山田陽翔など、今季本格的に台頭してきた若獅子が多くいる。
それぞれが、今一軍の舞台に立ち続けられている要因についても迫った。
(つづく)
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