
福岡ソフトバンクホークスジュニア 練習会とデータ活用で連覇へ 新監督と共につくり上げる球界初の試み
昨年末に行われた「NPB12球団ジュニアトーナメント KONAMI CUP 2024 ~第20回記念大会~」で15年ぶり2回目の優勝を果たした福岡ソフトバンクホークスジュニア。
この大会を最後に帆足和幸監督が退任し、新監督には球団OBの嘉弥真新也さんが就任した。加えてチーム改革として、今年から12球団初となる試みが数々展開されている。
今回はアカデミーコーチとして指導をスタートし、その取り組みの中心に立つ嘉弥真新監督に、現在の心境からトーナメントに向けての構想などついて伺った。
(取材 / 文:白石怜平、写真:©SoftBank HAWKS)
優勝へ導いた兄貴分の後を受け就任
6年間率いた帆足前監督が有終の美を飾り、”卒業”後の新監督へと就いたのは鷹を日本一に何度も導いた鉄腕リリーバーだった。
嘉弥真監督は2011年ドラフト5位でホークスに入団して以降、貴重なリリーフ左腕として12年・昨季はヤクルトでプレーし、現役生活13年間で通算472試合に登板した。
引退表明後すぐにホークスからジュニアチーム監督のオファーを受け、新たなスタートを切る決断をした。
「ホークスそして福岡に戻れて嬉しいという気持ちが一番でした。監督というポジションを聞いて『僕ですか?』って思ったのですが(笑)。
でも引退してからいろいろなことにチャレンジしたい想いがあったので、『ぜひお願いします!』とお伝えしました」
自身が選手として仕えた監督たちにも復帰と合わせて就任を報告したという。
「藤本(博史)監督からは『おぉ頑張れよ!』と。秋山(幸ニ)さんと工藤(公康)さんにも報告しまして、特に工藤さんには『練習に来て指導いただきたいです』とお願いしたら『都合合えばもちろん行くよ!』と言っていただきました」
また、帆足前監督とは現役時代から同じ釜の飯を食い、兄貴分として慕っている間柄。就任を伝えると背中を押す言葉を送ってもらった。
「帆足さんからは『これも新しい挑戦だから、いろんなことにチャレンジしな。分からないことあったら全然聞いて!』と言っていただきました。
でも優勝した後なので自然とプレッシャーになりますよね(笑)もうやるしかないです」

自身も父親という立場であり、現役時には野球教室を通じて子どもたちを教える機会もあったことから「子どもたちは元々大好きですし、成長も早いので、教えるのは楽しいなと思っていました」と語る。
ホークスに復帰してからは監督業以外にも「ホークスジュニアアカデミー」のコーチとして、毎日子どもたちと向き合っている。
「本格的に指導者としてスタートしたので、今はとにかく勉強の日々です。どうやってボールをうまく捕る・投げるといった説明ができるかなどを動画で研究して、自分の子にも実践してみたりもしています。
あとは現役時代から読んでいた体の使い方の本をもう一度見直して、子どもたち向けにどう活かせるかも考えていますね」
なお、現役引退して間もないこともあって実演する機会も多いという。
「見せたほうが伝わりやすいと思うので、常に動ける体の準備をしておかなければいけない意識は持っています」
その言葉通り、3月23日に行われた「SoftBank HAWKS 20th ANNIVERSARY SPECIAL MATCH」にも登板し、130m/hの球で松田宣浩さんを打ち取るなど健在ぶりを見せていた。

練習ドリルを自身の知見を交えて考案
早くも12月のトーナメントを見据え、チームとしても改革に着手。ジュニアチームの選考会開催前に、入団を目指す選手向けに練習会を開催する。
12球団初であるこの取り組みは4月下旬と5月下旬の全2回行われ、その間は嘉弥真監督やコーチ陣が作成した練習ドリルを自主練習として実施。
首脳陣によるオンラインでのサポートを通じて成長を促していく。
加えてホークスジュニアに求める選手像や選考ポイント、過去のジュニア選手との能力比較などの情報も提供され、連覇そして子どもたちの成長に向けた環境が整備されている。
嘉弥真監督も「僕も少年時代にこういう環境でやりたかったので羨ましいです(笑)」と思わずこぼしたほどのプログラム。
練習ドリルも自身の知識と子どもたちの将来を考えたメニューになった。
「長く野球ができるようになってほしいので、怪我をしない体づくりと体力・筋力を強化させたいなと。基本的な体の使い方ができないと、技術面といった次のステップに進めないと考えています。
特に僕がプロで長くできたのは下半身トレーニングを続けたことでした。ですので片足で立ったり踏み出したりする動作や、ランジを組み込んでいます。それもトレーナーと連携して構築しました」

データ活用により、成長過程を可視化
もうひとつ、12球団初の取り組みがある。
それは投球や打球のデータを測定するポータブルトラッキングシステム「Rapsodo」を用いた計測で、ジュニア世代からデータを取得することで成長を可視化していく。
データ集積や解析においては12球団でも最先端を走ると言っても過言ではないホークス。ジュニア世代に向けて実施する背景や意義について嘉弥真監督はこのように説明した。
「一軍のデータ班とも話してたのですが、この世代のデータがないのでチームとして蓄積させたい考えがあります。
ジュニア世代でもデータを通じて傾向が分かっていけば、子どもたちの成長過程も把握しやすくなりますし、『だからあの選手が選ばれたのか』といった基準も見えてきます。
プロではしっかりと計測をしていますが、子どもたちに向けてはゼロから溜めていくのでこれから楽しみです」

また、球団の人脈を活用して国際的な比較を行うことも視野に入れている。かつて共に鷹の投手陣を支えた助っ人投手との連携についても明かしてくれた。
「実はバンデンハークがオランダで少年野球の指導者をやっていて、トラックマンとかラプソードのデータを持ってると聞いたので、それを共有してもらおうと思っています。
同年代の数値の参考にするのと同時に、日本の子たちが海外とどのくらい違いがあるのかも比較できますので」
嘉弥真監督も現役時代にラプソードを活用していた一人。その際どんなデータを見ていたのか。
「僕は感覚的に違和感を感じた時に回転数や回転効率を見ていました。抑えられていた時にスライダーの回転効率を見てみると、数字が低かったんです。
ではなぜかと突き止めていくと、回転効率が高い=綺麗な回転ということなので、フライボールが多くなる傾向にあるんです。逆に回転効率が低いと沈むのでゴロが増えることがわかりました」
球界として初の取り組みにチャレンジする日々を送っている嘉弥真監督。同時に指導者としてもデビューし、かつての指揮官の教えを応用するような取り組みを重ねている。
(つづく)
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