
「第2回デジタル野球教室」プロの世界を生き抜いてきた2人が説いた「長く野球を続けていく」ための心構えと姿勢とは?
昨年12月に都内で開催された「第2回 デジタル野球教室」。
最新機器を用いて技術向上を目指す野球教室は、数値と動作を組み合わせることで改善結果がその場で可視化された。
後半はトークショーが行われ、この日特別コーチを務めた五十嵐亮太さんと谷内亮太さん(現:日本ハム一軍内野守備走塁コーチ)が登壇。
未来への可能性溢れる中学生たちにこれからの道標を説いた。
(写真 / 文:白石怜平)
2人が感じたデータ活用のメリット
最初の話題は野球教室のメインテーマでもあるデータ活用について。
現在MLBではデータを活用した指標や理論が進んでおり、NPBも追随する形でスタンダード化しつつある。
ただ、五十嵐さんがMLBでプレーしていた2010年代前半は「これらの機器ってなかったんですよ」とし、当時の自身の取り組みを踏まえながらデータ活用のメリットを語った。
「『自分がどういうボールを投げたいか』を考えた時に、投げ方を教わったら自分の感覚に落とし込んで数をこなさないと理想とするものが投げられない。
今は自分が投げている感覚をその場で見て一致してるかを比較できますよね。数字が出たら、”次はこうしよう”の微調整で済みますし再現もしやすい。お互いに納得しながらできると思います」

現在NPBの現場に携わっている谷内さんは、指導の面におけるデータ活用について述べた。
「僕は専門が内野守備なので、主に見ているのは打球方向。球種ごとの傾向をチェックします。あとは自チームの投手データも参考に、守備位置を考えることもしていますね」
ここで五十嵐さんから「結果は出ているんですか?」と谷内さんに質問。場面を挙げながらこのように回答した。
「データに助けられてる部分はあります。勝ってるケースか、それとも終盤のピンチで使うのかといった状況や確率の問題になるのですが、例えば数字的に”三塁線に来そう”という傾向のある打者に使ってみて、助けられたことは実際ありました」

五十嵐さんが説いた上達への心構え
その後は質問コーナーへ。選手たちは恥ずかしさもあったからか、手を挙げにくい状況を察した五十嵐さんが「逆にさっき教えたことってちゃんと覚えてる?」と”逆質問”。
ここで、選手たちが今後上達する上で大切な心構えを伝えた。
「最初に感覚と言ったけれども、いい感覚を継続するための練習も大事です。それを続けるためにも教わったことを覚えてないといけないし、頭の中で整理できてないといけない。
自分がいいなと思ってることって自然と忘れちゃう。だから、頭を常に使ってないとダメ。”考えること”。『なぜなんだろう?』って考えてる人が結果を残している。
逆に結果を残せない人の傾向って自分はそんな感覚は良くなかったけども、結果良かったからこのままで行こうとか、本当はよくないんだけどってことを見過ごしがち。
ダメだった時に『何がダメだったんだろう』って答えを見つけ出す。それで上手くなるためにどうするべきかってのを考えてやり続けないと野球は上手くなれないです」

長く野球をしてきた2人が語る”判断”と”量”
最後のテーマは長く野球をするために必要なことについて。
両者とも競争の激しいプロの世界で10年以上プレーした立場。まずは谷内さんが時代の特徴を踏まえてアドバイスを送った。
「今はプロの選手を教えているのでその話になるのですが、今は情報量が多いですよね。指導者・トレーナーさん・慕っている先輩方、さらには個人で通っているスクールもあります。
どれを選択するのかが難しい時代になっているんです。
調子悪い時にどこに頼ればいいのか。自分で考えることは大前提ですが、次に誰に相談すればいいかなど、”判断する”ことが必要になると思います」

五十嵐さんは先輩にこの質問を実際にしたことがあったという。その時に教わったことを明かしてくれた。
「練習量だと。若い時って量をこなせるんですよ。年齢を重ねるほど量をこなせなかったり、出力を出しきれなくなってしまいます。
投手で大事なのは怪我をしないことなので、投げすぎて肩や肘を怪我する恐れがあるなら控えた方がいい。でも走って肉離れする人って周りにいないでしょ?
(中学生の)今は耐えることができる。いずれ耐えられなくなる時が来るので、そこまでにどれくらいやれるかが重要。
みんなは頭も柔軟だから、勉強するほど頭に入るし練習するほど上手くなる。怪我をしないことを慎重にしつつ量はやった方がいい。
プロに入る人はみんな練習量をこなしてる。『高校時代に戻りたくない』って言う人がたくさんいるけど、それだけやってきたから。量をこなせない人は生き残っていけない」

指導中から熱い言葉とリアクションで鼓舞し続けてきた五十嵐さん。ここでも選手たちの気持ちを奮い立たせるように語りかけた。
「でも楽しいことだったらできるよね?野球が上手くいかなかったとしても、この経験って違うことに活かせるから。何か一つのことをやりきった、打ち込んだっていう達成感というのは、野球以外の世界でもたくさん活かせる。
高校や大学でしっかり野球やってた人はプロに行けなくてもその場所で活躍できている。俺はそういう人をたくさん見てるから」

熱気に包まれながら全てのプログラムを終了した「第2回デジタル野球教室」。改めて最後にマイクを持った五十嵐さんは選手たちにこう託した。
「デジタル野球教室で学んだ選手たちから一人でも多くのプロ野球選手そして、メジャーリーガーが誕生することを期待しています!」
中学生の選手たちにとって忘れ得ぬ時間になるとともに、野球の技術も一段・二段とステップアップする日になった。
(おわり)
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