「第1回デジタル野球教室」青木宣親さんが中学生に伝えた目標を達成するための”覚悟”「自分を信じないと何も始まらない」
11月16日に明治神宮外苑室内球技場で開催された「第1回 デジタル野球教室」。
24名の中学生が参加し、自身の打撃や投球データの解析をしながら指導を受けられる斬新な企画がスタートした。
午後はスペシャルコーチとして青木宣親さんが登場し、5名にマンツーマンの打撃指導が展開された。その後はトークショーが行われ、選手たちの未来に光を照らす時間となった。
(写真 / 文:白石怜平)
必要なのは「データをどう技術に落とし込むか」
トークショーでは、デジタル野球教室にちなんで青木さんのデータ活用についての質問からスタートした。
青木さんがデータを活用し始めたのは、MLBでプレーしていた2015年・16年ごろだったという。そこから日本の野球界でも「今は選手たちも意識しています」と、データ解析が浸透している。
青木さんは自身がチェックしていたことについて明かしてくれた。
「僕は基本的にヒットを打つタイプの打者なので、投手のデータを見ていました」
またMLBでプレーした経験を踏まえて、選手たちに意識しておいてほしいことを伝えた。
「メジャーでは選手とコーチの間に”コーディネーター”という職業ができて、データを技術に落とし込む人が出てきた。それは、プロであってもそこ(落とし込みが)難しいとされているから。
大切なのは出てきた数字を見た上で、どういったアプローチをするのか。打球速度を上げるために筋肉をつけるのか、それとも体のことを覚えてバランスよく振れるようにするのか。
自分で数値を見てどうやって理想のスイングに持っていくかが必要です」
青木さんが伝えた「人生を豊かにする考え方」
ここからは選手たちからの質問コーナーに。
選手たちからは、青木さんの中学生時代は野球でどんな練習をしていたか、またプロになり活躍する過程でどんな考えを持って過ごしていたのか質問が寄せられた。
青木さんは中学生当時からを振り返り、選手たちに今後の道標になる考えを説いてくれた。
「普通の中学生で軟式の野球部に入っていて、みんなと野球するのが楽しいと思っていたのね。でも、今の立場になって振り返ると後悔したの。
『なんであの時俺はこれだけ好きな野球に対して一生懸命にならなかったんだろう』って。
でもその後悔があったから『そんな自分を変えたくて、必死でプロを目指そう』となれた。あの時そうだったから今の自分になれたのだろうし、でもその後悔が遅ければ叶わなかったかもしれない。
人生は長いし、失敗をしたことが糧になって未来が明るい方向に行くことはたくさんある。自分がそうだったから」
青木さんは自らを「目標を持って一直線に行くタイプ」と語る。”プロ野球選手になる”という目標を持つことでまさに自分が変わったという。
「大きな目標を持ったからこそ、その分覚悟をした。『プロになれるわけないよ』って何度も言われたし、友達には『プロ野球選手になる』なんて言えなかった。
目指したいと決めた時に周りは色々言うと思う。だけど自分を信じないと何も始まらないから。みんなも自信持って。苦しいことはたくさんあるから。
でも苦しいことは当たり前。そこをなんとか耐えて、もう一歩先に行くことを毎日やっていれば目標へ辿り着ける。とにかくやらないと届かないから」
覚悟を持って大きな目標へと挑み、実現させた青木さん。その過程で野球を嫌になったことがあるかを、この日司会を務めた新保友映さんが訊ねた。
「大学1年生の時に一度だけ。俺は覚悟していたから逃げ場を失ったのね。初めて努力をし始めたから本当にきつかったのよ」
肉体的にも精神的にも自らを追い込んでいた中、ある人に連絡したという。
「地方の大学でラグビーをやっていた兄に電話したんです。そしたら、『名門大学で環境も整っているところで野球をやれているんだから、恵まれているんだよ』と。その時にハッとしたのを覚えています」
もう一度目標に立ち返らせてくれたのは、家族のサポートだった。ここで、選手たちにもうひとつ金言を伝えた。
「両親もこれまでお弁当作ったり、試合を観に来たりしてくれているでしょ?周りがサポートしてくれてるから自分があることを言いたい。
そういう人がいないと絶対に生きられない。一人で野球選手になるなんて無理。支えてくれる人たちがいるから成り立っている。なので、恥ずかしいとは思うけどちゃんと感謝を伝えてほしい。
日々の生活は人間関係で成立しているから、それを意識すると人の行動に気づくし、プレーにも出てくる。自分の人生も豊かになっていくし、いい方向に変わっていくから」
「自分の課題とデータを組み合わせて上手くなってほしい」
約3時間半ほど行われたデジタル野球教室。青木さんは、
「なかなか伝えられなかった技術を伝えられたので、楽しみの一つになりました。子どもたちが野球を上手くなって、野球の楽しさを知ってくれれば大変意義あるものになると思うので、こういう機会をいただいてありがたいです」
と終了後振り返った。マンツーマン指導を行った際に感じたこととしては、
「今日レベルがすごく高くてびっくりしました。振れる力がある子が多かったのでアドバイスを体現できる子が揃っていました」
と選手たちを評価。そして最後に、メインテーマであるデータ活用の意義についても語って最後を締めた。
「データ化されるということで、効率は良くなると思いますし、原因がどこにあるのかが分かります。
ですが、そこに対してのアプローチの仕方が大切だと思うので、数字と向き合いながら自分の技術に落とし込めると、データが生きたものになるんじゃないかなと。
データを見てすぐに答えが出るところもあるので、早く成長していくには必要なツールだと思います。自分の課題とデータをしっかり組み合わせて野球が上手くなって、野球をもっと好きになってほしいなと思います」
デジタル野球教室は続けて第2回を開催する。データを活用したスキルアップで、日本野球の底上げを支えていく。
(おわり)