「女の子のためにスポーツを変えるウィーク ーCOACH THE DREAMー」東京サミット 課題解決に向けて共感を呼んだ”ワクワクが最強”の意味とは?
10月16日〜20日の5日間、都内で「女の子のためにスポーツを変えるウィーク ーCOACH THE DREAMー」が開催された。
18日には中核イベントとして、女性アスリートや指導者らが「女の子のスポーツ離れ」などについて議論する「東京サミット」が開かれ、パネルディスカッションが行われた。
現役の女性スポーツ選手や指導者などが集まり、未来につながる前向きな議論が行われた。
(取材 / 文:白石怜平)
女の子のスポーツ参加促進を目的とした「東京サミット」
本サミットは、「ナイキ」と「ローレウス・スポーツ・フォー・グッド財団」(以下、ローレウス財団)が主催。
プロテニスプレーヤーの大坂なおみ選手とナイキ、ローレウス財団が立ち上げたプログラム「プレー・アカデミーwith 大坂なおみ」の開始から5年目となるのを祝うこともあり、開催された。
ここでは、女の子とスポーツを取り巻く課題とそれらに対するアプローチ方法を議論し、未来へのアクションを促進することが目的となった。
背景は、日本国内での女子のスポーツ離れが深刻化していることである。
スポーツ庁が実施した2023年度の「全国体力・運動能力、運動習慣等調査」によると、1週間トータルの運動時間が60分未満の中学生の割合は、男子が11.3%なのに対し、女子は25.1%に上っている調査結果が出た。
この数字を比較すると男女間で2倍以上の差があることも踏まえ、今回の「東京サミット」では、女の子のスポーツ参加促進についてディスカッションする大切な機会が設けられた。
報道における女子スポーツの現状と選手の想い
この日は2部にかけてパネルディスカッションが行われた。本編では第1部に行われた「障壁を知る『私たちは何を考えるかー女の子の声を聞いてみて』」について特集する。
ここでは、田中美羽選手(読売ジャイアンツ)・恩塚亨氏(前バスケットボール女子日本代表ヘッドコーチ)・來田享子教授(中京大学)・世古汐音氏(桃山学院大学4年生)・篠原果歩氏(ローレウス財団・主催側共同責任者)の5名が登壇。それぞれの立場から経験談などが語られた。
女の子たちがスポーツをする際の障壁について、來田教授から資料を用いた説明が行われた。
一例として、来場者にイメージを持ってもらうようにある日のニュースを一覧で示した。
「ピンク色は女性のアスリートを取り扱っているもの。それ以外は男性のアスリートを取り扱っている見出しです」
來田教授はそれぞれの決定的な違いを指摘した。
「3つしかないですよね。しかも記事をよくみていると”C選手勝利。左手指輪キラリ”これ要りますか。あとは”男性K選手のいとこ”ってそれだけ見ても女性選手かどうか、アスリートかどうかもわからないですよね」
日頃の生活において、女の子たちにとってスポーツを身近に感じることがいかに難しいかを説いた來田教授。この事例について深く共感していたのが田中選手だった。
「女子野球で日本がワールドカップ7連覇を達成したのですが、メディアで注目を浴びることがなく、『どうやったら興味を持ってもらえて、私たちのプレーを見てもらえるのかな』と思いながら聞いていました」
イベント後の取材でも、その複雑な思いが伝わるエピソードがあったことを明かしてくれていた。
「(ジャイアンツの選手として)東京ドームで試合をした時にティファニーのコラボレーションユニホームを着てプレーしたのですが、その時は選手のプレーよりもユニホームがメインでした。興味を持つ一つのきっかけになれば嬉しいですが、でも注目されるのはユニホームだったんです」
田中選手のような相談を来田先生は受ける機会も多いという。ここで会場に質問を問いかけながら自らの考えを述べた。
「皆さんは先ほどの3つしか女性の記事がないことに気づいてましたか?メディアの皆さんが売れるもの・みんなが見そうなものだけではなくて、『見れるものを作り上げていく』気持ちで、女性のスポーツと一緒に働きかけをして行くことが大事だと思います」(來田教授)
田中選手は上述の取材の際に、
「逆にどうやったらみなさんに取り上げたいと思ってもらえますか?一緒に盛り上げたい気持ちがあるので、その中でどうやったらメディアに取り上げたいと思ってもらえるか。ずっと考えています」と相談を持ちかけていた。
自身は試合会場により多くの方に足を運んでもらえるように、競技レベルを上げていきたいとここでは語っていた。
それが、報道する側の気持ちを動かすことができると考えているからである。
「一番はこのスポーツ面白いなと思ってもらえるのがベストだと考えていて、『このプレー、試合って最高だな!』となれば書き方も違ってくるのではないかと
私たちが一生懸命プレーすることによって、そう感じてもらう。記者の方が試合に入り込んでベンチにいるような、試合に出ている気持ちで楽しんで見てもらうような形が理想です」
と、自ら理想像を共有してくれた。
恩塚氏が指導で大切にしているパワーワード
続いて本章でフォーカスするのは女の子がスポーツへ参入するハードルについて。
來田教授はメディアでの事例に加えて女の子がスポーツを続ける上でのリーダーや指導者といった”ロールモデル”が少ないことや、「これだけ筋肉質にならないとやってはいけないのか」といった体格の印象面などもあることも挙げた。これらを踏まえ、
「目指したいものは何かというと、自分らしさを育むこと。強制されてするものではなく、自分が自分でいられるような環境であってほしい。こうすることで女性のスポーツを盛り上げられると思うので、みなさんもぜひアクションに起こしてもらえると嬉しいです」と語った。
恩塚氏は、”自分らしさを育むこと”のフレーズを聞いて感じたことがあったと語った。
「私はバスケのコーチをしている立場で、関わってきた選手たちから聞くと『言われたことをやろうよ』と言い合う。つまり”自分らしさ”から離れた傾向がかつてありました。
その背景にあるのが、指導者が選手に成長するため・勝つためにやらせないといけないこともあると思うんです。ただ、私自身もそれを変えていきたいとずっと考えているんです」
そんな恩塚氏が一番大切にしているフレーズがある。それは、このサミットのキーワードともなるようなインパクトあるフレーズだった。
「私が指導で一番大切にしていることは“ワクワクが最強”。ワクワクしているとクリエイティブ性も増しますし、努力が努力じゃなくなる。
その状態に選手もコーチも向かって行けたとしたらいい人生を歩んでいけるんじゃないかなと思います。なので、選手をいかにその状態へと導くことができるかを大事にしています」
課題解決に必要な「敷居を下げる」
続いて今回挙げられた課題である、スポーツ参加における障壁を破るにおいて登壇者それぞれの事例からアプローチしていった。
まず篠原氏から、田中選手が野球を始めたきっかけとしては、6 歳の頃に兄の野球チームのコーチから「ピンクのユニフォームを作ってあげる」と言われた話について訊いた。
「私の兄が地元の少年野球に所属してたんですが、私は特にやりたくはなかったので隣で別の遊びをしていたんですね(笑)。なのでチームの方に誘われてたんですが断っていました。
そしたらある日『ピンクのユニフォームつくってあげるから来て一緒にやってみない?』ってコーチから言われた時、アニメキャラの影響で『え?』ってなってから続けて今に至ります」
続いて、バレーボールをやっていたという世古氏も競技を始めたきっかけを共有した。
「最初は母親のママさんバレーについて行ってボール拾いとかしてたんですが、一緒にいた方々が『チームあるけどやらない?』って言われて入ったらハマりました(笑)」
2人の話を聞いた恩塚氏は、共通項を基にある見解を導き出した。
「そう考えると、敷居を下げることが大事かもしれないですね。”日本代表”というようにあるべき姿を最初から求めてしまうと、今ここにいる素敵な選手たちは生まれなかったかも分からないです。
どうやったら人が集まるか、やりたい気持ちになるかと言うと、敷居を下げることが大事だと感じました」
このように、5人が集ったパネルディスカッションは時間が足りないほどの活発な議論が繰り広げられた。
女の子のスポーツ参加に向けて、新たな一歩を踏み出すための熱い40分となった。