楽天・聖澤諒 アカデミーコーチで歩む第2の野球人生「子どもたちにとっての恩師になりたい」
東北楽天ゴールデンイーグルスに11年間(2008年〜18年)在籍し、12年には盗塁王を獲得した聖澤諒氏。
13年の日本一にも貢献したかつてのリードオフマンは、現在アカデミーコーチとして子どもたちの指導にあたる傍ら、解説者としても活動している。
引退後、どのように第2の野球人生を送っているのか。今の仕事のやりがいや今後について伺った。
(取材協力 / 写真提供:楽天野球団 ※以降敬称略)
現在は、楽天イーグルスアカデミーのコーチ
聖澤は引退翌年の19年から楽天イーグルス アカデミーコーチに就任。東北6県の子どもたちを対象に野球を教えている。
年中から中学生クラスまで見ており、打撃や守備といった垣根なく全般を指導。年代が幅広いため、それぞれに合うよう工夫を凝らしている。
「言葉のかけ方には気を遣っています。年次の大きい子に使う言葉を年中・年長の子に伝えてもクエスチョンマークがついてしまいます。なので同じ言葉の意味でも噛み砕いて、よりわかりやすい言葉を使えるようにすることも自分の中では勉強しながらやっています」
子どもたちに教えることは野球以外ではない。集団生活で過ごしていくための基本も伝えている。
「野球はもちろん大事なのですが、練習以外にも挨拶や聞く姿勢など学校で教えるようなことも『それも野球の練習だよ』と伝えています。人間として成長していくためにはそういうところで損をしてほしくないので口うるさく言っていますよ(笑)」
指導者として活動を初めて約2年。選手としてではなく違う角度から野球に携わり、改めて野球の奥深さを感じている最中だという。
「今は子どもたちを教えていて、『この教え方は自分でも取り入れてやってみればよかったなぁ』ということも引退して気づくこともあります。だからこそ現役の時から若い選手に教えたりすることも自分では勉強だったんだなというのを体感しました」
11年間の現役生活「他のチームでのプレーは考えなかった」
聖澤は07年の大学・社会人ドラフト4巡目で楽天イーグルスに入団。2年目にチーム2位の15盗塁で頭角を表すと、2010年からレギュラーに定着。
規定打席に到達し、打率.290、24盗塁の成績でリードオフマンとしての地位を築いた。
そして東日本大震災があった2011年、球団では初の全試合出場を達成し打率.288、52盗塁をマーク。惜しくもタイトルは逃すも被災地の方々に勇気と希望を与えた。
「試合の時だけでなく、日頃過ごすにおいても常に『やってやるぞ』と熱い想いを持ち続けていました」と当時を振り返る。
2012年も1番・センターとして年間通じて活躍。3年連続140安打以上を記録し、54盗塁でついに盗塁王のタイトルを獲得した。
日本一に輝いた2013年もセンターのレギュラーとして打線のつなぎ役を担った。日本一に輝いた11月3日、自身の誕生日だった試合では途中出場から2安打を放ち、歓喜の瞬間をグラウンドで迎えた。
翌2014年には外野手としての連続守備機会無失策を821とし、NPB新記録を達成。その後927まで伸ばした。
以降出場機会が減っていくも2017年には111試合出場と復活の兆しを見せる。しかし、2018年は27試合の出場に終わり戦力外通告を受け、11年の現役生活にピリオドを打った。
他のチームでプレーすることは考えなかったのかという問いにも「ないです」と答えた。引退が決まった時の心境をこう語った。
「野球選手を引退することが決まってからは、何か背負ってたんでしょうね。肩の荷が降りたというか、自分の中でリラックスできましたね。周囲から言われるのですが、『柔らかい雰囲気になったね』と(笑)
勝負の世界で自身と向き合っていたのでトゲトゲしていたんでしょうね。自分では感じなかったのですが、プレッシャーから解放されたのはありました」
セレモニーでは”誰かのために働く人間は強い”という意味の「使命感」という言葉で支えてくれた方々への感謝の気持ちを述べた。
「夢を持ちましょう」講演で伝えていること
聖澤は、アカデミーコーチと解説者としての活動に加え、球団事業の一環で講演活動も行っている。
地域の小学校に出向き、自身の経験を元に「夢」などについて話している。
「大きくても小さくてもいいので、『何か夢や目標に向けて日々過ごすことを始めてみましょう』と。あとプロ野球選手になるという夢を叶えた立場から、どんな過程で夢を叶えられたのか・そのためには何が大事かを伝えることで、子どもたちのヒントにと思いながら話しています」
ここでもアカデミーコーチで伝えている”挨拶の大切さ”なども話している。講演後に子どもたちからいただく感想文に心が温まる。
「”挨拶は大事だよ”というのも伝えてはいるんですけども、子どもたちから『明日から大きい声で挨拶します!』といった感想文があるとすごく嬉しいです」
これからは子どもたちの”恩師”となる存在に
アカデミーコーチに就任して今年で3年目を迎える。
2年務めてきて、選手時代とは違うどんなやりがいがあるかを伺うと、笑みを交えながらこう答えてくれた。
「コーチを始めて2年経つのですが、最初に教えていた子供たちが2年間を通じて成長している姿を見ると自分の息子のように愛着を感じます。成長している姿を見れるところがやりがいだと思いますね」
そして今後の”野球人・聖澤諒”としてのビジョンを語ってもらった。
「子どもたちにとっての恩師になりたいです。自分も幼少期からたくさんの方に野球を教えていただきました。僕が今教えている子どもたちがこれから中学、高校と大きくなったときに振り返って、『聖澤コーチに教えてもらった経験が大きかった』そういう恩師になれるような指導に今後もあたりたいと思っています」
充実感に満ちた表情で最後の質問に答えてくれた聖澤。子どもたちを教えることが本当に楽しく、今後もこの役目を務めたいという想いを抱いている。
将来、イーグルスに入団した選手が「子どもの時、聖澤コーチに教えていただきました」その言葉を聞く時、イーグルスの歴史が新たにつながる瞬間となる。
(取材 / 文:白石怜平)