「第30回全国身体障害者野球大会」3年ぶり全国16チームで開催 香川チャレンジャーズが創部1年半で大会初参戦

5/14(土)・5/15(日)の2日間、「第30回全国身体障害者野球大会」が開催された。3年ぶりに全国16チームが神戸に集結し、各試合で熱戦が繰り広げられた。

(取材協力:NPO法人 日本身体障害者野球連盟 取材 / 文:白石怜平)

「今年こそ、全国の仲間と野球がしたい」3年ぶりに全国から参加

「全国身体障害者野球大会」は毎年5月に行われる大会で、”春の選抜大会”とも称される。1993年に第1回が行われてから、今回で第30回の節目を迎えた。(※1995年、2020年は開催中止)

同11月に行われる「全日本身体障害者野球選手権大会(秋の選手権大会)」とともに、身体障害者野球の頂点を争う大会として位置付けられている。

春の選抜は、「NPO法人日本身体障害者野球連盟(以下、連盟)」に加盟している全国38チームの中から、前年の地区大会で上位の成績を収めるなどした16チームが選抜され、参加権を得ることができる。

昨年は8チーム参加で1日での縮小・無観客開催であったが、今年は3年ぶりに全国から16チーム全てが参加し有観客で開催。感染者をここまで出さず2日間の全日程を無事消化することができた。

大会参加チームと組み合わせ表(提供:NPO法人 日本身体障害者野球連盟)

連盟は一昨年に中止となった時から、翌年以降コロナ禍でも大会を両立するべく知恵を絞り、今年も参加チームに加えて宿泊施設や球場・審判など関係各所との調整に奔走し続けた。

山内啓一郎 連盟理事長は開催に向けての準備などについて語った。

「新型コロナ対策に於いては昨年同様事前に周知し、各チームからの問い合わせや相談には個別に対応しました。

『今年こそ、全国の仲間と野球がしたい』

その想いを共有し、宿の部屋割りや懇親会での食事・交通手段など、感染予防対策について相談しました。話し合いを重ねるにつれて、お互いに開催を目指して不安を減らしていくことができたと思います」

例年行う全チームを交えた懇親会も当初は中止も検討したが、3年ぶりの通常開催そして初出場の香川チャレンジャーズの歓迎を込めて行った。

会場でもマスク会食、共用の備品使用時は手袋の着用など感染対策を周知し、全チーム遵守することで問題なく終えることができた。

また、球場では昨年に引き続き全員検温表を提出し、試合後は都度ベンチの消毒を実施。試合中以外はマスク着用必須の上、開催に臨んだ。受付では、消毒検温といった入場者すべてをチェックする体制を整備。人員配置や体制の検討に苦労しながらも、上述の通り感染者を出さずに完走した。

「感染状況に応じて行政の対応や濃厚接触者の定義も変化する中、具体的な対策と周知を神戸市および球場のご協力で進めることができました」

と山内理事長は関係各所へ感謝を述べた。

さまざまな対応をこなす中でも、新たな取り組みが行われた。今回、初めて地元の少年野球選手を招待。

大会2日目の初戦、千葉ドリームスター対岡山桃太郎の試合前に始球式を行い、地元の子どもたちに身体障害者野球を知るきっかけがまた1つ増えた。

少年野球チームによる始球式が初めて実施された(提供:NPO法人 日本身体障害者野球連盟)

福本豊氏が開会式で激励

本大会の会場は例年通り、神戸総合運動公園にある「ほっともっとフィールド神戸」と「G7スタジアム神戸」で開催。

開会式は直前に降った雨の影響でグラウンドコンディションを考慮し、ほっともっとフィールド神戸の10番ゲート前で行われた。

入場行進が行われ、全16チームが整列すると来賓による挨拶が始まる。その中の1人として、元阪急ブレーブス(現:オリックス・バファローズ)で通算2543安打・1065盗塁をマークした福本豊・日本身体障害者野球連盟名誉理事長も駆け付けた。

「やっとここで試合ができますね。目標にしていたところで野球ができる。その喜びを感じながらこの2日間、戦ってください。そして、いい思い出を持って帰ってください。頑張って!」

開会式で挨拶した福本豊・名誉理事長(提供:NPO法人 日本身体障害者野球連盟)

大きな拍手が福本氏を包み、開会式は終了。その後、各チームが試合に備えて2球場へと分かれ、いよいよ全国の頂点を競う戦いが始まった。

創部から1年半、初出場の「香川チャレンジャーズ」

今大会注目の1つは、初出場となった香川チャレンジャーズ(以下、香川)。昨年4月に発足した香川県初の身体障害者野球チームである。

チーム誕生のきっかけとなったのが、現在代表を務める山中達也氏。山中氏は06年の育成ドラフト1位で広島東洋カープに入団し、10年までプレーしていた。

現在丸亀市の職員でもある山中代表は、同じ四国のチームである徳島ウイングスの練習を見学したことがきっかけで、県内でのチーム設立に奔走。今年1月には連盟に38番目のチームとして加わった。

下肢障害を持つ選手の割合が上肢障害の選手に比べ多いのが特徴で、現在27人の選手、11人のスタッフで活動を行っている。

本大会には、登録初年度で招待される「普及枠」として参加。四国の身体障害者野球をさらに活性化させるべく、神戸の地へとやって来た。

初出場となった香川チャレンジャーズ(赤いユニフォーム)

香川は初日の14日にほっともっとフィールド神戸で初戦を迎え、本大会ベスト4となる「ぎふ清流野球クラブ」(岐阜県)と対戦した。

この試合、背番号18を着け先発マウンドに立ち、打っては4番を務めた村瀬憲夫投手が投打に奮闘。2回裏に守備の乱れなどで5点のビハインドを背負うも、直後の3回表に満塁のチャンスをつくると自身の走者一掃2塁打で2点差まで追い上げた。

しかし、その後は両軍1点ずつ加えるも4-6で試合終了。全国大会での初勝利には惜しくも届かなかった。

この試合、投打の軸を担った村瀬憲夫投手(背番号18)

試合後、土居正信監督は「初回のピンチを何とか0点で切り抜けて、勢いに乗っていけるかと思ったのですが、守りから崩れてしまいましたね」と悔しい表情を浮かべながら守備への課題を口にした。

67歳の土居監督も二塁手としてフル出場。スタンド上段に響くほどの大きな声でチームを鼓舞した。「叫んでいましたね。僕の仕事ですから(笑)」と語り、チームへ闘志と活気をもたらしていた。

創部から約1年で全国大会の舞台に立ち、ベスト4のチームを相手に2点差まで詰め寄り善戦した。今回参加した選手は10人、EDH(特別指名打者:守備9人+指名打者の10人で攻撃するルール)を使い全員が出場するなど、まさに”全員野球”で臨んだ大会だった。

「この1年間で間違いなく選手は成長しています。野球初心者でゴロを捕球するところから始まりましたし、やった分だけ上手くなることが分かりました。ステップを踏みながらさらに前に進んで行きたいです」

大きな声でチームを鼓舞した土居監督

大きな一歩を踏み出した香川チャレンジャーズ。来年は普及枠ではなく実力で勝ちとる覚悟が滲み出ていた。

「またここに来るのは簡単ではないと思います。中・四国大会で勝ち進まなければならない。生半可な気持ちでは勝てないです。(ユニフォームに記された”Challengers”のロゴを指して)この通りなのでね。向かっていきたいです」

初日もう一つの注目カードは、関東を制覇した千葉ドリームスターが昨年選手権の”リベンジマッチ”に臨んだ。

(つづく)

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