【連載企画】四国アイランドリーグPlusの今〜高知ファイティングドッグス編〜

監督・球団関係者協力の元、連載企画でお送りする「四国アイランドリーグPlusの今」

第2回は高知ファイティングドッグス。

チーム名の“ファイティングドッグ”は土佐闘犬が由来となっており、チームカラーの黒は土佐の黒潮をイメージしている。

過去には藤川球児投手(現:阪神)、伊良部秀輝投手(元ロッテ他)そしてボストン・レッドソックスを2度世界一に導いたマニーラミレス外野手といった元メジャーリーガーが入団し、大きな話題を呼んだ。

チーム成績は、05年のリーグ創設初年度に優勝し、初代王者に輝く。その後06年に半期優勝・09年に独立リーグ日本一を達成するも、以降は覇権から遠ざかっている。

昨年は前期に終盤まで優勝を争うも惜しくも2位、後期は4位に沈んだ。巻きかえしを図る今シーズンは、4年間チームを率いた駒田徳広監督が退任し、吉田豊彦投手コーチが監督に就任した。在籍9年目となり、チームを熟知する吉田監督の下、11年ぶりの独立リーグ日本一を目指す。

今回はその吉田豊彦監督と永井球団統括本部長に登場いただき、グラウンド内外の現状について話を伺った。(取材日は5月18日)

自粛期間中は自宅で自主練習

現場の状況を吉田豊彦監督に伺う。4月16日に緊急事態宣言の発令後、高知県内も全てのグラウンドが使用不可となった。これに伴い、チームは自主練習に切り替わった。

「6日まで全ての施設の使用ができませんでした。なので各選手は部屋でできること・今の状況でできることを考えてやっていました」

現場の状況について説明する吉田豊彦監督

その間は、首脳陣も直接のコミュニケーションは取れない。選手とは電話で話すことしかできなかったという。

「キャプテン、副キャプテンとは話をしました。どこが開幕になるかが分かりませんでしたから、一つ言える事は今までやってきたことを再度振り返ってみると。もう一度再度しっかり考え直す良い機会になってほしいなと思う事は伝えました」

7日からはグラウンドが2時間限定で、緊急事態宣言が解除されてから4日後の18日からは17時まで1日使用可能になった。

そして、25日には全体練習が再開され、開幕に向けて再スタートを切った。

高知に恩返しがしたい

吉田監督は現役時代、投手として主に左の中継ぎ・抑えとして活躍。

87年ドラフト1位で南海ホークス(現:福岡ソフトバンクホークス)に投手として入団。その後ダイエーを経て阪神・近鉄・楽天と渡り歩き、07年に引退するまでの20年間で619試合に登板した。

08年から4年間楽天で2軍コーチを務めた後、12年に高知ファイティングドッグスの投手コーチに。そして19年10月、駒田徳広氏の後を継ぎ監督に就任した。

8年間の経験が高く評価され、次期監督として白羽の矢が立った。その時の心境はどうだったのか。

「正直なところ僕はできないと思いましたね。これまで野手に携わったこともありませんでしたし、ましてや駒田さんの後ということにプレッシャーを感じていたので」

オファーを受けてから2カ月近く悩んだという。では何が決め手になったのか。このように語った。

「恩返ししたいって気持ちでしょうか。ここまでお世話になっているということで、自分でいいのかなと思いながらも、できる事はなんだろうかと。周りの方の意見も聞いて決断しました」

グラウンドで熱心に指導する吉田豊彦監督

11年間務めた投手コーチから役割が変わり、何か変えたことはあるのか。吉田監督はこう続けた。

「コミュニケーションが増えました。今まで野手に目を向けることがなかったんですよ。普段あまりしゃべる方じゃないですけれども状態の確認など話す機会は今まで以上に増えたと思います」

恩返ししたいと語った高知への想い。最後に県民の方たちの印象を語った。

「いい意味ですごくお世話好きといいますかね、気持ちが暖かいです。僕は人間性がすごく好きなところですね。ほんとにこのリーグ1番で高知が盛り上がってるんじゃないかなって思いますし、応援も大好きです」

資金繰りは厳しい状況に

続いて運営面について、永井統括本部長にお話を聞いた。

緊急事態宣言が発令された翌週の4月14日から5月1日まで休業となった。GW明けに再開し、在宅と会社で働き方を分けている。

営業活動も4月上旬以降は自粛、感染者数も徐々に増えていき、自粛ムードが高まっていった。営業活動が滞っている今、経営状況はどのくらい影響を受けているのか。

「現時点ではかなり経営的には厳しくて、スポンサーも当初の予定の半分も行ってないため資金繰り含めて難しい状況です。国の融資や助成金などの活用含めて準備をしているところです」

球団は19年時点まで6年連続黒字と安定経営を続けてきた。その特徴の1つは、多くの工夫や営業努力で獲得した500を超えるスポンサーである。数千万の大口顧客から、1万円規模の少額顧客まで様々な形式をとっている。

その多くが試合の開催可否によって変わるため、開幕の見込みが立ったといえども経営的には先が見えないのが現状である。

「スポンサー様の金額の幅があるので、数と収入が比例しているわけではないのですが、数で言うと昨年度の2割しか獲れていないです。少額に関しては試合でのスポンサーになるので、冠含めて試合ができるかどうかで変わってきます」

球団の収入が激減する中、選手への給与にはどう影響があるのか。続けて説明した。

「シーズンの開幕すれば報酬が発生するという形です。ただ、本来開幕するべき4月ができずに5月も同様なので、そこに関して契約上の支払い義務は無いのですが、アルバイトのみで生活させるのは厳しいので少額ですけども一部支給してはいます」

Youtubeで“感覚”を伝える

この時期だからできること。その1つとして、チームの公式Youtubeチャンネルの「Dogs TV」で、5月9日から「野球感覚」という企画がスタートした。

 “〇〇(選手名)感覚“と題し、選手がキャッチボールや打撃・守備などを実演して解説を行う。映像も至近距離かつ角度を変えながら映されているのが特徴である。

選手の感覚を伝えるYoutubeコンテンツ。野球少年向けに制作している

永井統括本部長はこのコンテンツができた経緯ついてこう説明した。

「中学校の連盟トップの方から相談をいただきました。野球少年たちも活動ができていない中で、スキルというよりも感覚を取り戻すのが大変なので新しい配信ができないかということで始まりました」

野球感覚は現在まで第10回が公開され、2~3日に1本のペースで配信されている。今後も継続して行われる予定だ。

ファンへのメッセージ

6月20日の開幕に向けて現場・運営が一丸となって準備を重ねている。最後にファンに向けてメッセージをいただいた。

吉田豊彦監督

「今は皆さん本当に大変な状況かと思います。医療従事者を含めてこの危機を乗り越えるために頑張っている、この想いを我々は野球できる感謝に変え、開幕から目一杯プレーをします。そして皆さんにこの想いを伝えるために準備をして参りますので、より一層気を引き締めて行けたらと思います」

永井統括本部長

「皆さんも本当に大変な時期だと思います。開幕しましたら、少しでも勇気や元気をスポーツの力そして野球の力を使って高知県や野球界を元気にしていきたいと思っています。共にがんばりましょう」

(取材/文 白石怜平)

※本記事は2020年6月12日にスポーツメディア「Spportunity」で掲載されたものです

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