鈴木尚広のベースボールクリニック オンラインセミナー開催 これまでの常識と打撃の進化とは?
強く速く振るためには?
強く速い振りを実現するにあたり何が必要になるか。ここでは「落下の力と回転の力」「全身の動きの連動」の2点を挙げた。
まずは「落下の力と回転の力」について。打撃では、バットの重さが重くなるほど落ちる力が強くなる、もしくは身体で生み出す横向きの力を強くするという2つの力が働く。
バットを空中で手を離すと落ちていく。それは、手による支えがないため自然と落下するためである。重量が大きいほど、落下の速さは増す。
また、回転の力とはスイングするための横回転の力のことである。身体を使って横回転を生み出すことで(何も力を加えなければ)落ちるバットに対し横回転の力が加わるため、軌道は横になっていく。
「重いバットを使えば下向きの力が強くなるが、600gから900gと上げたら体への負担が大きくなります。速いスイングをする=身体をどう扱って、水平の力をどう大きくするかが重要です」
大崎氏は改めて、バットの重さではなくスイングの速さを上げることを説いた。下の図の通り、黄色い矢印が伸びると青い矢印も変わってくる。重さは変わらなくても、横回転の強さによってエネルギーが変わってくることを示している。
ここで、上述のイチロー選手と大谷選手の打ち方を比較して解説する。
「ポイントとして、イチロー選手は横移動と体重移動の力も使ってバットに伝達させ、大谷選手は強い筋力を活用してその場で回転します。
このように違いはありますが、両者の共通点は急激に右足で身体を止めることです。止めたエネルギーを滞ることなくバットまで伝え、全身をしならせてインパクトまで持っていきます」
なぜ、急激なストップ(=ストップ動作)が必要か。それは”末端”を加速させる=鞭のようにしならせて素早く先端が動かすために必要なためである。
左打者で言う右脚でストップさせることによって力を最大限に発揮させる。それがいわゆる「壁をつくれている」=「しっかりと止まれている」ということになる。
しなる筋肉を使うには内側の筋肉(=インナーマッスル)を使う必要があると説明した。
「インナーマッスルを優位に働かすというのは、筋肉の一連の連鎖を意識することで、節目が多い箇所を柔軟に使うと強い力を生み出すことができます。手や足の他にも背骨・脊柱を柔軟に活かすことが大事になってくるのです」
節目が多い箇所を活かすとはどういうことか。ここで本章2つ目の「全身の動きの連動」へと移っていく。
同じ1本の棒が倒れるとしてもそのままであればゆっくり倒れていくが、節目があるものは下が徐々に倒れていき、連鎖しながら上が力を引き継いでいく。
人の体は中心部が大きく、末端(手足、指)が細くて軽い。重いものが受け取った力を軽いものが受け取れば、速く動いてなおかつ受け取った側はそれを保ったままその部位の力が加わるので、より速く動いていくという理論である。(下図参照)
鞭の先端が速くかつ最も強く力が働くのはこの理論に基づいたものであると例を用い説明した。
また、回転運動は最も遠い箇所にたどりつき、戻ろうとするときに次に繋がっている部位の回転運動が開始する。
これを連鎖させることによって体幹で生み出した力が手へと伝わっていく。重要なのは体幹部。股関節が動き、背骨が回転をしていく。(下図参照)
ただ、ここでは1つ注意点があるとこの日参加した指導者の方達に向けて伝えた。
「”強く振りなさい”はお勧めしないです。『強く振らなければいけない』と過剰に意識してしまうと、脳から指令を出て外側の強い筋肉(アウターマッスル)を使おうとしてしまいます。そうすると全身の連動がしにくくなり、しなる動きが生まれにくくなってしまうのです」