3年目でさらに深まる井口資仁さんとの絆 身体障がい者野球の選手と磨く“野球の引き出し”

身体障がい者野球に取り組む選手たちを対象に、NPB・MLBで活躍した井口資仁さんを講師に迎えた野球教室が今年も開催された。

2024年から始まった取り組みは今年で3回目を迎え、回を重ねるごとに選手たちは技術を磨き、教える井口さんもまた、一人ひとりの身体や特徴に合わせた伝え方を模索してきた。

そこにはプロの技術を伝えるだけにとどまらず、3年間の交流によって生まれた光景が広がっており、井口さんが感じたのは参加した選手たちから放たれる“野球への情熱”だった。

(写真 / 文:白石怜平)

3年連続となる井口資仁さん講師の野球教室

本野球教室は株式会社MAXIVが主催し、今年で3回目の開催を迎えた。

同社は社会貢献活動「MAXIV LIEN PROJECT」の一環として、障がい者福祉センターや特別支援学校への訪問活動をはじめ、スポーツを通じた交流や支援を継続的に行っている。

槙島法幸社長は自身も視覚障がいがあることから、「自分と同じように障がいのある方々の力になりたい」という想いを胸にこのプロジェクトを立ち上げた。

その理念に賛同したのが、NPBでは日本一・MLBではワールドチャンピオンに輝き、7月25日には侍ジャパントップチームの新監督に就任した井口資仁さん。

今回も身体障がい者野球の選手へ指導した井口資仁さん

ダイエー(現・ソフトバンク)へ入団した1997年から社会貢献活動を続けてきた井口さんは、第1回から講師を務めている。

2023年には福島県で開催された名球会の野球教室で「第5回世界身体障害者野球大会」の日本代表選手らとも交流するなど、以前から身体障害者野球との関わりを重ねてきた。

今回の野球教室には、NPO法人日本身体障害者野球連盟に所属する「千葉ドリームスター」「東京ジャイアンツ」「東京ブルーサンダース」「埼玉ウィーズ」「静岡ドリームス」の5チームから約50名の選手が参加。

3年連続で参加する選手も多く、井口さんとの再会を喜ぶ様子がグラウンドの各所で見られるなど、回を重ねてきたからこその空気が会場を包んでいた。

今年も多くの選手が待ち侘びた

守備では次の動作につなげる“バランス”をテーマに

選手たちはウォーミングアップの段階でキャッチボールまで済ませ、井口さんを迎えると早速守備練習からスタートした。

「前回、前々回と同じになるかもしれないですが、しっかり基本をやっていきましょう」

井口さんが最初に伝えたのは、打球の軌道を予測しながら自分が捕りやすいポイントへ入っていくことだった。

「バットの方向や出方を見て、どういうバウンドで飛んでくるかをしっかり考える。それで、自分自身が一番捕りやすいところに入ります。ショートバウンドかハーフバウンドか、捕りやすいところは人それぞれ違うので、そこに入ればエラーは確実に減ります」

今回も基本のレクチャーからスタートした

基本の大切さは過去2回と変わらない一方、今年は3年間にわたり選手たちを見てきたからこその視点も加わった。

「捕るのに一生懸命なのはすごく大切ですが、そうなると頭が下がって次の動作が遅くなりがちです。80%くらいの感じで余力を残しながら、リズムよく流れの中で捕る。一連の動きがバランス良くできれば、スローイングも正確になります」

軽快な動きに会場全体が目を奪われた

終了後に「毎回同じことを伝えるだけではなく、少しバリエーションを変えたいと考えていました」と語ったように、井口さんも選手たちの変化に合わせて指導をアップデートしていた。

レクチャー後には自らお手本を披露。NPB時代に二塁手としてゴールデングラブ賞を3度受賞したグラブさばきに選手たちは目を奪われ、その後のノックでは教わったポイントを意識しながら一人ひとりが実践する。

途中からは井口さん自身もノッカーを務め、グラウンドは活気に満ちていった。

井口さんもノッカーを務め、直接交流を深めた

打撃では「体の近くからバットを出す」

過去2回は「体幹を使うこと」を重点的に伝えてきた打撃では、今回はさらに踏み込んだ内容となった。

「打席で一番何が大事かというとタイミングです。投手が真っ直ぐや変化球、高低左右に投げるのは打者のスイングを崩すためなので、それを崩されないように、いかにタイミングを合わせるかが大事です」

さらに「当てに行くことはしなくていいので、自分自身が持てる中で全力で振れるようにやっていきましょう」と呼びかけ、井口さん自らバットを握った。

響き渡る快音と鋭い打球に選手たちの視線が集まる中、井口さんはスイングについてイメージを伝えた。

「トップのところでヒザは割れるイメージ。そこから小さくして力を凝縮させながらボールにぶつける。大きく、小さく、大きくという流れでセンターに返します」

現役時代と変わらない鋭い打球を見せた

選手たちはロングティーで一球ずつ打ち込み、井口さんも全員のスイングに目を向けながら、それぞれの身体や特徴に合わせてマンツーマンで助言を送った。特に入念な指導を受けた一人が、千葉ドリームスターの山田龍太選手だった。

井口さんは山田選手と一緒にバットの軌道を確認し、自らトスを上げながらスイングをチェック。その内容を、山田選手は教えを復習するように言葉にした。

「体の近くからバットを出すようにして、ボールの内側を打つように意識しようと教えてもらいました。脇を締めながら打つと力を伝えやすくなるとも言ってもらったので、そこも意識したいです」と山田選手は井口さんの教えを復習するように言葉にした。

東京ジャイアンツの滝本浩選手にも「体の近くで回る」ことを伝え、滝本選手はその内容を振り返った。
「バットが体から離れていたので、巻き付くようなイメージで、極端に言うと体にくっつけて振るぐらいの感じで振ってみようと教えてもらいました」

山田選手(写真上)と滝本選手(同下)は「体の近くで回る」助言を受けた

同じポイントを伝える場合でも、その方法は選手によって異なる。

車いすを使用する選手には腰の回転が制限されることを踏まえて構えを調整するなど、これまで自身が培ってきた経験の中から一人ひとりに適した動きを伝えた。

「健常者のバッターのように横から構えると、どうしても腰が回りにくいので、少し開いて構えることでバットも出やすくなる。自分も腰を止めて打つ練習をした経験があるので、そういうところをヒントにしながら伝えました」

一つの型に選手を当てはめるのではなく、それぞれが持つ身体をどう生かせばより良いプレーにつながるのか。3回目を迎えた教室では、井口さん自身も選手との交流を通じて指導の引き出しを増やしていた。

井口さん自身も「指導の引き出しが増えた」と語った

選手からの質問を通じて「自分も考える機会をもらった」

守備、打撃と濃密な約2時間の野球教室を終えると、最後は選手を代表して山田選手が感謝を伝えた。

「本日はこのような素晴らしい野球教室を開いてくださり、本当にありがとうございます。今日学んだことを胸にこれからも練習や試合を積んで、成長した姿をお見せできるよう、チームの一員として貢献できるように頑張ります」

選手を代表して山田選手からお礼のメッセージが贈られた

「みなさん本当に上手くなっていると思います。それぞれ特徴があるので、どうやって伝えたらいいのかを考えながらやれていて、自分の教え方もうまくなってきているなと思います」

この日は片手でプレーする選手から、グラブからボールを取り出す動作について相談を受けた。

「『どうリズムを取ったらうまく抜けますか』という質問もあって、自分もいろいろ考える機会をもらいました。そこは次回の自分の課題にもなるので、また考えながら来年以降もやらせてもらえたらと思っています」

教える井口さんにとっても、選手との交流が新たな学びにつながっている。そして何より感じているのが、選手たちの野球に対する情熱である。

「上手くなりたいという気持ちは、本当に野球が好きだからこそ出てくるものだと思います。年齢を重ねた方もいますが、それでも野球を続けている。

僕ら以上に情熱があるなと思いますよ。プロの選手より情熱を持ってやっている人たちが集まっていますから」

今年も選手たちの情熱を感じた会となった

身体障がい者野球の輪をさらに広げるために

これまでの交流を経て、井口さんの視線は一度の野球教室だけでなく身体障がい者野球そのものの未来へと広がっている。

今年11月には福岡県北九州市で「第6回世界身体障害者野球日本大会」が開催される。井口さんもこれまで映像を通じて大会を見ており、世界の選手たちが一堂に会する舞台を楽しみにしているという。

さらに、球界全体で野球の裾野を広げていく中で、身体障がい者野球にもより多くの人に目を向けたい想いを抱いている。

「プレーヤーにもっとスポットライトを当てることで、さらにモチベーションが上がったり、野球に対して一層前向きな気持ちになれると思います。そういう意味でも、もっともっとクローズアップしたいですよね」

身体障がい者野球にスポットライトを当てた

3年間にわたり繰り返されてきたこの野球教室は、これらをグラウンド上で示してきた。再び顔を合わせた時、どんな成長した姿を見せるのか。

そして11月には、世界から集まった選手たちがその情熱をグラウンドで表現する。井口さんが照らそうとしている光の先には、身体障がい者野球、そして野球界の可能性がさらに広がっている。

(了)

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