競技人口は950人以上!日本の身体障害者野球とは?

日本では国技とも言えるほど人気のスポーツである野球。プロ野球、高校野球、メジャーリーグetc…
テレビやインターネットなどで試合やニュースを見る機会は多い。

そんな日本の野球の中において、身体障害者野球というジャンルがある。

身体障害者野球とは、身体にハンデを持つ選手がプレーする野球のこと。そこにはどんな人が参加し、通常のルールとどんな違いがあるのか。今回は現状の課題や国際化の観点を交えながら紹介する。

(文:白石怜平)※2023年1月26日更新

日本における身体障害者野球の歴史

日本における身体障がい者野球は、1980年代前半に神戸市で有志を募り結成したのが始まり。

元阪急ブレーブスの外野手で、”世界の盗塁王”とも称された福本豊さんが神戸の医療施設を訪問したことがきっかけだった。

>福本豊さんと身体障害者野球との関わりはこちら

神戸市から全国に活動が広がっていき、1993年1月には「日本身体障害者野球連盟」が設立された。その年の5月には「第1回全国身体障害者野球大会」が行われ、以降毎年開催されている。

そして、1998年には「公益財団法人日本障がい者スポーツ協会」の認定種目団体となった。
身体障害者野球の連盟登録数は現在38チームで、競技人口は950人を超えている。

>22年「第30回全国身体障害者野球大会」の模様はこちら

身体障者野球の登録資格

選手の登録資格は、身体障がい者手帳を所持する肢体不自由者と療育手帳(※)を所持する選手が対象。
年齢や性別の制限はありませんが、聴覚・視覚・内部障がい者の登録は現状できない。チームが日本身体障害者野球連盟に登録するには、選手登録者12名以上が条件となる。

(※) 都道府県の知事が発行している知的障がい者(および知的障がい児)が補助を受けるために必要な手帳 

身体障害者野球のルール

使用するボールは健常者と同じ軟式球を使いますが、身体障がい者野球独自のルールが存在する。

◆バント
身体障がい者野球では肢体にハンデを持つ選手がいるため、原則としてバントは禁止されている。
ただし、障がいの度合いによりバントのような動作しかできない選手においては、その打球は有効となる。

◆走塁
盗塁、振り逃げ(※1)は禁止です。
また、捕手の体にボールが触れていればその時点でボールデッド(※2)になり、走者は進塁できない。
しかし、捕手に触れずボールが逸れた場合、走者は1つだけ進塁が可能。その間に捕手が投げて間に合えばアウトとなる。

その他は健常者のルールと同じです。
ただし、エンドラン(※3)の際に打者が空振りした場合、飛び出した走者は戻れなければベースタッチでアウトとなる。牽制が逸れたら、通常のルールと同様にフリーで進塁することができる。

身体障害者野球で得点を重ねるには、走者を次の塁へいかに進めるかといった機動力がカギとなる。

◆打者代走制度
下肢障がいなどで走塁が困難と認められた選手には打者代走が適用される。
代走者は、三塁と本塁を結ぶファールラインの延長線からバックネット方向へ1メートル後退した地点がスタートラインになる。

試合での打者代走。捕手後方のラインからスタートする。

代走者はベンチ入りしていれば、スターティングメンバーでなくても出場可能。
ただし、塁上で打席を迎えることは禁止されており、もし打順が回って自身の打席時に塁上にいたらアウトになる。

上位のチームでは、走る専門・打つ専門と役割を明確にした起用をしており、身体障害者野球の戦略の1つになっている。

身体障害者野球が抱える課題

身体障害者野球の課題の1つは、障害の軽い選手が集まっているチームが強い傾向にあることである。

歩行障害や重い障害の方が参加する際、「試合に出場できないのではないか」と感じてしまうことでモチベーションが低下し、結果参加しなくなることも起こりうる。

一方で、ルールを変えてしまうと選手が揃わなくなるという問題が起こるため、運営側はジレンマを抱えているのが現状。

身体障害者野球がさらに発展していくためは、障害の重さに関係なく参加できるように、各チームが門戸を広げていくことが重要になってくる。

また、健常者の野球でも同様であるが、身体障害者野球においても
「勝利に徹底する」
「みんなで楽しく野球をやる」
この両立も課題となっている。

勝利を優先する場合は走れる選手をメインに起用するため、歩行障がいや車いすの選手はベンチスタート、展開によっては試合に出場できないケースも起こり得る。
また、練習に欠かさず参加する選手や一生懸命声を出して鼓舞する選手などがいても、普段参加できないがより動ける選手が試合に出場することがあり、ここに引け目を感じてしまう選手も少なくない。

首脳陣はこの相反する2つの考えと日々向き合っているのである。
各チームはこれらを両立させようと、練習試合や定期練習の機会を増やすことで、普段来られない選手が参加できるよう努めている。

各チームはグラウンドを各自で確保し、練習機会を増やすなど工夫を凝らしている

身体障害者野球の国際化

日本の身体障害者野球は、世界基準と異なる部分がある。それはボール。前述の通り、日本では軟式球を使っている。

しかし、海外でプレーしている選手は硬式球を使用している。そのため、今後日本が世界の舞台で戦うためにはまずはボールを国際基準に合わせる必要がある。

2006年には日本の提案で、”もう一つのWBC”と呼ばれる「世界身体障害者野球大会」が始まり、2023年には9月に第5回が名古屋で開催される。

2021年には東京でパラリンピックが開催され、障害者スポーツに注目が集まった。パラリンピックでは、身体障害者野球は競技種目にないため、世界的に普及するためには大会への参加は欠かせない。

このように、競技人口が増えて国際化に向けた動きもあり、日本の身体障害者野球は転機を迎えようとしている。

現在、全国28都道府県に身体障がい者野球連盟登録チームが存在する。もし、近くの地域にチームがあったら、是非一度活動をご覧になっていただきたい。

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