
「もう一度、輝いていた姿を取り戻したい」日本代表・桶谷大HCが川崎で始める再建 個の力を結集し“強い川崎”へ
川崎ブレイブサンダースは、2026-27シーズンから新たなヘッドコーチとして桶谷大氏を迎えた。
琉球ゴールデンキングスを5シーズン連続でファイナルへ導き、現在は男子日本代表の指揮も執る桶谷HC。B.PREMIER初年度を戦う川崎は、数々の大舞台を経験してきた指揮官にチームを託した。
就任会見で桶谷HCが強調したのは、選手一人ひとりの能力と役割を最大限に引き出し、その力をチームの総合力へ変えていくことだった。
桶谷HCが川崎を選んだ理由と目指すチーム像、そして選手たちの言葉から、B.PREMIER元年へ向かう川崎の現在地に迫る。
(取材 / 文:白石怜平、写真提供:©KBT)
「強さを取り戻したい」という思いに心動く
「川崎の桶谷です、と言うのもまだなかなか恥ずかしいですけど、これから川崎の桶谷になりますのでよろしくお願いします」
就任会見の冒頭、桶谷HCは少し照れたような笑顔を見せながら新天地での第一声を発した。
川崎は1950年の創設以来、日本バスケットボール界のトップを走り、数多くのタイトルを獲得してきた伝統あるクラブである。
桶谷HCも「みんなから強豪と言われてきたチーム」とその歴史を表現する一方、近年は優勝争いから遠ざかるシーズンも続いている。だからこそ、オファーを受けるにあたって心を動かされた。
「今の順位のままで終わりたくない。もう一度、前の輝いていた姿を取り戻したいという気持ちが一番強いチームでした。そこに一番やりがいを感じました」
そして、「純粋にこのチームを良くしたいという思いを最も強く感じた」ことが決断の理由だったという。
ロスターには篠山竜青や長谷川技らクラブを長年支えてきたベテランに加え、米須玲音や山内ジャヘル琉人といった日本代表を目指す力を持った若手も揃う。さらに新加入選手や外国籍選手が加わり、世代と個性が交わる構成となった。
桶谷HCは「本当にやりがいのあるチーム」と期待を示し、「いいものはしっかり残しながら、新しいものを取り入れる。個性を生かして伸ばし、それがチームとして大きくなるようにしたい」と語った。

個の力を結集する「ハイプロダクティビティ」
目指すバスケットについて問われた桶谷HCが口にしたのが、「ハイプロダクティビティ」という言葉だった。
スピーディーなバスケットや超高速バスケットといった分かりやすい表現ではなく、選手それぞれが“生産性”を発揮し、チーム全体の総合力を最大化することを重視する。
「一番大切なのは個々の力を引き出して、それがチームとして大きくなること。それぞれが生産性を持ち、総合力で他のチームを上回っていくことが大切だと思っています」
決まった型へ選手を当てはめるのではなく、目の前にいる選手の能力や組み合わせを見極めて、どの戦い方が最も高い力を発揮できるのかを探していく。その中で重要になるのが、日本人選手の成長と活躍を挙げた。
「日本人選手が外国籍選手と対等にやり合えるポジションが増えるほど、チームは疲弊せずにシーズンを戦える。日本人選手の活躍が大切になってくると思います」

選手には自らの個性をどう生かすのかを考え、役割に責任を持つことが求められる。一方でコーチ陣は挑戦の機会をつくり、失敗した後に適切なフィードバックとフォローを行うことで相乗効果を生み出す。
「チャンスを与えてもらうのではなく、選手自身がつかみ取れるようにしてほしい。ただ、チャレンジさせるためには、僕たちが失敗後のフォローをしなければいけない。人を育てていきたいと思っています」
また、男子日本代表HCと兼任するにあたり、自身は代表活動で試合の指揮を執り続けることが、クラブでの采配にもプラスに働くと捉えている。
「シーズン中もタイムアウトを取ったり、選手交代やローテーションを考えたり、バスケットのことをスムーズに考えられるのはポジティブな部分です」
初めてチームのワークアウトを見た際には、「一つひとつに対してみんなが一生懸命、集中している。緊張感があり、この時期にしては仕上げてきている印象がある」と選手たちを評価した。
選手たちが初練習後に語った印象
桶谷HCとの初練習を終えた篠山は、チームが新鮮な気持ちで新シーズンへ向かっていることを明かした。
「まだファンダメンタルの部分ですけど、いい雰囲気でやれていると思います」
桶谷HCについての印象を問われると、「時の人と言っても過言ではないぐらい、すごい人が来てくれる」と率直に語った。ただ、その実績へ依存する考えはないことを強調した。
「桶谷さんが来てくれたから全部やってくれる、勝たせてくれる、チームを変えてくれるということではない。一人ひとりが当事者意識を持って、このチームを何とかしなければいけないという思いが大事だと考えています」

米須は桶谷HCがそれぞれのチームの特徴を生かした戦い方を構築してきたことに注目した。
「琉球と代表では別のチームですし、どのようなチームにも対応して、そのチームの特色を生かしている印象があります」
初練習の際は「少し緊張感があった」と明かしながら、高い実績を持つ指揮官の下でプレーできることを「自分が成長できるチャンス」と前向きに捉えていた。
山内はオンコートでは厳しさと称賛を使い分け、オフコートでは選手とフレンドリーに接する「みんなのお父さんのような存在」と表現した。
自身の武器であるペイントアタックからの判断やキックアウトに加え、3ポイントシュートの精度も高め、試合の中で信頼される選手になることを目指す。
「川崎の選手としてチームの中で結果を残し、評価を得られなければ代表にもつながらない。ハングリー精神を持って、しっかり評価してもらえるように頑張りたいです」
B.PREMIERでは外国籍選手との競争がさらに激しくなることが予想される。
「外国籍選手に負けず、外国籍選手よりも評価されるような選手になることが個人の目標です。チームとしてはまたCSに出て、“強い川崎”と呼ばれるチームを目指しているので、そこで主力になって勝利に貢献したいです」

勝敗を超えて愛されるチームへ
桶谷HCが強いチームと同時に目指しているのが、負けた時にも応援したいと思われるチームだとも語った。
プロスポーツである以上、常に勝ち続けることはできない。だからこそ勝敗だけではなく、選手やクラブそのものに魅力を感じてもらうことが重要だと説く。
「あの選手がいるから見に行く、ずっとチームを支えてきたから応援したいという人はたくさんいると思います。若い選手にも、バスケットがうまいだけではなく、人から愛されることを学んでほしい」
多くのスポーツやエンターテインメントが存在する首都圏で川崎が特別な存在になるためにも、ホームの「東急ドレッセとどろきアリーナ」で全員が心を動かす一つのプレー、一つの試合を積み重ねていく。
目標はまずチャンピオンシップへ進出し、優勝争いができるチームになること。伝統を受け継ぎながら新たな文化を築き、“強い川崎”を取り戻す挑戦は、B.PREMIERの開幕へ向けて動き始めている。
(了)
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