
「簡単には辿り着けない光を見つける」甲子園日本一の教え子がBaseball5に懸ける“継続”
Baseball5の強豪チーム「Spirit Bonds」を立ち上げ、日の丸を背負うなど選手として活躍しながら教育現場での競技普及にも力を注いでいる宮之原健さん。
その歩みを以前から見守り続けてきたのが、宮之原さんが日大三高時代に師事し、2011年夏の甲子園で全国制覇をともに成し遂げた小倉全由さんである。
高校野球界を代表する名将として長年にわたり選手を育て、昨年・一昨年と侍ジャパンU-18代表監督も務めた小倉さんが、宮之原さんの主催するBaseball5交流大会「スピボン杯」を訪れた。
笑顔を見せながら教員たちがコートで躍動する姿を見た小倉さんは、Baseball5の中に野球界が次の世代へつながっていく新たな可能性を肌で感じ取っていた。
(写真 / 文:白石怜平)
教え子が持参した一つのボールから始まった
小倉さんとBaseball5との出会いは、宮之原さんが一つのボールを持って母校を訪れたことがきっかけだった。
バットやグラブを使用せず手でボールを打ち、5人対5人で攻守を展開するBaseball5のルールを教えられると、小倉さんはすぐにその可能性へ目を向けた。
「健がボールを持ってきて、『こういう競技をやっているんです』と教えてくれたんです。それならグラウンドに何面か作って、みんなでやってみようとなりました」

実際にプレーしてみると、野球部員だけでなくマネージャー陣もボールを追い、仲間とともに声を上げて競技を楽しんだ。
「みんな本当に充実した顔だった。これはいいなと思いましたよ」
Baseball5は年齢や性別、野球経験を問わず誰もが同じコートに立てる。また、広いグラウンドを必要とせず、ボール一つがあれば始められる点にも小倉さんは価値を感じた。
体育の授業で野球を行う際は、バットやグラブなど複数の用具が必要となり、安全面への配慮も求められる。一方、Baseball5は手でボールを打つため、教育現場にも取り入れやすい。
「体育の授業でも取り入れられますし、用具にお金がかかるわけでもありません。まずはこれでボールを扱うことを知って、手で打つところから『今度はバットで打ってみたい』『硬式球を打ってみたい』という子どもが出てきてくれたら嬉しいですよね」
テンポの速さや判断の連続も、野球選手にとって有効だと感じている。
打者はファウルや空振りがアウトにつながるため、自ら打つ方向や強さを考えなければならず、守備側も狭いコートの中で瞬時に状況を判断して次のプレーへ移る必要がある。
「バッターも守備も自分で頭を使ってプレーしないといけないので、頭のウォーミングアップにもなりますよね。展開もスピーディーだしいいなと思いましたよ」

「人としてかっこいい人間になる」恩師からの言葉
一方、宮之原さんにとって小倉さんは、野球を教えてくれた指導者にとどまらない。
中学3年時に小倉さんが練習を見に来たことから日大三高への進学につながり、その後は寮生活で3年間寝食も共にした。
2011年夏には甲子園で全国制覇。その過程には苦しい時期もあったが、小倉さんから授かった言葉の一つを宮之原さんは現在も胸に刻んでいる。
現在はSpirit Bondsの代表を務めながら、自身も現役選手として頂点を目指す。立場は変わったが、組織づくりの根底には恩師から教わった考えがある。
「組織を作る中で、豊かな人間性や熱量は大切なポイントと考えています。代表として各選手の良さを引き出して輝いてもらうことを日々考えていますし、チーム活動を通じて心身の成長を重ねてもらいたい願いがあります」

勝つことだけではなく、その過程で一人ひとりが成長する。宮之原さん自身も選手として同じコートに立ち、プレーや日々の姿勢でチームを牽引する。
「私自身も選手を本気でやっています。プレーでチームを引っ張りながら、人柄や日々の活動での発言・背中を見せることで、チームをさらなる高みへ導けるようにしていきたいです」
高校時代に受け取った言葉は、競技や立場が変わった今も、Spirit Bondsという組織の中に息づいている。
野球人口減少の中で感じた「入口」としてのBaseball5
現在、小倉さんは日本高校野球連盟の技術振興委員を務め、競技人口の減少という野球界全体の課題にも向き合っている。
委員の間では、「10代で年に一回以上野球をする人の推計人口が約20年間で半減している」という調査結果も共有され、野球の魅力を次世代へどのように伝えていくか議論が重ねられているという。
「裾野を広げるというよりも、まず野球に興味を持ってもらわなければいけないと思うんです。小さい頃から何かきっかけをつくり、今野球をやっている子には、中学や高校でも続けてもらえるようにしなければならないです」

今回のスピボン杯は教員を対象に開催された。学校現場からBaseball5を広げようとする教え子の活動は、子どもたちがボールに触れ、野球へ関心を持つ一本の道になるのではないか。
開会式で小倉さんは、参加した教員たちへこう語った。
「スポーツが多様化し、好きなスポーツを選んでやることは本当にいいことだと思います。その中で、野球の素晴らしさももっと伝えていかなければいけない。Baseball5はそのためにも素晴らしいスポーツだと思います」

その言葉を聞いた宮之原さんも、“野球の入口”という恩師の捉え方に共感すると共に、こう願いを込めている。
「Baseball5を通じて、スポーツを好きになる子や家族や友達とスポーツをする時間が増えて、その結果笑顔や健康になれることが一番だと感じています。そしてBaseball5をすることで、野球をする子が増えることは大変喜ばしいことだと考えています」
小倉さんはどちらか一つに限定するのではなく、子どもたちがさまざまなスポーツを経験し、野球につながる可能性があるとしてBaseball5を捉えていた。
「先生方からボールを追う楽しさや、みんなでいい顔をしてプレーできるスポーツだということを伝えていただけたらと思います。
先生方が楽しさを伝えていただいたら、子どもたちもさらに楽しさを覚えてもらえると思います。私もBaseball5の素晴らしさをさらに知って、また広めていきたいです」

教員たちの姿に「自分も入りたくなった」
競技が始まると、小倉さんはコートのすぐそばから教員たちのプレーを見守った。
普段は子どもたちを指導する先生たちが、この日は一人の選手として勝負へ向き合う。試合の合間には作戦を話し合い、コートに入れば全力でボールを追い、得点を挙げれば仲間と喜びを分かち合った。
閉会式では、相手の好プレーにも拍手を送り、最後は互いに笑顔で終わる姿勢を甲子園でも目指していると語った。
「スポーツの良さや、今日の皆さんの笑顔を子どもたちへ伝えてもらいたい。いい汗をかき、いい顔で何度でも一生懸命に取り組むことを伝えていってください」

大会終了後も、小倉さんは教員たちの熱気に心を動かされた様子で一日を振り返った。
「みんなが熱くて、本当に素晴らしい顔をしていました。スポーツはこうでないといけないなと思いましたし、見ている自分もあの中に入ってやりたくなりました。それが一番いいですよね」
やって楽しく、見ていても楽しい。年齢を重ねてもプレーでき、成功した時には達成感も得られる。初めてスピボン杯を見届けたことで、小倉さんの中にあったBaseball5への期待は確信へと変わっていた。
「まずはボールを扱うことが楽しいと知ってもらいたいです。サッカーでも、ほかのスポーツでも、いろいろ経験すればいい。その中で『自分は野球をやりたい』『今度はバットで打ちたい』という子が一人でも増えてくれたら嬉しいですね」

高校野球で培った「継続」をBaseball5へ
高校野球界で長く指導を続けてきた恩師と、その教えを胸にBaseball5を広げる教え子。二人をつなぐものは、競技だけではない。
宮之原さんは、高校時代の経験と現在の普及活動には“継続”という共通点があると語る。
「継続することで、簡単には辿り着くことのない光を見つけることです」
日大三高時代、結果が出ない日も悔しい思いをした日も、成長した自分を想像しながらバットを振り続けた。その積み重ねの先に新しい自分と出会い、甲子園優勝へとつながった。
そして今、舞台はBaseball5へ変わった。
「Baseball5の発展を願い、とにかく広げる活動を継続的に続けることや、熱意を持って人と接することを心がけています。うまくいかないことが多くても前を見続けて、このスポーツの魅力を一人でも多くの方々に伝えたい想いで形にしています」

一つのボールを持って母校を訪れたことも、Spirit Bondsを立ち上げたことも、学校や地域へ足を運び続けていることも、その積み重ねの一つである。
かつて小倉さんとともに、簡単にはたどり着けない甲子園の頂点を目指した宮之原さん。
今はBaseball5という新たな舞台で、恩師から受け取ったものを自身の背中で次世代へ伝えながら、その先にある新たな光を追い続けている。
(了)
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