
“引き合う力”がバッティングを変える 元中日・谷沢健一氏が子どもたちに伝授した「打撃の極意」
元中日の谷沢健一氏が「第32回 シグマイン全国少年少女野球教室 2026」に講師として参加した。出身地である千葉県で行われたこの野球教室で、通算2062安打をマークした技術を惜しみなく伝授した。
(写真 / 文:白石怜平)
バットを握るのは主に三本の指
会場となった市川市の国府台スタジアムには同市の全チーム、小学3年〜4年生100名以上が参加した。大勢の少年少女たちが目を輝かせながら囲んだ先にいるのは、伝説の強打者・谷沢健一氏。
セ・リーグ首位打者2回・最多安打1回を獲得し、通算2062安打を放った球史に残る大打者による特別講義は、指導者からも熱い視線が送られる。

沢氏はプロの世界にも通ずる「二つの基本」を交えながらバッティングの楽しさを説き、次第に熱を帯びながら語りかけていった。
「みんな、バッティングは好きだろ? 大谷翔平選手みたいになりたい人!」
冒頭、谷沢氏の問いかけに子どもたちの手が元気よく挙がった。その活気を肌で感じ、時折笑顔を見せながら最初の一歩であるバットを握る上での重要性から説明を始めた。
「バットをギュッと全体で強く握っちゃダメなんだ。そうすると肩や腕に力が入りすぎて、バットが走らなくなる。私が振っても音もしないだろ?親指と人差し指に力を入れると、肩までガチガチに固まってしまう」
自ら振って実演した谷沢氏は、力を入れすぎることの弊害を濡れたタオルを絞る動作に例えてさらに説明した。
「人差し指と親指は軽く添えるだけ、あと三本の指でタオルを絞るような感覚で握る。そうすると、人差し指と親指に余裕ができる。 八分くらいの力でいいんだよ」

余裕を持って握るからこそ、スイングの瞬間にヘッドが加速する。谷沢氏が軽くバットを振ると、空を切る音が響いた。
「そういう感覚で振ればバットは速く振れる」
それを見た子どもたちは、自分のバットを持つようにチェックする姿も見られた。
タイミングで力を発揮する“引き合う”メカニズム
次に話題が及んだのは「タイミング」の取り方。谷沢氏は“一・二・三”と単調にリズムを取るだけでは、三振が増えてしまうと警鐘を鳴らした。
そこで伝授されたのが、バットを“引く”動作だった。
「タイミングの取り方は大きく分けて二つある。どちらを選んでもいい。大事なのは、上半身と下半身がゴムのように引き合っていること」

一つ目の方法は自分の胸の前でバットを構えた状態でグリップを捕手方向へ引き、腰を投手方向へ踏み出していく形だと述べる。
「下半身と上半身が引き合うことで、バネのような力が溜まる。あとは頭や手が動かない。動いてしまうと体が突っ込むから、一つの球種しか合わない。引き合えればインサイドもアウトサイドも、幅広いコースを見極められるようになる」
二つ目の方法はあらかじめ引いて構えておき、踏み出す足を少し“ねじる”ことでタイミングを取るやり方である。
「大谷選手や吉田正尚選手・鈴木誠也選手のように、引いて構える。そこから足をねじってあげることで、さっきと同じようにゴムが引き合う力が生まれる。少し高く構えながら下半身をひねって、ステップする。そうすれば、目がブレずにボールを捉えられる」

講義の終盤、谷沢氏はそれを裏付けるエピソードを一つ披露した。
「あるプロ野球選手はね、小学校一年生の時にこの『引き合う』動作を覚えた。君たちはもう三、四年生だろう? 一年生でこの基本を身につけた彼は、後にプロで三冠王を争うような打者になったんだよ」
基本を覚えるのに早すぎることはない。むしろ、若いうちにその基本を体に染み込ませられれば、より早くポテンシャルを開花させる可能性は高まる。
谷沢氏の言葉には長年プロの世界で戦い、多くの打者を見てきたからこその重みがあった。
「引き合っていれば、どんなボールにもバットが出せるし打率も良くなる。三振ばかりしていては、ここにいる監督たちもなかなか試合で使ってくれない。チームに欠かせない選手になるために、今日言ったことを忘れないで覚えておこう」

講義の後は早速実践へ。ティーバッティングやロングティーで全員が振り込み、その教えを体で覚え込ませる。伝説の打者が授けた金言の数々は、球場に快音を導き出していた。
市川市の少年野球を熟知するOBからメッセージ
守備も含めて約3時間という濃密な野球教室の最後、武藤一邦氏が挨拶を行った。武藤氏は国府台スタジアムや市川市少年野球連盟のアドバイザーを務めており、市川市の少年野球に関わりが深い一人である。
子どもたちに向けて、将来へ見据えたメッセージを寄せた。
「今日たくさんのことを教わったと思います。日頃チームで教わってることと一緒のものもあったのではないでしょうか。それは基本だからです。『基本が大切なんだ』というのを改めて、今日感じてもらえれば嬉しいです。
あともうひとつ。野球を教わったのもそうだし、“野球から教わったこと”もたくさんあったと思います。挨拶やキャッチボールの時の思いやりなどね。野球からもっと多くのことを教わってください。
みんなが大きくなった時に、野球から学んだことは財産になります。ですので頑張って野球を続けてください」

力を抜くことで生まれるスイング、引き合うことで生まれる力。その一つひとつの教えは、単なる打撃技術にとどまらず、成長の本質を示していた。
この日、子どもたちが受け取った数々の財産は、これから歩んでいく未来の可能性を広げていく。
(了)
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