
栗山巧がライオンズに残すもの「PR1DEシリーズ」が築く球団の新たなレガシー
8月30日に行われる栗山巧選手の引退試合。この日を締めくくりとして、シーズン開幕から「PR1DEシリーズ」と銘打ち様々な企画が行われている。
「1年間かけてシリーズとして行うことで、ファンに還元できる機会をたくさん作りたい」
そんな栗山選手の感謝が詰まった球団史上初のプロジェクトは、さまざまな想いが交差することでライオンズの未来への礎になろうとしている。
後編では栗山選手の人柄や球団の抱く使命感にフォーカスし、前編に引き続き、事業部の栗原一彰さんに話を伺った。
(取材 / 文:白石怜平、表紙写真:©SEIBU Lions)
背番号「1」が放つ勝負師としての姿
栗原さんはPR1DEシリーズの企画もあることから、今季は特に会話をする機会が増えたという。ロッカーの栗山選手の元に通う中で、改めて感じられたことがあった。
「私は(栗山選手と)打ち合わせのないタイミングでもロッカーにいるのですが、プレーに集中してる時の栗山選手の顔と、打ち合わせに入る時の栗山選手の顔が全然違うんです。それは改めて感じました」
厳しい勝負の世界に身を置き、競争を続けてきた。さまざまな想いを背負って日々戦いに臨む姿からは、近寄りがたいオーラを間近で感じていた。
ただ一度その状態から離れると、ライオンズをファンに愛され続けるチームにする“同志”として惜しみなく時間やアイデアを提供してくれる。栗原さんはプロ野球選手として、そしてライオンズの一員としての姿の両面をこのように語った。
「ここが栗山選手だなと思うところがありまして、今季がラストシーズンと決めていますが試合に向かっていく時の表情が本当に変わらないです。ただ、打ち合わせをする時は事業側に寄り添ってくれて意図を汲み取ってくださるんです。
あの姿を見て、プロ野球選手としてオン・オフの切り替えをしながら、シーズンに向かって戦ってきたのだとすごく感じました」

ファンが選ぶ一打にあった秘話
PR1DEシリーズでは栗山選手の25年の軌跡をファンと共に振り返り、再び感動を思い起こす企画が用意された。
それが“心に残る栗山選手の1シーン”を投票するというもの。
・17年の炎獅子ユニフォームで放った代打サヨナラ3ラン本塁打(8/17・東北楽天戦)
・2021年のライオンズとしては生え抜き初の通算2000本安打達成(9/24・東北楽天戦)
・22年の代打サヨナラ本塁打(5/29・DeNA戦)
これらがベスト5にランクインした中、1位に輝いたのが24年の代打逆転2ラン本塁打(8/31・北海道日本ハム戦)だった。
1点ビハインドで迎えた8回裏。2アウト3塁のチャンスに代打で打席に立った栗山選手。初球のストレートを振り抜くと、打球はライトスタンドへと飛び込む逆転2ラン本塁打に。
チームが苦境に立たされていたシーズンの中、ミスター・レオが一振りで試合を決め、ベンチそしてスタンドが歓喜に沸いた試合だった。

本企画がスタートする段階で、「私もこの試合じゃないかなと思いました」と語った栗原さん。その理由が「実はこの日、栗山選手が小学生たちを招待したんです」と、試合前にあったエピソードを明かしてくれた。
「栗山選手は今も社会貢献活動を継続しているのですが、(栗山選手に)よくファンレターを送ってくれる子がいるんです。その子から、『またみんなと野球を観に行きたいです』という手紙が6月上旬辺りに届いたんです」
栗山選手はその子どもたちをこの試合に招待し、試合前にもスタンドで直接交流を深めていた。
14年に球団初のゴールデンスピリット賞を受賞するなど社会貢献活動には力を入れており、その姿勢を長く間近で見てきた栗原さんだが、この時だけは普段と違ったシーンがあったという。
「子どもたちに『今日打つから、あと勝つから!』と言っていたんですよ。普段、社会貢献活動の時に“打つ”とか“勝つ”とか成績に関することって言わないんですけども、その日は言ったことをすごく覚えてて」

そして、有言実行の一打。自身の本塁打で勝利に導いて見せた。言葉に表しきれない感情と共に栗原さんが引っかかっていたあの“疑問”をやんわりと本人に質問した。
「翌日栗山選手に会った時『昨日の試合良かったよね?子どもたちもすごい喜んでくれて、本当嬉しかったよ!』って話されていました。
その時に『普段栗山さんって、社会貢献活動の時に打つ・勝つなど成績のことを言っていないですけど、昨日は言って本当に打ちましたね!』って言ったら、『そういえば、そうだね(笑)』と。
でも本当に打ったのがすごくて。うん、あれは忘れられないです」

ライオンズの”レガシー”を次代へと継承する意義
PR1DEシリーズは、ファンと共に栗山選手の功績を振り返るものだけではない。この取り組みそのものがレガシーとして、ライオンズの歴史を継承する特別な意義がある。栗原さんはシリーズを通じて感じていることを述べた。
「ファンの皆さんに感謝を伝える場を今回のPR1DEシリーズで少しずつ形にできている実感はあります。
栗山選手が話しているのは『今在籍している選手や、これから入団する未来のライオンズの選手に対して示せるものを示していきたい』と。それは事業側も同じ考えを持っています」

ライオンズ一筋、25年もの年月を積み重ねてきた。生え抜き選手としては初の2000本安打も達成した功労者に球団がどう報いるか。その姿勢を示すことは、未来のライオンズに明るい未来を照らすことにもつながる。
このシリーズは、栗山巧という偉大な野球人を送り出すだけでなく、球団の文化を次代へつなぐためのプロジェクトでもあった。
栗原さんは「PR1DEシリーズが、ライオンズの今後の土台になる取り組みにしたい」と未来を見据えながら、その使命感と感謝を語ってくれた。
「長い間貢献してくれた選手に対して球団が報いるというのは、やはり我々はしっかりと示すべきだなと改めて考えています。球団そしてファンのみなさんがそう思えるきっかけを栗山選手が与えてくれたのだと、本当に感謝しています。
選手と球団そしてファンの皆さんがお互いに感謝し合える場面を作るっていうのも我々球団の役割でもあると考えています。まだシリーズは途中ですが、これからも発展させていきたいです」

4月と6月の2回を終え、残すところはいよいよ8/28(金)〜8/30(日)のファイナル。最終日は栗山選手の引退試合が設定されている。
球団としてこのシリーズをどんな形で締めくくりたいか。栗原さんはその問いに対して、球団の代表としてメッセージとして寄せた。
「球団が一人の選手に 1年間かけて取り組みをするってなかったと思います。球団が選手のことを真剣に考え、ファンの皆さんと選手の絆を繋ぐ役割を果たすこと。そして栗山選手が伝えたいことをこのシリーズを通じながらそれぞれの思いで受け取っていただいけたら嬉しいです」
一人の偉大な打者が、25年間の現役生活に別れを告げる。背番号「1」をシーズン通じて見送る物語は、栗山巧という男が築き上げたものとそれを支える裏方たちの情熱、そしてファンの感謝が交錯する場所である。
この壮大なプロジェクトが幕を閉じた時、ライオンズには誇り高い一体感が満ち溢れ、未来への新たな道標が築かれている。
(了)
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