
西武ルーキーが挑む「獅考トレーニング」 育成現場で磨かれる“主体性”と“言語化能力”
埼玉西武ライオンズの新人選手たちが、“考える力”を磨く時間を過ごした。
球団が継続して実施している「獅考トレーニング」。今季も新人選手を対象に行われ、今シーズンの初回は「目標設定」と「アクションプラン」をテーマにしたワークが実施された。
約1時間半にわたる講義とワークを通じて、「どんな選手になりたいのか」「そのためにどんな道のりを歩んでいくのか」などを自ら構築する第一歩を踏み出した。
(取材 / 文:白石怜平、表紙写真:球団提供)
主体性や言語化能力向上を目指した育成プログラム
ライオンズが毎年実施している獅考トレーニングは、主体性や言語化能力を身につける独自の人材育成プログラムとして2021年から行われている。
入団1・2年目の選手を対象にしたこのトレーニングは当然ながら研修を実施して終わりではない。グラウンドでアウトプットを重ね、研修の目的かつ選手たちの目標である一軍の舞台へと繋がっている。
主な投手では昨年ブレイクした山田陽翔や菅井信也、そして4月30日に支配下登録を果たし先発ローテーションの一角に入る佐藤爽。野手では滝澤夏央や長谷川信哉らが台頭しており、着実にその力を伸ばしている。
“自ら考え、行動する”ライオンズの選手育成。その現場における現在地と、獅考トレーニングの全体像を語る上で欠かせない存在が、三軍チーフコーチを務める青木智史氏である。

青木コーチは23年に人財開発兼育成担当としてライオンズに入団し、24年からはユニフォームを着てグラウンドから若獅子たちの成長をサポートしている。
現在三軍の指揮を執る青木チーフコーチは、選手育成で大切と考えるポイントと成長する選手の特徴を明確に示している。
「主体的に自ら行動を起こせる選手を育成することと、言語化能力を伸ばすこと。私はそこがとても大事だと考えています。自分がどうなりたくて、そのために何が必要で、誰にどう声掛けをして、そして行動するのか。そこが明確な選手とそうでない選手の差は大きいです」
ライオンズの育成現場には技術指導を行うコーチの他に、トレーニングやデータ解析、栄養面など各分野のスペシャリストが揃っており、選手が成長するための環境が整備されている。
その環境を活かすためにも、選手自身の言語化は欠かすことのできない要素になる。
「これだけのサポート体制が揃っているわけですから、自分が何をしたいのかを発信できなかったら、何も活用できなくなってしまいます。
チームの中心は選手ですし、選手たちからの情報発信量を増やすことで周囲も手伝えることがたくさん出てくるので、組織としてWin-Winの関係にも繋がってくると考えています」

現在、ライオンズには育成選手含め101人の選手が在籍している。青木コーチを含めて球団は、この101人全員が成長できるよう考えながら指導に当たっている。
「20人いたら20人成長すれば、それが一番いい。そのきっかけをどれだけ与えられるかが大事だと考えて日々向き合っています」
今季のルーキーはシーズンイン後に受講
5月、一軍登録者を除く今季のルーキーを対象に第1回目の獅考トレーニングが開催された。
例年はシーズン開幕前までに行われていた目標設定だが、今季は開幕から約1ヶ月半後に実施。キャンプから実戦までを一通り経験し、自分の現在地を掴んできたタイミングだからこそ、より現実的な目標設定ができる狙いがあった。
講師を務めたのは、カルチャーデザイナー兼人財開発を担当する坂田賢二氏。初年度から講師を担当しており、今一軍で活躍する上述の選手たちの成長も入団当初から後押ししている。

坂田氏は冒頭、選手たちに向けて取り組みの目的を明確に説明した。
「このトレーニングは、皆さんが一軍で活躍できる選手になってもらうためにやっています」
獅考トレーニングは単発の講義ではない。シーズンを通じて継続的に行われるプログラムであり、今回はその第一回目にあたる。
5月は目標設定とアクションプランを作成し、以降シーズン終了までに2回行われる予定。最終回にはシーズンの振り返りを選手自身が言語化し発表する機会も設けられている。
本講義の前半では、野球をする上で必要な“心・技・体”を支えるための「土台」の重要性を理解する時間になった。
主体性や課題発見力といったスキルはプロ野球選手といった職種問わず、一人の社会人として生きていく上で不可欠なものであると説く。
そして日々の成長サイクル(考える→鍛える→試す→振り返る)を正しく回すためのマインドセットも提示。その中には、青木チーフコーチも挙げた他者の力を借りることも含まれていた。
「皆さんはプロであり、一人一人が経営者です。周りもプロが囲んでくれて、皆さんが一軍で活躍するためのサポートを全力でしてくれます。ただ、これを生かすかどうかは皆さん次第です」

坂田氏からの言葉に、受講する選手たちの表情が徐々に引き締まっていった。
「情報収集して、自分で考えて、最後に自分で決める。アドバイスはもらうんだけど、周りのことを任せっきりにしない。ここには大きな差があります。“任せること”と“任せっきりにする”のでは大きな違いがあります。皆さんの人生は皆さんがオーナーであり、主役なんです」
アクションプランは“選択と集中”がポイントに
講義後半では、メインテーマである目標設定へと移っていく。目標を立てるにあたってまず整理したのが、“目的”と“目標”の違いである。
「目的は最終的に成し遂げたいこと。目標はそこへ行くための道しるべです」
なぜ野球をするのか。何のためにプロ野球選手になり、その先ではどんな未来を描くのか。単に「一軍で活躍したい」だけではなく、「その先に何があるのか」を考えることが重要だと坂田氏は述べた。
「一軍でレギュラーを獲ったら自分の生活はどうなるのか。家族はどんな表情でどんな生活になるのか。 友達は?高校の恩師は?さらにはファンの方やチーム、そして野球界や社会がどう変わるのか。
スポーツにはいろんな力がありますよね。例えば埼玉や所沢の地域に一体感や活力が生まれますし、絆を育む力がスポーツにはあります。
つまり、プロ野球選手である皆さんには社会を変える力があるんです。そんなことも頭の片隅に入れながら『自分は何のために野球をしているのか』『何のためにプロ野球選手になったのか』といった部分に想いを巡らしてほしいと思います」

その上で選手たちは自身の現在地と数年後の理想像を書き込み、今季や数年後の目標を数字を交えながら具体化していく。真剣な表情でペンを走らせながら、人財開発スタッフと確認しながら進行した。
目標を立てた後は、その実現に向けたアクションプラン作成へ。ここで坂田氏が伝えたのが、“選択と集中”の重要性であった。
目標との間には必ずギャップが生まれる。しかし、その課題を全て同時に解決しようとしても、人間の脳には限界があると説明する。
「さまざま課題が目につくと思うけれども、時間もパワーもそして脳も有限です。限界を超えて取り組もうとしても脳が追いつかず拒絶してしまいます。
なので選択と集中が大事になります。ただ、絞るってなると手抜きとかサボりに思えてしまうこともあるかもしれません。
でもこれは、脳科学的に最良の形で上達するための戦略なんです。 絞ることは手を抜くということではないんです」

選手たちは目標に沿ったアクションプランを自ら考え・設定しながらワークシートを埋めていった。
アクションプラン設定に向けて設けられたワークの時間は30分。「おそらくこの時間だけでは仕上がらない」とした坂田氏は、完成に向けてこのようにおさらいした。
「先ほど伝えた、他力をうまく活用してください。その紙を持って『こんな目標を立てたのですがどうでしょうか』『こんなアクションプランを立てたんですけどどうですか?』といった会話をコーチやトレーナーともぜひしてください。やるかやらないかで精度が大きく変わってきます」
最後に選手たちから初回を終えての気づきを数名シェアした。4人ほど述べた中で共通していたことは、言うだけではなく書くことでより目標や行動への意識が増したというものだった。
安藤銀杜(ぎんと)選手は「目標を書くことで何が重要な項目なのかが分かりましたし、期限を決めることで毎回の練習の質や取り組み自体が変わるので、自分にとってすごくいい時間になりました」と、濃密な研修を振り返った。

今回参加したルーキーは目標とアクションプランを定めた後、人財開発担当との面談を通じて進捗具合を確認する。“育成のライオンズ”が誇る源泉が今季もチームの裾野を拡大させ、常勝軍団の礎を築く。
(了)
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