
「データ活用の民主化」が野球を変える。FastBallが描く世界観“誰もが夢を掴める野球界に”
かつて、野球の上達は「感覚」に委ねられていた。指導者の言葉も、「もっと腕を振れ」「しっかり体を使え」といった抽象的な表現に留まることが多かった。
しかし現代では、その前提が大きく変わっている。野球では特にプロの現場で広がりつつある“データによる可視化”が浸透している。
その価値をアマチュアの現場へと展開しているのが、ライブリッツ株式会社が提供する「FastBall(ファストボール)」のデータ計測サービスである。
本編では実際の計測現場を通じ、プロによる考えや想いとともに、このサービスがもたらす変化の本質に迫る。
(写真 / 文:白石怜平)
“現在地を知る”データが導く成長の入口
本計測では、BLASTやRapsodoといった計測機器を用いて選手のプレーを数値として可視化している。
中学生では軟式野球部や硬式野球チーム(ボーイズリーグ・シニアリーグ・ポニーリーグ)、高校・大学・社会人さらには女子野球などのアマチュアチーム全てが対象で、練習拠点へと訪問し計測を行う。
投球では球速や回転数・回転軸・リリースポイント、打撃ではスイング速度や打球速度・打球角度など、これまで感覚で捉えられていた動作の中身を具体的な数値に表す。
この数値は単なる記録ではなく、“今の自分がどこにいるのか”を知るための現在地として把握するものである。

そしてもう一つ、このサービスの大きな特徴は、計測だけで終わらない点にある。取得されたデータはその場で分析に精通した専門家が選手一人ひとりにフィードバックし、以降の指針を示してくれる。
データを正しく理解することで目標や指標を明確にし、競技力向上へと繋げることができる。 計測並びに指導を行うのは、投手では久古健太郎氏・打者では志田宗大氏。かつて東京ヤクルトスワローズでプレーしていた元プロが担当している。

久古氏は2011年に当時のセ・リーグ新人記録の22試合連続無失点を記録し、ルーキーイヤーから頭角を表す。15年には14年ぶりのリーグ優勝に貢献するなど、貴重なリリーフ左腕として活躍した。
志田氏は02年に入団以降、外野手としてリードオフマンを担うなど9年間プレーした。
10年に現役を引退後はヤクルトのスコアラーを務め、16年・17年は侍ジャパンのスコアラーも担当。17年にはワールド・ベースボール・クラシック(WBC)でもチームの頭脳として選手たちを支えた。
18年から24年まで巨人、25年は中日に在籍し、アナリストとしてプロ野球界におけるデータ分析を浸透・開拓してきた。
アマチュア選手の可能性を見出す”計測”
本サービスは昨年3月、久古氏により立ち上げられた。ゼロから構築するにあたっては、ある強い想いがあった。
「プロ野球をはじめとする一部のトップチームでは、データ活用によるパフォーマンス向上が目覚ましい一方、アマチュア球界の多くは取り残されているのが現状です。
高額な測定機器の導入費用や、データを読み解く専門人材の不足が大きな壁となっています。
『環境の差で選手の可能性が閉ざされてはいけない』という想いから、経済的な負担を最小限に抑え、どのチームでも手軽にデータ計測・分析を行えるサービスを立ち上げました」

2月末に久古氏と志田氏が訪問したのは、東京都の中学硬式野球チーム「国分寺シニア」。入部予定を含む20名近くの部員を対象に一人ひとり計測を行った。
最初にメニューである打撃データの計測に臨むに当たって、久古氏が「一番大事なのは打球速度です」とし、その目安となる指標と根拠を伝えたうえで計測がスタートした。
ここからは志田氏が全員のスイングと数値をチェック。打球速度やアッパースイング度について、丁寧に説明しながら上達に向けた方向性を提示した。
「プロ野球選手もメジャーリーガーも下からバットは入ってくるんだけども、平均すると(水平を0°として)下から10°くらい。
最初出たのは20°くらいだったので、途中で『少し上を見て打ってごらん』と言ったら15°になった。スイングは意識しないと(右打者であれば)右肩が下がってしまう。
スイングの動きとしては、上から入ってレベル、最後はアッパーで接触するからこの出だしの動きを意識してみよう」
数値を用いて「スイングスピードを上げていこう」などと伝えた志田氏は、ただ方向性を示すだけでなかった。
「下半身を回す動きが必要になる。体が回ることでスイングスピード上がるから、ぜひやってみてください」
と技術面のアドバイスも送ることで、数字の理解を一層浸透させた。


そして投手部門は久古氏が担当。投球フォームと球筋を見ながら計測されたデータを元にアドバイスを送る。その助言も考え抜かれたものであった。
「選手の習熟度やレベルに合わせ、伝える情報の「解像度」を調整しています。例えば、基礎技術が未成熟な選手にアームアングルやスイング軌道の細かな数値を伝えても、逆に混乱を招く恐れがあります。
そうした選手には、スイング速度や打球速度といった直感的に理解しやすい指標を提示し、同年代の平均値と比較しながら『まずはここを目指そう』という具体的な目標設定を促すことに主眼を置いています」


これまで「なんとなく」言われていたことが、数字によって裏付けられる。
感覚だったものが、数値になって言葉として選手たちの腑に落ちていく。そのプロセスこそが、このサービスの価値をより高めるものになっている。
データが促す指導者のアップデート
データ計測による変化は、選手に向けたものだけではない。指導する側にも大きな影響を与えている。志田氏は計測途中にチームの指導者と長い時間言葉を交わしており、その一部を明かしてくれた。
「昨今における指導の変化について話しておりました。厳しくてもダメ・優しすぎてもダメ。
多感な時期なので個々に合わせた指導が必要と現場の方たちも感じていましたし、実際に話を聞かせてもらった際も『指導者もアップデートが大切ですよね』と話しておられました」
各所に赴いた際は選手だけでなく指導者からも相談を受ける機会が多い。その話を受けて感じたこと、また今後に向けた課題を志田氏に問うと以下のように答えた。
「一つは上述の通り“アップデートしていく”こと。もう一つは信念を持つことだと思います。一見相反するように見えるかもしれませんが、軸を持ちながら柔軟に発想することが必要ではないかと。そして、指導者は絶対ではなく、選手の良き伴走者であるべきとも考えています」

約2時間半を使った計測は、チーム全体にとって新たな発見の連続だった。これまで感覚的に伝えていた内容が、データによって裏付けられることで、以降の練習は精度が上がったものへと進化する。
計測は選手と指導者をつなぐ共通言語を生み出すことを改めて示した。

今後は地方へと拡大のフェーズへ
野球は今、大きな転換期を迎えている。感覚だけに頼る時代から、データと共に成長する時代へ。だが、それは感覚を否定するものではない。
むしろ感覚を言語化し、再現性を持たせるための手段としてデータが存在する。この計測サービスは、年代問わずデータやその活用を身近に感じられることが魅力の一つである。
今も幅広いカテゴリで計測を行っている2人に今後の展望を聞いた。
「対応エリアを拡大し、より多くの選手にサービスを届けたいと考えています。現在は首都圏を中心に活動していますが、地方ほどデータを計測できる環境が不足しているのが実情です。
地理的な制約に関わらず、志あるすべての選手がデータを活用して自身の成長を加速させられるよう、支援の輪を全国へ広げていく計画です」(久古氏)
「データは、現在の自分の能力を知る物差しのような存在です。“なんとなく”ではなく数字で示すことによって基準が生まれ目標ができる。そんなサイクルを構築していきたいです」(志田氏)
野球界の裾野に新たな風を吹き込んでいる「FastBall」のデータ計測サービス。今後もアマチュア球界に新たな可能性を切り拓くべく、久古氏は抱く志を述べた。
「一言で言えば“データ活用の民主化”です。一部の恵まれた環境にあるチームだけでなく、誰もがデータを武器にできる野球界を目指しています。
効率的な練習によるレベルアップはもちろんですが、隠れた原石を可視化することにも注力したいと考えています。
これまで見過ごされてきた才能を数値で証明し、スカウティングなどにも活用してもらうことで、誰もが夢を掴めるチャンスがある世界を創っていきたいです」

そして、プロ野球や世界の舞台でデータを武器に戦った経験をアマチュア球界にも還元している志田氏。
「『野球って素晴らしきスポーツだ!』と思ってもらえるよう、1人でも多くの選手たちをサポートしたいです」と、今後への想いを語った。

「何となくいい感覚だった」とその時限りで終わってしまうかもしれないものを、「この数値だったから伸びしろが見えた」と定着する力に変える。
その積み重ねが、安定したパフォーマンスを生み出すことにつながっている。FastBallのデータ計測サービスはその入り口となる門戸を広く開いている。
偶然ではなく、必然で結果を出すために。現場で起きていたのは、単なる技術の導入ではなかった。野球界での通説が書き換わっていく瞬間だった。
(了)
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